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重なる世界

「このグローブを……お前に預ける。おれの宝物だ。いつか必ず返しに来い。立派な野球選手になってな」


「まずは部員集めだな。10人は欲しいなあ。野球王におれはなる‼」


「甲子園を目指すってことですよ⁉」


「停学処分になっている不良……『教師狩りの蘇呂』という男がいて……」


「お前良い奴だから野球部入れよ」


「野球やるくらいなら死んだ方がましだ」


「野球やるなら停学処分撤回させてやるよ」


「お前は悪魔の息子かよ」


「ナイスホームラン。蘇呂」


「お安い御用だ。キャプテン」


 そして流布は蘇呂を最初の部員として、二人で野球部を組み立てていく。

「しかし流布。お前の球捕るのやたらきついな」

「そうか?」

「ああ。ノビのあるストレートが武器のようだが、暴れ球だ。これじゃあストライクカウント取りづらいぞ。制球を磨け。あとお前はスタミナはやたら高いし球威も凄まじいが、凄まじすぎておれくらい頑丈な奴しか捕れねえぞ。つまり捕手の替えも利かない」

「そういうお前もホームラン狙い過ぎじゃね? 全打席超大振りじゃんか」

「ああ。俺はホームラン王を目指しているからな。てか、ヒットなんて邪道だ。おれはホームラン以外は0点なんだ」

「ふうん」

 蘇呂の心意気を、流布は適当に聞き流す。

「しかし知ってるか? 野球って9人いねえとチームにならねえらしい」

「マジか。おれら二人で十分だろ」

「おれもそう思うんだけど、甲子園行きてえから部員集めようぜ」

「中津川入れるか」

「中津川?」

「ああ、アイツとは中学で同じ野球部だったんだが、制球力はやたら高い。九分割のコントロールを持つ」

「三橋かよ、すげえなそいつ」

 流布と蘇呂は中津川のいる教室へ行き、中津川をグラウンドへ誘拐する。

「何だお前ら‼ おれは漫画研究部だぞ‼」

「じゃあ野球漫画家になればいいだろ」

「コージィさんみたいな?」

「ああ。いや、コージィレベルで良いのか?」

「おれはキャプテン面白かったろ」

「蛯名のキャラがよく分からんかった」

 中津川と蘇呂の漫才に、流布は欠伸をする。

「中津川。お前、制球上手いんだってな。第二投手になってくれよ」

「蘇呂が捕手でお前が第一投手か。大分穴ボコボコのチームだな」

「今んとこはな」

 流布は未来を眺めていた。このチームをデカくして甲子園優勝する。そのことしか考えていない。

「あと三寺も入れるか」

「ああ、陸上部の」

 流布と蘇呂は陸上の練習をしていた三寺を、グラウンドへ誘拐する。

「何だテメエら⁉」

「お前、脚速いから野球部入れ。イチローみたいなポジションになれ」

「脚速いなら普通陸上やるだろ‼」

「いやいや、三寺くん。古来から野球漫画では俊足バッターが……」

 オタクの中津川が野球漫画の歴史を三寺の脳に叩き込み洗脳する。こういう時に頼りになる男だ。

「つまり陸上より野球の方がモテるってことか⁉」

「ああ、そうだ」

「付き合うぜ、甲子園までの道」

「陸上部のミナさああああああああああああああああああああああああああああん‼ 糞ありがとうございましたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」

 ミナさんは中指を立て、近くにいた陸上部員の尻を蹴飛ばす。いや、皆さんではなくミナさんだったのか。集団ではなく個人だったのか。シューダンというサッカー漫画があったのを思い出し、流布は少し笑う。横田卓馬は才能の塊のように感じていたが、実際は大したことがなかった。クリエイターの底を知れること以上に愉悦なものもなかなかない。そして柊沢メルエムはこの小説の一話を書き上げたことで、また一次元上の存在となる。次元が上がれば上がるほど人生が楽しくなるから、天津飯も柊沢メルエムも精進を繰り返すのだ。そして流布もまた


「ぜはははは、グラウンドはおれ達サッカー部の物だ‼」

 サッカー部主将の黒沼爽人はグラウンドを私物化する。

「ふざけんな、グラウンドはおれ達野球部の物だろうが‼」

「ぜはは、部員も集まってねえ野球部にグラウンドを使う資格はねえ‼」

「サッカー部だって部員集まってねえだろ‼」

「野球部よりは多い‼」

「野球は9人だがサッカーは11人だろ‼」

 流布が言いたいのは、元々の必要な人数が違うだろ、ということだ。そう、試合も想定するなら18人と22人だ。必要な補欠人数もまた比例的に変わってくる。

「ブルーロックに勝てるのか⁉」

「ワンナウツで相殺するよ‼」

「ワンナウツ如きでブルーロックに勝てる訳ねえだろ‼」

「じゃああだち充で」

「それはオーバーキルすぎるだろ‼」

「じゃあ水島新司で」

「オーバーキルをさらに上乗せるな‼」

「コージィさんも」

「駄目押しするな‼」

 黒沼は吐血する。いや、いきなり物騒な一文だが、それくらいのダメージは受けていた。

「ああ。そっか。どっちも足りないなら」

「え、おい」

「野球部とサッカー部を」

「合体?」

 こうして野ッカー部は爆誕した。

「手ェ組もう。同盟だ」

「野球部とサッカー部で同盟だと⁉」

「ああ。そしたらグラウンド使い分ける必要もないし、足りない部員を補充することも出来る」

「まあ考え方としちゃあ悪くない。てか良いな。面白いな、それ」

 黒沼は相槌を打つ。そう、それで良いのだ。恐らくそれがこの場に於ける最適解なのだ。これで野球部がサッカー部員を使うことも、サッカー部が野球部員を使うことも可能となり、取れる行動の幅がぐうんと広がった。

「ところで黒沼、お前ネトフリに入ってるか?」

「ああ」

「実写版ワンピース見せてくれよ!」

「じゃあお前も単行本貸してくれよ」

「ああ!」

 こういう協力者がいることはお互いに強いだろう。野球とサッカー、太陽と闇が手を取りひとつなぎになる。案外本家のオチもこんな感じになるのかもしれない。未来だけを信じているのだ。誰かが笑っても構わない。走っている情熱が、彼らを煌めかせるのだから。

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