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第一部 おれはキャプテン

「今日から君がキャプテンだ‼」

「お、おれがキャプテン?」

 いきなり昔マガジンで読んだ野球漫画みたいなことを言われてしまった。俺はカズマサでもなければこのチームをシュート全振りにする気も……それはそれで面白いか、コンセプトチーム。などと思考展開させる京平だが、しかしここはどこだ? 夢にしてはリアルな……。

「頑張れよ京平‼」

「行け行け原‼」

 同じく六年生の青野と羽生が煽るが、別にお前ら二人のどちらかでも良かっただろう。青野はチビな原より遥かに大きく自信もあり、羽生は原よりチビだが度胸とリーダーシップがある。こいつら主導の西小FCも別ルートで攻略したかったものだ。しかし、ここは一体どこなのだろうか。夢? 走馬灯? 俺昨日何か悪いことしたっけ? 死んだ?

「なあ、青野、羽生。ここどこだ?」

「ん? 西小グラウンドだろ?」

「何言ってんだよ原……?」

 青野と羽生は顔を見合わせ、首を傾げる。そういえば彼らはこんな感じの顔で、こんな感じの関係性だったなあとか色々と思い出してきた。まあ多分これは夢で、京平の脳内に収納された記憶に基づいた情報の欠片なんだろうが。それにしても懐かしい。キャプテン初日、この頃はキラキラギンギンと熱く滾り光り輝いていたなあなどと感慨に耽る。

「そうだ、夢なら今の内に……」

 京平はこの天才が創り出したスーパースペシャルスペクタクルな夢を利用し、新たなズリネタ開拓に挑む。そう、妄想変態リアルアタックだ。京平は衣服を一枚ずつ脱いでいく。シャツにズボンにパンツの順で脱ぎ去った。

「ど、どうした京平⁉」

「遂に露の路に目覚めたのか⁉」

「私、イくね♡」

 シオリエクスペリエンスでこんなシーンがあった気がするが、緩いボケなど今はどうでもいい。時間が惜しい。急いで露出変態プレイングしなければ、夢がゲームオーバーして現実の自分が夢で高く跳び、明日過去になった今日の今が奇跡になってしまう。それは避けねばならない。どこかにいないか。京平はネクストズリネタポイントを探る。急げ‼ どこで誰にセクハラ攻撃をするのが正解だ⁉ 一刻の猶予もない。夢から醒めない程度に思考をぶん回せ‼ 加速しろ‼ 加速して初めて行けるんだ‼ 原京平は原京平の先へ‼

「ん?」

 周囲を一瞥すると、いた。いや、あったというべきか。何かめちゃくちゃ可愛い子がいた。いや、こんなアニメキャラみたいな子、昔絶対いなかっただろう。しかし、そんなことはどうでもいい。この子に賭ける、生死を。この子に掛ける、精子を。原は目の前の美少女のズボンを下ろす。

「きゃっ♡ 原くん、ちょ」

 可愛い悲鳴だが、原は切羽詰まっていた。これが現実だと社会的に死に、これが夢だとここで退いては後で死ぬほど後悔する。そういうエロ千年秤なのだ。これがエロ遊戯王なのだ。せめてパイパンマンコだけでも拝まなければとパンツを脱がすが、そこには

「何だよ、これ……‼ なあおい、何なんだよ、これは……‼ これは何だっつってんだよ、三下‼」

 原京平は激怒をエロスに込め、エロイカを咆哮させた。そこにあったものは、

「何でちょっと毛が生えてきてるんだよ、なあ‼」

 原京平はパイパンより剛毛マンコの方が好きだ。だからこの激怒は歓喜の色が強い。いや、歓喜の色が強い激怒とは何だろうか。

「お毛々……剃った方が原くんの好み?」

 ビーデルさんじゃないか。原京平はこの問答の答えを知っている。これは孫悟飯が否定し、全く別のことを言うと好感度が上がるという童貞レベルアップ打法だ。

「え、いや、こ、好みとかじゃなくて、陰毛が……マン毛が……マン毛が大好きです‼ ロマンを感じます‼ 出来たら腋毛も剃らないで下さい‼ 全女性に向けて言ってます‼」

 毛には逆らえない。原京平は毛フェチなのだから。

「分かった、剃らない。剃りません、キャプテン原‼」

「宜しい」

 青野と羽生が飽きたからジャンプの話をしている。いちご100%がどうのこうの言っている。そういえばこの時代の少年のロマンはいちご100%だったなあなどと想起する。しかし、長い夢だ。夢オチにするにしてもオチが見えない。

「原くんもおちんちん見せて♡」

 オチは見えないのにおちんちんは見せてしまった。これがオチか。おちんちんだけに。いや、全く上手くはない。下手だ。下ネタなだけに。

「何でキャプテン決めたらこんなことに……」

 一番困惑したのはコーチだったという。


「で、君誰?」

「あ、サカ神シノブと言います」

「ああ、西のオフサイドの?」

「何です、その変な異名。馬鹿にしてるんですか?」

「いや、原寛貴の……」

「ハラヒ?」

 しまった。この時代にはまだ原宮ハラヒはいない。いや、そういう問題ではない。西のオフサイドや原寛貴という名前に反応はないのに、彼女はサカ神シノブと名乗る。ここに何らかのからくりサーカスがある気がしてならない。いや、この作品の場合はからくりサッカーだろうか。などと下らない思考を断ち切り、

「君、サッカーの神様なの?」

「え? まあ、ドリブルは得意ですが……」

 サカ神シノブはドリブルの名手で、乗っている時はキーパーすらも抜き去りそのままゴールするという、成神蹴治みたいなキャラクターだ。つまりこの無駄に長い走馬灯みたいな夢は、原寛貴の妄想を忠実に再現していることになる。思えば小六で陰毛が生えていたり、女子なのにサッカー部にいたりなど都合が良すぎる。原はシノブの胸に手を伸ばす。

「手を伸ばせば届くんだ‼」

「きゃ♡」

「いい加減始めようぜ、ドリブラー‼」

「私に言ってるの⁉ 何を始めるの⁉ サッカー⁉ セックス⁉」

 この子は小六のくせになかなか性の理解があるようだ。まあ、原が妄想の末に生み出したキャラクターなのだから、その肉体存在魂精神全身全霊が、原寛貴の都合の良いように消してリライトされていると思っていいだろう。努力と美少女を等価交換したのだ。何という真理の扉だろうか。まさに尻の扉ではないか。開くと何が出てくるのだろうか。運命ちゃんだろうか。

「おい、京平。練習終わったしもう帰ろうぜ」

「俺は道違うから先帰るよ」

「おう、またな羽生。俺らも帰ろうぜ京平」

「ああ、そうだな」

 道が違う羽生は先に帰り、原は青野と帰ろうとするが、シノブは一体どこに帰るのだろうか。というか、このまま帰ったら夢が終わるいつものパターンではないか。もっと色々セクハラプレイすべきではないだろうか。どうせ夢なのだから。時間は絶対に前にしか進まない。タイムマシンかタイムマシーン3号かタケミチくんか慎平くんでも呼んでこない限り、決して遡ることなど出来ないのだ。もし出来たら、原京平こそがタケミチ1号、慎平2号に続く

「タイムマシーン3号となる」

「何言ってんだ、京平」

 原のぼやきに青野は呆れる。こいつのこういうドライな反応も懐かしいな。馬鹿にしている訳ではなく、本当に心配してくれているのだ。友達として。いやあ、この時代は友達に恵まれていたなあ。

「私も帰る」

「どこに?」

「青野くんち」

「青野くんちの大作戦⁉」

 俺じゃないのかよ‼ と猛烈に思う原だが、どうせ夢だし思ったより楽しめた。もうここら辺で切り上げてもいいかもしれない。そもそも原京平はセックスなどを好む変態ではない。ペッティングで満足する紳士なのだから。そうでなければ、ズリネタがタイトルに入っているような漫画は描かないだろう。

「じゃ、青野。シノブを頼むな」

「頼むってか、この子従妹だぜ?」

 青野に従妹。いたのか? いや、いたとしても特におかしくないが、シノブが従妹というのは何か無理矢理な設定に思える。走りながら書いてるな、この作者。従妹ということは、青野とこの子を結婚させたりなどの展開も可能ということか。いや、それだとむしろ青野がラノベ主人公のようではないか。青野くんの大作戦ではないか。青ブタではないか。むしろサッカー部だからアオアシではないか。岩みたいな頑強な身体だからブルーロックではないか。いや、こいつなら本当にスポーツ選手になっていたかもしれない。こいつとは中学卒業以来特に交流はなかったが。

「なあ、青野」

「何だ、京平?」

「ちょっと太った?」

「うるせい、知るか」

 軽口を叩きながら、原と青野とシノブは帰路に就く。この尊くも儚い夢を噛み締めながら。


「父さああああああああああああああああああああああん‼」

 家に帰ったら京平の父・秀一がいて驚いた。何か酒飲みながら漫画読んでハンターハンターを流している。秀一はいつもこんな感じだ。

「ど、どうした京平? お前そんなキャラだっけ? トランクス?」

「あ、いや、学校でドラゴンボールごっこ流行っててさ」

 京平は僕だけがいない街の主人公みたいな躱し方をする。ちなみに秀一は、京平が大学入学後間もなくくも膜下出血で死亡する。頭が痛いと病院に行ったらしいが、その医者がヤブで異変に気付けなかった。裁判に相当する内容だが、賠償させても秀一は生き返らない。馬鹿は医者になるな。

「父さん、酒の飲み過ぎには気を付けてね」

「? あ、ああ……?」

 秀一は京平を訝しむが、深く追及してこなかった。


 寝て起きたら夢から醒めるだろう。と思っていたが、駄目だったようだ。子供の姿のまま、過去のままだ。これはガチでタイムリープという奴だろうか。そうだとしたら、昨日の変態プレイはなかなかに犯罪的だった気がする。京平は取り敢えず昔を思い出し、ランドセルを背負って学校に行った。行ったら何か色々と思い出してきた。京平はサッカー部のキャプテンで、今は2004年辺りで、ここは西牛尾小学校で、などなど。

「キャプテン原‼ おはようございます‼」

 シノブが教室に入ってきて、京平を見付けるなり挨拶を放出する。クラスが「キャプテン?」「原が?」「サッカー部の?」「マジで?」「あの子可愛い」みたいな空気になる。

「忍べ‼」

「はいー♨」

 京平がシノブに忍べといったらやすこになってしまった。ここまで意味不明な一文があるだろうか。というよりも、この時代にやすこはまだいないだろう。いるかもしれないが、原より年下だろう。原は現在32歳で、今20年近く前にタイムリープしていることに気付く。二十年も前か。二十年って長すぎないか。そんな昔だっけ。などと思考を逡巡させる京平だが、

「よう、京平‼」

「青野……」

 シノブの後ろから青野が召喚された。青眼の白龍ではない。ブルードラゴンでもない。ちなみに青野の下の名前は龍聖という。ブルードラゴンではないか。青眼の白龍ではないか。京平は二組で、青野は一組か三組だった気がする。まあ三クラスしかないのだが。

「青野とシノブって何組?」

「俺は一組でシノブは三組」

 平等に分配された。

「ちなみに羽生は?」

「三組」

 羽生、テメエ‼ 青野の従妹だったり、羽生のクラスメイトだったり。もうお前らがラノベ主人公だろう。しかし、こいつらとこういう会話をするのも二十年振りか。二十年で合ってるよな。俺が32歳で12歳に戻ってるから……。何度計算しても正しいはずなのに狂っているように感じる。京平の時間感覚が狂っているだけなのに。

「二十年か……」

「ん? 千年パズルが何だって?」

 どういう聞き間違いだろうか。お前はやはり青眼の白龍だろう、と京平は青野に心中でツッコミをぶち込む。青野はイケメンのチャラ男だから、もう当然結婚して子供を作りまくっていることだろう。それが羨ましいという話ではなく、京平とは別次元に生きているのだなあと距離を感じ虚しくなる。当たり前だ。みんないつまでも小学生ではないのだ。切り替えろ。それは多分向こうも同様に感じることだろう。

「いや、まあ、友情って大事だよな、って話」

「愛、勇気、友達だからな」

 アンパンマンではないか。それを言うなら友情、努力、勝利だろう。何故に燃堂の先取りみたいなミラクルを起こしているのだろうか。原京平のΨ難は続く。青春は残酷ではないのだから。目を合わせよう。


 授業が死ぬほど退屈だった。とうに理解していることを何度も出題されるというのは地獄のようだ。鳥山三世の地獄だ。いや、原一世だが。

「おーい、京平! 部活行こうぜ」

 またしても青野が召喚された。

「おう、行くか」

 西小FC。小学生のサッカー技術などたかが知れていて、京平レベルの身体能力でも無双できそうな気がする。


「今日の原キャプ、動き凄いな!」

「ああ、さすがキャプテン……」

 後輩の小田島と杵渕が珍しく京平を褒める。この二人は五年生の中では抜きん出てサッカー技術が高く、六年生の京平や羽生も小馬鹿にしている節がある。まあまだ小学生なのだから礼儀礼節などしっかりしている方が不自然といえる。

「にしてもあの子なんだ? あんな子いたか、杵淵?」

「さあ? シノブさんだっけ? 上手いよな、ドリブル」

 小田島と杵淵はシノブのドリブル技術に唖然とする。それはそうだ。原寛貴が生み出した最強キャラなのだから。リアルのガキ共など蹂躙してくれなければ困る。

「すげえな青野の従妹。シノブちゃんだっけ?」

「ああ、アイツ昔からドリブルばっかやってたんだよ」

 羽生と青野はシノブを評価する。京平も凄かったようだが、シノブのインパクトに負けている、というのが今日の全体的な評価だろう。


 帰ってきた。いやあ、疲れた。ちなみに家に、ではない。いや、家なのだが、君達の思っている家とは違う。原宅だ。いや、原宅なのだが、君達が思っている原宅ではない。

「おかえりなさい、京平」

「ああ、ただいまシノブ」

 夢から覚めると、当たり前のようにシノブがそこにいた。長かったタイムリープ、のような夢は終わったのだ。

「何だっけ、色々あったな。青野とか羽生とか小田島とか杵淵とか。あと、ええと、授業が退屈だったな」

「ふふ、大冒険だったみたいだね、京平」

 長かった。長い夢だった。しかし、不思議な充足感がある。虚しさよりも安心が勝つ。こここそが京平の居場所だ。ここからまた京平のDAYSが始まるのだ。

「生方さん」

「シノブだよ!」

「シノブ、俺、また暇な時にでも」

「うん、サッカーしようね」

 サッカーというスポーツは、皆を興奮させる。皆を熱狂させる。そういう不思議な魔力があるのだ。だからこそ、サッカーをやりたいと思うのだ。

「青野と羽生。元気かなあ」

「きっと元気だよ。だって」

 シノブは一拍置いて、

「西小FCの魂は不滅だからね」

「西小FCの……魂か……」

 西小FC。ただの小学生時代の部活動だが、確かに京平達はそこで切磋琢磨した過去を持つ。過去は変わらないからこそ尊いのだ。タイムリープ物の場合、最悪の過去を塗り替えようとするものだが、京平の場合は塗り替える必要はない。最高の仲間と過ごした最高の時間なのだから。

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