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ハーレムの正妻に転生しました~呪い殺されたくないので夫より先にハーレムメンバーを攻略します!

こちらは古典作品「源氏物語」のネタバレを含みます。

R指定はないです!




「御夫君は、今宵も六番通りの邸宅に向かわれたそうです。」

「そう、六条の……」

 その瞬間私は悟った。

 ここはハーレムラノベの世界だと。


 どうやらこれは異世界転生というやつらしい。

 前世の記憶は曖昧だが、昔読んでいたライトノベルの世界に転生してしまっているようだ。


 それでは突然だが、ラノベの内容を説明をしよう。

 ここはとある帝国。主人公は皇帝の第二皇子。

 皇帝には何人かの妻がいるが、主人公の生母はその中で最も身分の低い、最も寵愛を受けていた妃。

 当然ほかの妃たちからは恨まれ、責められ、いじめられ、主人公が五歳の時に亡くなってしまう。

 皇帝はそのあと、亡き妃に瓜二つの姫君を妃に迎える。姫君と主人公は親子のように仲良く暮らすが、主人公は母への思いをいつしか恋慕へと変えていき……。

 容姿端麗頭脳明晰文武両道、非の打ちどころのない主人公と彼をとりまく様々な女性たちを描いたハーレムものである。


 さて、敏い皆様ならお気づきだろう。

 どこかで聞いた筋書きではないか、と。

 そう、何を隠そうこのラノベ、かの有名な古典文学作品のぱく……オマージュ作品なのである。

 流石は世界に誇る古典作品。ラノベの設定としてもめちゃくちゃ面白い。


 話を戻そう。

 問題は私が「誰」に転生しているか。

 私の名前はロゼットアリア・サウスウォール。次期女公爵でもある。

 そして私の夫こそが、あのラノベの主人公である元第二皇子で次期女公爵夫君、シャイアニア・サウスウォール。

 私は彼の「正妻」という立場にある。

 ハーレム物の「正妻」がどのような運命をたどるのか。色々なパターンがあるだろうが、ロゼットアリアの場合は「嫉妬に狂ったハーレムメンバーに呪い殺される」という運命をたどることになる。



 まじか。

 いや、無理です。

 勘弁してください。


 大体私とエロ皇子は原作通り冷え切った関係なので、嫉妬されて呪い殺されるとかマジ割に合わない。

 ロゼットアリアを呪い殺すのは、ケリーローム様。夫に先立たれ、一人娘と慎ましく過ごされている淑女の鑑のようなお方だ。

 そんな淑女の鑑をね、たぶらかしてね、惚れさせてね、飽きたらポイして正妻を呪い殺すほどに狂わせるのが私の夫です。いやだわー離婚したいわー。皇帝の命令だから離婚できないわー。


「あのエロ皇子のせいで呪い殺されるとか本当理不尽……無理無理無理…」

 思わず形よく整えてもらった爪を噛む。昨日塗ったネイルがはげちゃう。ごめんね侍女のみんな。

 大体、私だってあのエロ皇子と結婚なんてしたくなかったんだ。

 そもそも私は第一皇子、つまりエロ皇子の兄と結婚する予定だった。彼はまごうことなき由緒正しき妃との間の長男で、文句なしの皇太子候補だった。彼より同じ年に生まれた私は、大きくなったら第一皇子と結婚してこの国の皇后になるのだと、蝶よ花よと、時に厳しく時に厳しく育てられた。

 ところが様々な事情(主にお妃さまがエロ皇子を目の敵にしているとかそういうの)が重なり、エロ皇子を皇族から外す必要が出てきた。ところが腐っても皇子。適当な貴族の婿にしたのでは謀反を翻す旗にされてしまうかもしれない。

 そこで、エロ皇子の正妻には、身分が高く、王家に忠実でかつ第一皇子の祖父にも勝てる権力を持つ娘が必要となった。その条件に合うのが、サウスウォール家長女、ロゼットアリアしかいなかった、というわけである。


 私はもちろん、父も母も兄も反対した。でも皇帝は頑として譲らなかった。

 私を皇族に嫁がせ、公爵家は兄が継ぐ、というのが当初の予定だった。それなのに私は家に残ることになり、皇子を迎えるのだから私が女公爵として跡を継ぎ、兄は爵位をもらって家を新たに建てることになり、それはもうてんやわんやの大騒ぎだ。

 「大きくなったら皇后になる」と思い、第一皇子に淡い恋心を抱いていた私は三日三晩寝込むくらいにはショックだった。第一皇子は皇后候補の私にいつも優しく接してくれ、憧れの相手だったのだ。それなのに、「こいつと結婚とかまじかよ……好みじゃねえ」と呟くような年下のエロガキと結婚を命じられてしまったのだ。寝込むだろう。平手打ちしてやればよかった。


 まあそんなわけで夫婦仲は最悪。私は公爵家後継ぎとしての勉強や社交に忙しく、エロ皇子はあちこちの花の蜜を吸いに行くのに忙しく(仕事はできるらしい。腹立つ)ほとんど顔もあわせていないくらいだ。


 それなのに。

 そんな関係なのに。


 私は嫉妬されて殺されるのか。


 なんとかバッドエンドを回避できないものか……。

 すべての爪を駄目にして侍女に悲鳴を上げられながら私は考えに考えた。

 そして気が付いた。


 「夫より先に、ケリーローム様を攻略してしまえばいい」と。


 幸いにもエロ皇子はまだ三回しかケリーローム様を訪れていない(エロ皇子の行き先は公爵家が全部把握している)。身持ちの固いケリーローム様のことだ。いくらエロ皇子の顔がよくてもまだ完全に絆されてはいないはず。

 私は急いで皇后候補時代に厳しく講師をしてくれていた先生に手紙を書いた。ケリーローム様も元は皇后候補。同じ先生を師と仰ぐ、いわば姉妹弟子なのだ。この勝負、負けるわけにはいかない。私は結婚して以来仕舞い込んでいた『本気』を出すことにした。皇后教育の成果を発揮するのは、きっと今!



 先生経由でケリーローム様を屋敷にお招きした私は、極上の準備を整えた。

 侍女が「いよいよ浮気相手と決闘なさるのですか……?」と不安げに聞いてきたのでそんなつもりは一切ないことを懇切丁寧に説明し、ケリーローム様のお好きな花を調べ、お気に入りの生地を取り寄せてテーブルクロスに私自ら刺繍をし、シェフが試作に試作を重ねたお菓子を並べ、娘さんへのお土産もきちんとラッピングした。


 そして当日。

 時候の挨拶から始まり、皇后教育の先生についての近況から皇后教育あるある、皇族になることへのプレッシャー、好みじゃないお菓子をにこやかに食べる苦痛を男性陣にわかってもらえない苦しみ、皇帝の学生時代のやんちゃ話、最近の若い子に流行している衣装、皇后への愚痴、流行りの小説等それはそれは多岐にわたるジャンルをノンストップで話し続けた。

 昼過ぎから始まったお茶会は日が暮れる時間になっても話題が尽きることはなく。次はケリーローム様のお屋敷にお招きいただけることになり、ようやく区切りがついた。


「私、ここに来るまではお叱りを受けると思っておりましたの。シャイアニア様が我が家へ出入りしていることについて」

「それなのに来てくださったのですね…ありがとうございますケリー様……」

「ロゼア様、今日はありがとうございました。夫を亡くして子どもと二人、必死に生きてまいりました。こんなに心躍る時間は本当に久しぶりで……貴女よりもずっと年上ですが、これからも仲良くしていただけますか?」

「ケリー様! もちろんです!」

 あだ名で呼びあうようになった私とケリー様は、固い握手を交わした。

 初めは呪い殺されるのを回避するためでしかないお茶会だったが、思いがけず一生の友と結ばれ、私としても嬉しい。

 原作や、古典の二人も、語り合えば仲良くなれたのかもしれないと、ふと思った。



 それからしばらくして、エロ皇子は本格的にケリー様を落としにかかったらしいが、女の友情を甘く見ないでいただきたい。ケリー様はのらりくらりと誘いをかわし(我が家からのプレッシャーもあり)、ついにエロ皇子を別の女に向かわせることに成功したのだ。


 浮気が収まったわけでは全くないのだが、とりあえず私の最大の死亡フラグは回避されたといえるだろう。良かった、本当に良かった。

 私は一人、自室で満月を見ながら乾杯した。



 この後、夫がいたいけな少女に手を出すのを止めに入ったり、老婆に言い寄る兄と夫を生暖かい目で見守る羽目になったり、息子の結婚を巡って兄と揉めたり、夫が単身赴任先で子どもと愛人を作って帰ってきたりとまーーー色々あるわけだが。

 それはまた、別のお話。


読んでいただいてありがとうございます。


改めて調べ直してみた「源氏物語」めちゃくちゃ面白かったので皆様是非…。登場人物の魅力がすごい。

ちなみに古典作品では「呪い殺される」ではなく「生き霊に取り憑かれ殺される」なのですが長くなるので省略のためにも「呪い殺す」という表現にしております、念のため。

そのうちシリーズ化したいです!若紫ちゃんとか出したい!

どうぞよろしくお願い致します。

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