守護神降臨祝祭
前日から午前中まで絶えることのなかった騒ぎ声が、祝祭本番になると途端に静かになっていく。
普通逆でしょ...
守護神の降臨台は、白く塗装された大きな石に、金やら銀やらで飾りが施された、十数歳の僕にはとても重い造りだった。
これに立たなきゃ行けないのか...
儀式が近づくと、司祭?のような人が前へ出て、意味のわからない言語で話し始めた。
そろそろ、空で降臨の準備をしておくか。
人気の無い路地裏に行き、お決まりの魔法で空へ飛ぶ。
上から見るメガロス帝国は、とにかく大きく、栄えていた。
国の中央に、数万人の人が集まっている。
ハネストは、降臨台のすぐ近くに前列の方で軍隊長として並んでいる。
みんな、僕を見るために...
やばい、胃が終わりそう...
もう行って良いのかなこれ。
まあいいか、行っちゃおう。
死神の正装を着て、死神の大鎌を召喚した。
そうして空から降りようとした途端、メガロスの街に、攻撃魔法が数発飛んできた。
街の人達は慌てふためき、軍隊は状況確認のために走り出した。
司祭は、守護神の降臨に祈り続けている。
「え?」
急なことに驚いて呆然としていると、遠くの方に数え切れない量の攻撃魔法が見えた。
やばい、襲撃だ!
「バリアフィールド」
とりあえず、メガロス帝国全域にバリアを張った。
これで、ある程度の攻撃なら防ぐことが出来る。
まずは、敵の情報を集めないと。
と思ったが、敵は、自らメガロスへ突っ込んできた。
それは、一人の少女と、それに続く大量の悪魔だった。
「我が名はビアー・デーモン」
「悪魔王様からの勅命で、メガロス帝国を滅ぼしに来た」
「最期の祭りを存分に楽しむといい」
「ん?あれ?なんで街が無事なのだ」
「これは、魔法障壁!?」
「こんなに大きな魔法障壁を張れるのなんて、悪魔にもほとんど居ないぞ」
「誰だ、こんなのを張ったのは」
よく喋るな、丁度いいし、これを初登場にするか!
声量拡張魔法を使って、
「私の名はヘルフェン・カリタス」
「この世界の守護神となる死神だ」
「守護神だからといって、一瞬でこんな魔法を使うなど、聞いたことがないぞ」
「ここは神にとって重要な世界、それ相応の守護神がいるに決まっているだろう」
「なんだと...」
「ま、まあ良い」
「お前をやれば終わること」
「悪魔王様直轄の軍の隊長である私を舐めないことだな」
魔法障壁の存在を知り、街の人達どころか、軍隊の人達、司祭さえもこちらを眺め始めた。
守護神の力を見せるやられ役になってもらうよ。
まずはビアーとかいう悪魔の部下から。
最近思い付いた魔法の実験台になってもらおうかな!
「デスインフェルノ」
炎属性魔法と死神属性魔法を掛け合わせた、対悪魔に効果抜群!のはずの魔法。
案の定、例の部下の悪魔たちは一瞬で燃え尽きた。
まあこれだけでも十分力を見せられたはずだけど、この悪魔を放置しておく訳にもいかないし、倒すか...
「な、なんなんだお前!」
「今のはどんな魔法なんだ!?」
ちょっと聞かれちゃまずいから、近くに寄らせてもらおうか。
「そんなの知らなくていい」
「どうせお前は今から消えるんだから」
「部下達と同じ魔法で燃やしても良いが、それはさすがに野暮というもの」
「ここは一つ、花火でも打ち上げてしまおうかな」
「ファイアバースト」
その夜、守護神降臨祝祭の最後を締めくくる、華やかな火花が空に舞い、ヘルフェン・カリタスは、バシレイアの守護神として、人々の心に刻まれた。
祝祭翌日。
疲れた...
顔は隠してたから、普通に街を歩いても問題は無いと思うけど、何となく視線が怖い。
「ヘルン、見つけた!」
「わぁぁ、びっくりした」
「へへぇ」
「帰る前にメガロス帝国を回ってみる?」
「いや、帰ろう」
「少し前に異常が発生したばかりだからね」
「みんな、まだ不安だろうから」
「君が帰ってあげないと」
「ヘルンは優しいんだね」
「僕は守護神として言っているだけだよ」
「だとしても、ヘルンは優しいと思うよ」
「そ、そうかな」
「じゃあ、帰ろうか」
「そうだね」
「またあの馬車で帰るの?」
「いや〜?」
ニヤつきが止まらない。
「実はね〜昨日やったデスインフェルノとか、ファイアバーストとかと一緒に開発した魔法があってね」
「うん」
「転移魔法、トランスファー」
「て、て・ん・い・ま・ほ・う?」
「うん、行ったことのある場所にはいつでもどこでも転移できる」
「...ほぇ?」
師匠が恋しくて、作ってしまった魔法。でも、今のところ、師匠にこれで会いに行く気は無い。
まだ、師匠の弟子として、大したことは何も出来てないから。
師匠に褒められたい。安心してもらいたい。
僕を、求めて欲しい。
「まあ、そういうことで、転移魔法で帰ろう」
「早く帰るに越したことはない」
「あ、うん、そうだね...」
「どうしたの?」
「いや、もう、びっくりしないようにするよ」
「ヘルンは死神で、守護神なんだからね...」
「まあ、それはそうだけど」
「もう行っていい?」
「うん、帰ろう」
「トランスファー」
一瞬にして、二人はイレーネの近くの草原に立っていた。
「成功だね」
「うわ...本当に着いてる...」
「さぁ、今日は家に戻ってゆっくり休みなね」
「君のおかげでまだ朝だけどねぇ...」
「まあまあ」
「ははは」
ハネストと別れて、僕もいつもの宿に帰った。
はぁ...
疲れた。
魔法の開発には魔力を大量に使う。自然から補給できるとはいえ、膨大な魔力を出したり入れたりするのは、大きな負担となる。
そして何より、死神には肉体的なダメージは食らわなくても、心のダメージは関係ない。
ここ数日、僕の心はズタボロだ。
死神の大鎌、デスサイズを使うと、まだ僕は少し意識を持っていかれる。
修行によりやっとその時の記憶を保つことが出来るようにはなったが、そのせいで、後からその時のことを思い出すと、泣きたくなるほど恥ずかしい。
僕が大鎌を持つと、戦闘狂というか、なんというか、とにかくとてつもなく怖くなるんだよな...
あとから思い出して、自分でも怖い。
そんなことを考えていると、瞼が重くなってきた。
死神は寝なくても死なないが、多少は眠くなる。
最近忙しかった僕は、死神のくせに深い眠りについた。
「ヘルン、おーい、もう師匠の声を忘れたのか〜?」
「し、師匠?なんでここに?」
「それはどうでもいいんだよ」
「それにしても、よく頑張ったな、ヘルン」
「まさか、この短い間に一つの異常と何体もの悪魔を葬るとは」
「やはりお前は私を超える死神になる」
「師匠として、家族として、誇らしいぞ」
「師匠...」
「会いたかったです...」
「でも、まだ会えないと思った」
「まだ死神として一人前になれてないから」
「僕はこんなものじゃありません」
「もっと頑張ってみせます、もっと羽ばたいてみせます」
「慈愛の死神、シュッツ・カリタスの名を汚さないように、これからも精進します」
「あぁ、頑張れよ」
「私の愛しいヘルン」
強い日差しが目を眩ませる。
師匠と話した。あれは夢なのか、なんなのか。
例え夢だとしても、僕は今、最高の気分だ。
今日も、頑張ろう!
次話は、2025年8月26日12時に投稿します!
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