イレーネ国王
「よくぞ来てくれた、謎多き救世主殿」
「お会い出来て光栄です、イレーネ王」
大きな城の大広間で、僕は今、イレーネ王に膝まづいている。
「この度の国への貢献には、誠に感謝しておる」
「そなたが居なければ、イレーネはゴーレムに踏み潰されていただろう」
「その功績に褒美を設けたいのだが、何か望みはあるかのう」
「恐れながら、お一つございます」
「おぉ、遠慮せず言うと良い」
「望みの前に、その望みの経緯を述べさせて頂きます」
魔法で、服装を死神の正装に変えた。
「私は、死神ヘルフェン・カリタス」
「この世界の守護神となる者です」
「な、なんと!漆黒の救世主は守護神様だったのですか!」
先程まで豪華な椅子にゆったりと座っていたイレーネ王が、床に片膝をついて僕に敬意を示してきた。
「この度の無礼をお詫びします」
「このヌース・イレーネ、謹んで守護神様のお望みを叶えてみせます」
かしこまらないで下さいと言いたいところだけど、舐められては交渉にならないので、仕方なく大きな態度をとる。
「私は、自分の仕事を全うするためにも、普通の人間としてこの世界を回ってみたいと考えています」
「そのために、私の正体の秘密保護と、私の旅の補助をして頂きたいのです」
「ははっ、仰せのままに、守護神ヘルフェン様」
「ありがとうございます」
「あ、後、メガロス帝王に伝えて頂きたいことがあるのですが」
「なんなりと」
「守護神降臨祝祭の降臨の儀式の際、私が顔を隠すことと、守護神防衛隊と共に、この世界をゆっくり回るつもりだと言うことをお伝えください」
「もちろん、守護神としての仕事が発生すれば、速やかに対処します、とも」
「承りました」
「よろしくお願いしますね」
「ご期待に添えるよう善処致します」
「私はこの国を気に入っています」
「あなた方が人道に反するようなことをしない限り、私は消滅するまでこの国の守護者となりましょう」
「光栄です、守護神様」
さて、イレーネという味方も得たところで、そろそろメガロス帝国に向かって出発しなきゃ。
ハネストを呼びに行こう。
王城を出ると、ハネストが居た。
「え、なんでハネストがここに?」
「王城に救世主が来たと聞いて、急いで来たの」
「なるほど」
「まあ、ちょうど良かった」
「そろそろメガロス帝国に出発したいから、準備をしてくれる?」
「準備はもう出来てるよ」
「お、じゃあ、早速出発しよう」
「馬車を作るから、国の外に行こう」
「え?」
創造魔法。使える人はあまり居ない、まさに神業。
まあ、死神だからね。
イレーネを出てから少し進んだ草原で、僕は馬車を創造した。
全体的に黒く、少し禍々しい車体に、馬は魔力で形成されるものだった。
「本当は普通の馬車に乗りたいところだけど、速さ重視で作ってみた」
「...まあ、守護神だしね、これくらい出来ても驚いちゃダメだよね」
「ところで、メガロス帝国まではどれくらいあるの?」
「普通の馬車で丸二日から三日くらいかなぁ」
「じゃあ、なんでハネストはまだイレーネに居たの?」
「軍の人は、国に置かれてる転移石を使わせてもらえるから」
「転移石?」
「そう、転移石が置かれた場所同士の空間を結んでくれるの」
何それ便利すぎ...
「まあ、大丈夫だよ」
「この馬車は空を飛べるから」
「え」
馬車に乗り込み、黒く輝く馬に魔法で命令を出した。
その瞬間、馬は一気に空中へ駆け出し、馬車は浮いた。
その速度は、馬車で二、三日かかる道のりを、数刻で走り抜ける程だった。
「着いたよ」
「えぇ...早過ぎない?」
「まあ、魔法で出した馬だし、こんなものじゃない?」
「神の価値観はやっぱり人間とは違うんだね...」
メガロス帝国の門は、イレーネのものよりも大きく、頑丈そうだった。
今回は普通にくぐることが出来、一安心していると、街がやけに騒がしかった。
すると、祝祭の主目的は明日の夜だと言うのに、もう街はお祭り騒ぎだった。
「やっぱり帝国は凄いなぁ」
「こんなに人がいるの...緊張する...」
大人数の人を見るのは、未だに慣れない。
「お祭り、回る?」
ハネストは、楽しそうに聞いてきた。
「回ろうか」
「やった!」
しかし、そうも上手く行かなかった。
ハネストは、どうやら世界的に有名らしく、その場で僕らは沢山の人に囲まれた。
「純白の戦姫ハネストだ!」
「握手してください!」
「ドラゴンを倒したって本当ですか?」
街の人のハネストへの質問は絶えることなく続いた。
しれっとその群衆を抜け出した僕は、一人で祭りを回ることにした。
「助けてぇ、ヘルン〜!」
ごめんね、ハネスト。
人生初めての祭りは、結構楽しめた。
祭りには、様々な国からの品物や、美味しそうな食べ物が並べられ、目が飽きなかった。
お肉の串刺しを食べながら、ハネストの所へ戻ると、群衆はもう散っていた。
「なんで先に行っちゃうのよヘルン!」
「ごめんごめん、これ、ハネストの分の串焼き」
「...ありがと」
「明日、ハネストはどうするの?」
「午前中にメガロス帝国軍に挨拶に行って、式典の次第を教えて貰って、式典に並ぶって感じかな」
「なるほどね、じゃあ明日は僕はゆっくり夜を待つとしよう」
「わかった」
「じゃあ今日は、ハネストのためにも早めに寝よう」
「宿空いてるかな」
「多分空いてないと思う」
「一応私メガロスに招待されてるから、一部屋なら取れるけど」
「来る?」
「え?」
なんでこうなってしまったのだろうか...
「ヘルン、私先お風呂入ってもいい?」
「あ、うん、どうぞー」
「じゃ、入ってくるね〜」
あぁぁぁあ!
ハネストは年上とはいえ女性!
同じ部屋に泊まるなんて、守護神として許されるのだろうか!
いや、冷静に考えろ、泊まるだけだ。泊まるだけ。
他に何をするわけでも無い。
「お風呂出たよ〜」
「ヘルンも入りなよ」
「僕は魔法で綺麗に出来るからいいよ」
「今はお風呂に入る気分じゃない」
「そうなの?、ならいいけど」
「じゃ、寝よっか」
「僕はそこの椅子で寝るから、ベッドはハネストが使いなよ」
「えぇ、そんなの悪いよ」
「ここはそもそもハネストの部屋だし、僕は死神だから寝なくても平気なんだよ」
「うーん、ならいいけど」
「おやすみ、ハネスト」
「おやすみ、ヘルン」
そう言うと、ハネストはすぐに寝た。
それにより形成される人生初めての空間は、僕を混乱させるのに十分だった。
「おはよ〜」
「え、ヘルン、なんでそんなに顔色悪いの!?」
「だ、大丈夫だよ...」
疲れた...
服を着替えると、ハネストは宿を出た。
「じゃあ、先に行くね」
「式典、お互いに頑張ろ!」
「うん、頑張ろう」
一人になったら、やっと落ち着いた。
よく見ると、部屋はとても豪華だった。
ハネストの階級は、やっぱり相当高いんだな...
少しゆっくりした後、普通の人が着る服を着て、宿を出る準備をした。
さ、じゃあ、僕もそろそろ出ようかな。
やっておかなきゃいけないことも、あるしね。
次話は、2025年8月25日12時に投稿します!
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