絶無の記憶後編
田中と遊ぶ日の朝
「ふぁー、起きた起きた」
「優斗ー、今日大雨になる予報だから気をつけてね」
「わかったよ、お母さん」
俺はここ数日て少し田中ことを調べた。
他のクラスメイトに聞いてみたりしたが変わったやつじゃないらしい。
「マジでなんなんだろう、あいつ雰囲気」
少し考えてみて、一つの案が浮かんだ。
「ダメ元をもとでインターネットで調べてみるか、なんもないだろうけど」
そう言って「田中優斗 新潟県長岡市」と検索してみて、検索結果の1番上をみて俺はゾッとした。
なにせ1番上に出てきたのが行方不明者情報のページだからだ。
俺は震えた手を必死に動かして、そのページを開いた
「あ……あ………あ」
俺は声が出せず、冷や汗が止まらなかった
「こ、この顔は」
行方不明者の似顔絵が出てきた。その中の一つに田中と瓜二つの似顔絵があった。しかも、その行方不明者の名前も田中と同じだった。
とてもこれ以上調べようと思わなかったが、それ以上にあいつが何者かが気になった。
それで色々調べているうちにもっと嫌な事実がわかった、それはすでに行方不明者情報ページにいた田中はすでに死んでいることがわかった。
「ちょっとまてじゃああいつはなんなんだ、てか集合時間もうすぐじゃん急がないと」
集合場所に向かっているうちにふと嫌な考えがよぎった。
「あいつ瑠璃を道連れにしようとしてんじゃね」
そう考えて瞬間点と点がつながった。
瑠璃が小さい頃仲良くしていたのが田中だったとすると色々繋がる。田中が瑠璃の話を聞いた時にやけに反応していたことも繋がるし、あの違和感やところどころで感じた狂気も、ほんとは死んでいてあいつ自身が幽霊だとすると周りと雰囲気が違うのも、道連れにしようとしていると考えると、あの狂気に満ちた目も説明がつく。
そして嫌な予感が当たったかのように雨が降り出した
そう考え集合場所に向かう足を早めた。
集合場所に着くとまだ瑠璃はいなく、田中だけがいた。
「早いな田中」
「君が先に来たか」
「なんだ悪いか」
「どうしたんだい、さっきから喧嘩腰で」
「一つ聞きたいことがあるだけどさ」
「なんだい」
「お前は生きているのか?」
「どういうことだい?」
「いやー少し調べてみたらさ、お前と同姓同名のやつが長岡市で死んだってニュースが出てきてよ」
「そんなの偶然なんじゃないか」
「でもおかしくないか?」
「なにがだい?」
「同姓同名でかつ、お前の故郷ドンピシャで同じことなんてあるか?普通」
「この世にはそんな偶然があるかもしれないだろ」
「流石に苦しいぜ、その言い訳」
「なんでそんな調べちゃうかなあ、そうだよ俺は死んださあの時、だからなんだそれがどうした」
「問題はそこじゃない、瑠璃を道連れしようとしてることだ」
「君は心でも読めるのかい?」
「認めたなクソ野郎、動機を聞こうか」
「なあに、僕は一人で逝く気はないからね」
「マジかよお前」
「僕にとって大切な人は少ないからね」
「そんな大切な人を殺していいのかよ」
そう言うと田中は目を見開いたまま
「大切な人が一緒なら僕はどんなことも本望だ」
と言った。
「それはとお前だけだろ」
「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい」
そう言って田中は殴りかかってきた。
「本性を出したな」
俺も田中に殴り返した。
しばらく殴り合いをして先に限界が来たのは田中の方だった。田中の体が少し透けていた
「もう一度聞こうか、なんで道連れにしようとした」
「僕も死にたくて死んだわけじゃなくてさ、いじめとか家庭環境とかで色々限界が来てさそのまま死んじゃったって訳、まあ君のおかげで目が覚めたよ」
「お前の境遇に同情するさ」
すると田中の体はさらに薄くなった
「そろそろ時間のようだ」
「なんでだよ、今まで大丈夫だったじゃん」
「もう未練がないからね」
「そうか」
「それと僕は幽霊だからね、みんなの記憶には残らないだろう」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんだ、最後に色々ありがとう」
「いやいや」
「それと一つお願いことをしていいかい?」
「どんな願いだ?」
「一言、宮木さん宛に遺言を残したくてね」
「最後の情けだ、それぐらい聞いてやろう」
「感謝するよ」
田中は一言いい残し消えた。そのとき田中のおかげか雨が止んだ。
そうして集合場所で座っていると瑠璃が来た。
「どうしたの優斗、びしょ濡れで」
「ちょっと田中はと話していてね」
「田中って誰よ」
「え、ほら同じクラスのやつ」
「そんな人いないわよ、何言ってんの優斗」
その一言を聞いて田中が言っていたことが本当だとわかった。
「そいつから一言伝言を預かっているから聞いてくれる?」
「誰かわからないけど、なんだか聞かないといけない気がするから聞くよ」
「『楽しい日々をありがとう』だとよ」
「なんか聞けてよかった気がするよ」
「それならなにより」
その後クラスメイトにも田中のことを聞いてまわったが誰一人として覚えていなかった。
そして田中との思い出は絶無の記憶となった。