第四話 錬金術士の非日常②
集会の次の日。
朝はギルドから持ってきた棒状の携帯食料をもそもそと食し、
いそいで支度をして出ていく。
E班の集合地点につくが、そこには俺とオーロだけがいた。
「・・・遅い」
オーロがぼそりとつぶやく。
俺はこれでも5分前についているので、おそらく他数人のほうだろう。
パドルがどこにいるのかわからない。
方向音痴?いや、まさかな。
俺はそう考えつつも、不慣れな魔術を行使する。
そっとヤドリギの杖を強く握りこみ、魔術を詠唱する。
ぼそぼそとつぶやくような詠唱にする癖がついているが、
気にしていたら時間がもったいない。
詠唱が終わると視界が上る。上った視界を飛行させる。
のんきに買い物をしているわけではない、
裏路地にうっかり踏み入ったわけでもない。
このように死角をくまなく探していくと、
他がそろって逆の番地にいた。
杖を振って視界を戻す。
今度は錬金術の行使を行う。
「ちょっと空間を空けてくれ」
ふむ?といいつつオーロが離れてくれた。
昨日と比べて妙に聞き分けがいいな、今日?
何度も言うが、場所の交換は錬金術の十八番だ。
パっ、と場所を交換し、全員を集合場所に召喚する。
「えっ、あれ、ここどこ?」
「うわっ!?」「なんだ!?」「緊急事態か!?」
オーロがピリピリとしたオーラを出してる。
「全員一列に並べ!錬金術師は例外とする!!」
・・・その後、オーロがあいつらの背中を剣で殴った。
うん、叩き斬ったとかじゃなくて、殴った。
この先うまくいく未来どこ・・・Where・・・?
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鉄の甲冑に身を包む騎士たち、
その道すがらにひとつ、違和感があった。
「もう、しかたないなぁ。
そんなに話を聞きたいのかい?」
噴水の椅子に腰かけて本を開く、
水色の髪に赤い瞳を持つその男の話には、
誰も逆らうことができなかった。
全班が静かに、話に耳を傾ける。
ひとつところに ひみつはねむる
ほんをひろえば もどれない
ふたつところに ひみつはねむる
ほんのもようを おしこめば
みっつところに ひみつはねむる
たからのやまは あばかれる
よっつところに ひみつはねむる
あかいにっきを よみといて
男の話は、なによりも特別に聞こえた。
しかし、たった4つの詩で終わってしまった。
「今日のお話はここまで。
そろそろ、時間だからね」
男はすくっと立ち上がる。
同時に、自分たちはなすべきことを思い出す。
魔窟へ向かわなければ。
どれほどのものが待ち構えているかわからないが、
何にせよ、調査結果をまとめなければならない。
敵はどれほどのものか、どこまで攻略できたか、
その先は存在しそうか、などをまとめなければならない。
じっくり時間をかけるほど魔窟はその牙を剝く。
しかしながら、時間をかけなければ魔窟は調査できない。
充分量のデータをいかに早く回収するかが、魔窟調査のカギだ。
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新たに発見された魔窟は、苔むした暗い遺跡であった。
サブマスターのヒノキの経験則が正しければ、
少なくとも水系の魔物、土系の魔物、闇系の魔物が存在することになる。
羊皮紙にメモを取る。「苔むした 暗い 遺跡」。
「ん?何そのメモ。見てわかる情報が大事なの?」
「結構大事かもしれない。
とりあえず火と風の魔術を準備しておいたほうがいい」
「ここで止まれ」
オーロがE班を止める。
「何が来るか予測もたたないのが魔窟だ。
気を引き締めていくぞ」
まっとうなことを言うオーロ。
なんというか、これを見るとまともな人間なんだなと思う。
少しプライドが高いだけなのかもしれない。
ついに進出。
鈍色の甲冑がかつかつと音を立てて魔窟を進んでいく。
始めに出てきた魔物は中サイズのスライム。
スライムは粘液が有機物を含んでいるらしく、火の魔術をうまく当てると変性して殺せる。
ただ、今回の魔窟は遺跡型。小さい部屋で火はあまり使ってほしくない。
「スライムは・・・火よね?それじゃあ『ファイ・・・」
「ばかばかばか!?待て!ここは遺跡だぞバカ!」
「じゃあ何を用意すればいいのよぅ」
「水以外何でも効くんだから『ウィンドカッター』でも使って核を切断すりゃ・・・」
そんなことを言っていたら。
「はぁっ!」
オーロがスライムを一刀両断しました。
うん、そうだな。その方が速いよな。うん・・・
「相手はスライムだ、よほど大きくもなければ口よりも手を動かした方がいい」
「うっ・・・そうだよな、悪ぃ」
「私悪くないもん」
っとと、忘れるところだった。
羊皮紙に等距離器や定規を使って概略図を描いていく。ヒノキからよこされたフットスライムの特性のおかげで概略図が描きやすい。あいつには感謝しねぇと。
フットスライムは毎回きっかり5フィート・・・5歩分の距離を跳ねるスライムだ。だからこいつが跳ねた回数に5フィートをかければ距離として使えるってわけだな、便利便利。
・・・え、魔物が襲ってくるのにそんなこと数えてられる余裕がない?だからこそラプラスの秘奥、蒼白光球観測機ラプラシアンが役立つんだよ。これにフットスライムの跳ねた回数と角度を確認してもらっているから把握ができるってもんだ。
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概略図を描いてしばらく後。
魔窟の最奥、いわゆるボス部屋が見つかる。
「存外小さな魔窟であったな・・・
これより!魔窟鎮圧戦を開始する!」
「はっ!!!」
そうして、尖兵が突入する。
しばらく、反応がない。
・・・日が傾いているのがわかるのに、反応がない。
・・・・・・まだ、反応がない。
おかしい。明らかにおかしい。
だってそうだろう?
悲鳴すら聞こえないのだから。
俺達は、意を決して、扉をゆっくりと開いた。
そこには──