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かくしてヒトはゼロを求める  作者: エクス
一章 - よろずの錬金術 編 -
3/4

第三話 錬金術士の非日常①

前回までとは打って変わって、

今回は別の国での物語になります。

銀色の夢に幕が垂れる。

微睡みからゆっくりと覚め、俺は宿の人に朝食の準備を頼む。

しばらくして俺のもとに、半熟に焼かれた目玉焼き、バゲット5切れ、

温められて膜ができている牛乳、それからブルーベリーのジャムが届く。

お代を支払い、慣れないチップ渡しをし、そっと手を合わせ感謝を言祝ぐ。


「糧となった命の代わりに、今日を生きながらえます。活力をください」


俺なりの挨拶。敬意の現れ。国に流行っている宗教とは別。

あれは創造者を崇め、食事そのものへではなく、

食事を通して創造者へと祈るもの。

他の命を摂らねば生きていけない獣であれば、

せめて散った命へ贖いを誓うのが理性ある筋というもの。

言祝ぎ終わった俺は、ゆっくりと食事を口に運ぶ。

目玉焼きは無味な白身と濃い味の黄身が程よい対比になっている。

味を高めるという点で、かけられている塩コショウも良い。

ピリリと効いた辛味や旨味と紛う程の丁度いい塩味が、

ほんのりと苦い外縁の焦げ付きを食べやすくしてくれている。

膜のついた牛乳をゆっくり飲み込む。牛乳独特の甘さが、

とけた砂糖の甘さと混じり良いものに仕上がっている。

バゲットで渇く口に染み渡る。

バゲットにジャムを塗りつけて齧る。

ブルーベリーの酸味が砂糖の甘味と交差し互いを昇華させる。

堅いバゲットはそれらを載せた方舟。

単体で食べるよりも食感と活力、そして空腹を満たせるようになる。

やはり喉が渇く。牛乳を飲みたくなる。

いつの間にか完食してしまっていた。ほぅと息を吐き、ただ一言。


「ご馳走様でした」


確かに満足したが、可能ならもう少し欲しかった。

と、そう思えるほど良いものだった。

たまには大移動も悪くない。


ここはサピルベウ帝国。帝王の下で王政が繰り広げられる、

序列制度の整った武力国家。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『サピルベウのどこかに、管轄外の魔窟ダンジョン

 生まれたことが問題になった。可能な限りで助力を願いたい』


そのような依頼を受けた錬金術士が軒並み門前払いされたことで、

俺ら上位陣が出る羽目になった。


「悪ぃ、アルト!頼んだわ。俺ぁ見ての通りだ!!」

「すまん、アルト。昇格試験と降格管理のほうの

 権限持っているの俺とギルマスだけだから、ギルマスがあれだと

 出られない…!!」


ギルマ……獣はカンヅメになって事務仕事してるし、

サブマスのヒノキは昇格降格の管理を行うために残らないといけない。

上位陣が俺ら3人である以上、どうしても俺が出るわけだ。


依頼のためにギルドの会議室に入ると石が飛んできた。

のでつい移動の向きを変換して相手につき返した。


「…まだ会議まで10分あると思うんだが、

 なんで石を投げられるんですかね」


すでに不信感は高まっているが、席に着かねば進まない。


「ここに来た錬金術師どもは、あまりにも軟弱だ。

 まあ、投げられた石をどうにかできた点は評価してもいいだろう。

 そして、そもそも、30分は早く来るのが常識であろうに」


座れ、と顎で示された俺は静かに、

しかし目に不信感を湛えながら着席する。


「錬金術師の作業ってのは本来瞬間的な判断のいらないものが多いです。

 つまるところ、あなた方がこのような判断基準で軟弱か判断するのであれば、

 本当に上澄み、各ギルドごとに片手で数え切れる程度の人数しか用意できません」


俺の言葉はどうやら彼らには届かなかったらしい。

後で魔術師ギルドに誰かを不幸にする魔術について聞いて使おう、

そう思い彼らの姿を見る。


石を投げてきたらしい男は、飾り立てたような金色に銀のメッシュが入っている

ショートヘアで、髪には銀色の月桂冠を着けている。

鉄の鎧を着けた肩から緋色のマントを羽織っており、

明らかに上官と言うべき立場にいるのだろう。


鎧を着けていない人物の方が著しく少なく、

よく見ると自分を除いたそのような人物たちは

最大の魔術研究機関の学生だった。

茶を焦がしたような柔らかくも芯のある色に、

裏地は淡く深い緑で洗練されているローブ。

マフラーは暗い水色で、金を細く伸ばしたような糸で

尻尾の1つ多い猫が刺繍されている。

魔術機関・アカディエ魔術学院の、伝統ある学生服だ。


その中にいた一人、朱色の髪を左右でそれぞれ束ねたオッドアイの学生が、

石を投げてきたらしい男に反論を示した。

「あら、30分早くとかいうけれど。

 あたしが25分遅れても、次に来た30分遅れの人だけが

 石を投げられたのだけれども?こっちに関してはどういう了見かしら?」


男は言葉に詰まり、沈黙する。

女はさも勝ち誇ったかのような表情を浮かべた後、俺に顔を向ける。


「大丈夫。こいつらは一番遅れたやつだったり、

 一番軟弱そうなやつだったりに石を投げるの。

 あなたはどっちでもありそうだったから

 問答なしで石を投げられたのね。

 あ、自己紹介がまだだったわね。

 アタシはパドル!パドル・リズルっていうの!

 あなたの名前は?」


俺はパドルの言葉で全体への不信感を軟化させ、

最低限のあいさつを行うことに決めた。


「ラクシルゥ辺境の錬金術士ギルド『アルベド』から参上した、

 ギルド内最上位錬金術士のアルト。一応他の最上位は

 ギルド・サブマスターのヒノキとか、

 ギルド・マスターのタールとか……

 それくらいだな」


石を投げてきた男はふんと鼻を鳴らすと、


「俺はサピルベウ第一魔導騎士団序列一位のオーロだ。

 貴様らは我々の補助をしていればいい」


という。

まあ、もともとそういう、依頼だったから、その、いいけどさ……

なんか癪に障るからこいつらの補助を雑にしてしまいたい。

どうせこいつらまともに補助しても慢心してナンバー14、だろ絶対。


「たしかアルベドのマスター、タールは攻性錬金術に長けている錬金術士。

 サブマスター、ヒノキは特性錬金術に長けている薬師系統の錬金術士。

 それからもう一人は名前が伏せられているけれど、

 曰く『杖の学士』の息、子……!?」


うげっ。

これだから知識あるやつは……面倒なんだよ。


「あんた、『ラプラスのマスターピース』!?」

「ラプラスの最高傑作とか言われてんのは認めるが、

 そんな大層なものじゃないぞ俺」


否定するのは俺の信念に反するから一応肯定しておくと、

どうにも長話だったようで


「貴様らそこで私語を話している暇があると思っているのか?」


と飛んでくる。俺はかなり腹が立っていたようで、


「うるっせえんだよガッタガタガタガタぬかしやがって。

 こちとら正式に依頼されたのに石投げつけられて

 不信感と不快感持ってんですけど?なに?

 どう落とし前つけてくれんのさ、この感情にさ?」


と反発する。それと同時くらいか、


「私語の一つや二つ話したくなるわよ、こんな人物の前じゃ」


とパドルが言い返していた。


「な、にを…言っている!?

 全体の風紀を乱すことはやめろ!」


オーロのその言葉に対して突っかかろうとするが、

すぐに冷静になる。


「全体の風紀、ねぇ…いや、そうだな。

 そこは申し訳なかった。

 早急に議題に移っていただけるか?」


そこからの議論はサクサクと進む。

すでにある程度向こうさんのほうで陣形を立てていたらしく、

魔術士や錬金術士の枠を埋めるだけ、というところまで

来ていたようだ。

それによれば俺はE班に所属し、オーロの手助けを行うらしい。

オーロはいわゆる魔法剣を扱うらしく、その魔力回復の補助だそうだ。

魔力回復薬に関してはこちらで用意できるが、魔法剣の威力や

前隙・後隙によっては魔術士もいたほうがいいと思い確認すると、

魔術士枠がきちんとあった。


「あら、あなたもE班なのね?」


同じ班の魔術士はパドルだった。

偶然とは時に奇妙なことを引き起こすものだ、と

この時の俺はそんなことを考えていた。

いかがでしたかね?


うっかり消しちゃったので再投稿です。

いやぁ、間違えってよくありますよね!(n敗)

はい、これからは気を付けます。

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