曇り空の公園
凪の後を脩が追いかけてきた。
「松岡、ちょっと話しがあるんだけど…。」
凪は脩を見ない様にして、黙って家に入ろうとした。
「じゃあ、家に上がっていいか?」
「もうすぐ父が帰ってくるから。」
凪は玄関のドアに手を掛けた。
「いいからちょっと来いよ。」
脩は凪の手を引っ張ると、近くの公園に向かった。
「ここに座ろうか。」
そう言って公園のベンチに凪を座らせた。
「勝手だね。」
凪はそう言うと、目の前のイチョウの木を見た。
地面に落ちたイチョウの葉は、ちぎられた紙の様に厄介なゴミになっている。数枚の葉なら、物思いに耽るのにはちょうどいいけれど、これだけたくさんの葉が小さな丘を作ってしまうと、ため息も同じだけ出てきてしまう。
「松岡って、木見るの好きだよな。」
脩が言った。
「こんな中で、よく生きてるよね。」
凪は次から次へ落ちてくる葉を見ながらそう言った。
「木の事か?人の事か?」
「どっちも。」
凪から返ってくる言葉は、どれも覇気がない。それでも脩は話し続けた。
「松岡は進路決まったのか?」
「うん。平岡くんは?」
「俺はまだ迷ってて、決まってないよ。やりたい事なんてそう簡単には見つからないし。」
「そ。」
「どこにいくんだ?」
「東京。」
「ずいぶん遠くに行くんだな。」
「ここにはしがみつく理由なんて、何もないからね。」
さっきからイチョウの木を見ている凪の横顔は、幼稚園の頃と何も変わっていなかった。
「ねえ、平岡くん。こんなに葉っぱが落ちてしまったら、木は寒いだろうね。もうすぐ冬がくるのに、幹を守るものは何もないんだね。」
凪は昨日の雨のせいで、まだ乾かないコンクリートに貼り付いたイチョウの葉を見た。
「そうだな、寒いだろうな。」
脩は凪の手を握った。
「松岡の手、すごく冷たいな。」
「そう?」
「必ず戻ってこいよ。」
凪は首を振った。
「約束なんてできないよ。気持ちなんて変わるんだし。」
「俺はずっと待ってるから。」
脩は木のてっぺんを見つめた。
「何が見えるの?」
凪は脩と同じ様に空を見上げた。
「何も見えないよ。曇り空。」
脩はそう言って笑った。