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99.嫌だというなら仕方がありません。

「学友のアウラリーサ・ブランシェルです。こちらはわたくしの従者でフレッドと申します。先ぶれも無くお訪ねして申し訳御座いません。ラヴィニア様にお繋ぎ頂けまして?」


 オロオロとしながら出てきた家令に、にっこりと笑みを向ける。


「は、ですが、いえ、今はその、ちょっと……」


 ちらちらと中の様子を伺う家令に、私はすっと一歩近づき、書状を見せる。

 私の指示に従うようにとの、国王の印の押された勅命状である。


「国王陛下の許可は頂いておりますの。通して頂けまして?」

「は……? え、あっ。は、はいっ。失礼致しました」


 勅命状に目を通した家令はぴしりと佇まいを直し、恭しく中へと招き入れてくれた。

 そのままパルエッタ伯爵夫妻の元へと通される。


 屋敷の中に入るなり、人の言い争う声が聞こえてきた。

 騒ぎの聞こえる部屋の前で家令は足をとめ、一度私をちらりと見た後、部屋をノックした。


「なんだ!!」

「旦那様。ブランシェル公爵家のアウラリーサ様がお見えです」

「なんだと?!」


 カツカツと足音が聞こえ、バンっと扉が開いた。

 凄い形相の恰幅の良い男性と眉を吊り上げた美人さんが詰め寄ってくる。


「アウラリーサ・ブランシェル嬢! あなたですか!? うちのラヴィニアを陥れようとなさっているのは! 一体何の証拠があって――」


 怒りに任せ、伯爵が私の襟首をひねり上げてくる。

 レディにこんな真似をするなんて。

 魔物に比べたらこんなおっさん全然怖くないわ。


 フレッドがすっと前に出ようとするのを目で制し、ベルトから扇を抜くと、伯爵の手首に扇を渡し、ぐぃっと下に押した。途端に伯爵が膝をつく。


「ぐぁっ!?」

「あなた!?」

「静かにして頂けます?」


 めいっぱい声を低くして、膝をついたパルエッタ伯爵の前で、扇を広げ、口元を隠しながら見下ろした。

 私の隣では、フレッドが身を低くし、剣に手を掛けている。


 パルエッタ夫妻は、真っ青な顔で言葉を失った。


 その後、家令に促され、ソファーへと落ち着く。

 ちらちらと視線を彷徨わせながら、侍女がお茶を淹れてくれた。

 パルエッタ夫妻は、青い顔で項垂れている。

 私はお茶を一口頂いてから、改めて挨拶をした。


「アウラリーサ・ブランシェルです。詳細は王宮の騎士から伺っているかと存じます。わたくしはラヴィニア様とお話をさせて頂くため、国王陛下の許可を頂き馳せ参じましたの。ラヴィニア様はどちらに?」


「あの、娘は、臥せっておりまして……。何かの間違いですわ。ラヴィニアは気が弱く大人しい娘なのです! 大それた真似をする子では御座いませんわ!」


「ラヴィニア様とユーヴィン・ストムバート様はご婚約なさったそうですね? どのような経緯で?」


 扇を広げ、チロリと見下ろすと、パルエッタ夫妻は顔を見合わせた。


「私が宰相閣下の部下なのです。その関係でラヴィニアが幼い頃よりストムバート家とは懇意にして頂いておりました。ラヴィニアは長くユーヴィン殿を慕っておりましたので、何度も打診をしていたのですが、漸く、ユーヴィン殿から婚約を受けると返答を頂きました次第であります」


 困惑気味に話してくれたパルエッタ伯爵に頷いてみせる。


「アメリアというのはこちらの侍女で間違いございませんか?」


「アメリアは確かにうちの使用人でございます。ただ、侍女ではなく、下働きの娘で御座います」


 なるほど。


「では、ラヴィニア様のお部屋はどちら?」


「は、ですが、ラヴィニアは今――」

「勅命です」


「……マルク。案内をして差し上げて」


「こちらで御座います」


 先ほどの家令が、ラヴィニアの部屋へと案内をしてくれる。


 階段を上がった、南向きの部屋だ。家令が扉をノックする。


「お嬢様。お客様がお見えです」

「具合が悪いと言っているでしょう! 誰にも会いたくないわ! 帰って頂いて!」


 中からヒステリックな声が返ってきた。

 声がくぐもっているところをみると、布団でも被っているのかもしれない。


「ラヴィニア様。わたくし、アウラリーサ・ブランシェルですわ。……貴女が()()()()()()()()ビアンカ・ブランシェルの姉です」


 家令がぎょっとしたように私を見て、部屋の中からは、ひっと小さな悲鳴が上がった。


「あなたとお話がしたいの。ここを開けて下さらない?」


「か……帰って下さい! わたくし、何も知りません! 何もしておりませんわ! アメリアが勝手にやったのよ! もうお帰りになって!」


 ――よし、吐いた。


「どうしても開けて下さらないの?」


「帰って!!」


「……わかりましたわ」


 仕方がないな。思わずため息が零れる。

 あからさまに、家令がほっとした表情を浮かべた。

 恐らく騎士も散々これをやりあったのだろう。


「申し訳御座いません。では――」

「どうしても開けないと仰るのなら、蹴破ります」


「――は?」


 家令の笑みが固まった。

いつもご拝読・いいね・ブクマ、有難うございます!!

今日は夜にもう一本、投稿予定です!

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