どんぶり
「どんぶりコロコロどんぶりこ♪おいけにはまってさあたいへん。どじょーがでてきて、こんにちわー。ぼっちゃんいっしょにあそびましょ。」
体を揺らして歌っている娘がいる。ノリノリで歌っている。ゴキゲンな様子だ。
「サッちゃん、どんぶりじゃなくて、どんぐりだよ。」
一度、私は娘の言い間違いを指摘したことがある。すると、本人はどんぐりと言っているもんとむくれたことがある。私はちょっとした歌詞の違いなんてどうでもいいかと思った。どんぶりが転がっていることもあるかもな。そう思ったのである。一番大事なのは楽しく歌うことだ。小さな違いを指摘されたことによって、歌を嫌いになることだってあるかもしれない。私はかもしれない生活を送ることに決めた。
それから二年後、「どんぐりコロコロ」の歌詞を間違えて覚えていたのは私の方だったということを知った。初めのどんぐりは合っていたのだが、二回目は「どんぶりこ」だった。どんぶりこ。小池にはまるどんぐりが落ちた時の音を表現したみたいである。そんな間違い、勘違いは誰にだってあるかもしれない。私は引き続き、かもしれない生活を続けた。
今日の晩御飯は私の大好きな牛丼だった。
「パパは牛丼が好きだけど、サクラは何丼が好き?」
「天丼と、カツ丼と釜飯丼だよ。」
「最後のやつは丼じゃないじゃん。」
「だって、どんぶりマントリオって言うんだよー。パパ知らないの?」
「あー、アンパンマンのカマメシドンね。ドンは丼でも、アイツは西郷どんとかのドンぽくないかな?」
「西郷丼って何? 美味しいの? サクラ、知らなーい。」
どんぶりマントリオは私だって知っている。なぜ、やなせたかしさんは天丼、カツ丼と来て、その後にカマメシドンという変化球を投げたんだろうか。ボケかな。ツッコミ待ちかな。不思議だ。子供が釜飯のことを丼だと勘違いする危険はないのかな。教育的に良くないだろう。いや、決めつけのだろう生活は良くない。でも、いくらでもどんぶりはあるのにな。そう、いくら丼とか、ウニ丼とか、鰻丼とか、海鮮丼とか。それこそ私の大好きな牛丼マンがいないんじゃないのか。いや、待てよ。もしかして、私が知らないだけかもしれない。あとで、調べてみよう。私はこれからも、かもしれない生活を続けることに決めた。