95.黙っていて、ごめんなさい。
「そう、ですね。一番怪しいのは、やっぱりユーヴィンだとは、思います。でも、彼はビアンカに懸想をしていたと思うのですが……」
好きな人を、階段から突き落とす様に命じたり、するものなんだろうか。
私は肩越しにフレッドを見上げる。目が合って、ふわりと微笑まれ、つられて私も笑みが浮かぶ。
フレッドが、大けがをしたとき、私は怖くてたまらなかった。
かすり傷にだって、心配になる。手当てをしなきゃとテンパってしまう。
多分私は、フレッドを本気で殴ったりは、出来ないだろう。
訓練でも、真剣は使えない。傷つけてしまう恐怖が勝ってしまう。
一つ間違えば命に係わることなんて、絶対に無理だ。
でも、ユーヴィンの『好き』って、私と同じなんだろうか。
『ゲーム』の中の『ビアンカ・ネーヴェ』と愛し合っていたと言ったユーヴィン。
あれだよね。推しキャラは俺の嫁的な。
ガチで恋するパターンが無いとは言わないけれど、ユーヴィンは、どこか画面越しにゲームをしている感覚なんじゃないだろうか。
だから、ビアンカのことも、キャラクターとしてしか見ていないとか?
そういえば、ユーヴィンから聞いたことを、アイザック殿下やフレッドには話していなかった。
……寧ろ私、まだフレッドに話して無かったんじゃないか?
「……フレッド」
「はい。お嬢様」
「今から、私、とってもお花畑なことを話します」
「――は?」
「どんな私でも、受け止めてくれるのよね?」
目をぱしぱしとさせるフレッドに、私は全部打ち明けた。
私が、別の世界から来た転生者だってこと。
私が記憶を失ったあの日に、アウラリーサ・ブランシェルは私になった。
メルディアの白雪姫というタイトルのゲーム……って言っても意味わかんないだろうから、物語のこと。
アウラリーサというキャラのこと。
攻略対象のアイザック、ユーヴィン、ヴァルターのこと。
ビアンカも、そしてユーヴィンも、転生者だったこと。
そして、ユーヴィンが言っていたことも、全部。
「――だから、私は、ビアンカを育てようと思ったの。だって、上位貴族の嫡子の相手がお馬鹿なお花畑の学力底辺で礼儀も作法も知らない平民出の娘だなんて、国の将来不安しかないもの。どうせビアンカに攻略されるなら、とっとと婚約者様はヒロインに差し上げてしまおうと思ったのよ」
「おま……」
「ぁーぅっ」
アイザック殿下とビアンカが揃って顔を覆う。
不敬は承知だけどここで回りくどく言うの面倒じゃないの。
「そんな……アリーが巨漢の女帝……? 俺か……。俺が面白がって食わせたからなのか……?」
カシー兄様は変なところで打ちひしがれていた。いや、ゲームだからね?
私は、立ち上がってフレッドを見上げた。
目を丸くしているフレッドに、頭を下げる。
「ごめんなさい。黙っていて。あなたの可愛いアウラリーサじゃなくて」
「アリー」
ふわり、と私の頭に、温かい手が乗る。
顔をあげたら、フレッドが優しく微笑んでいた。
「俺が愛したのは、あなたですよ。あなただから、好きになったんです」
「……有難う……」
思わず、きゅぅんってなって、頭に乗せられた手を取って頬を寄せる。
「お前ら、いい加減にしろよ……?」
「フレッド、俺の前で良い度胸だな……」
「お姉様ー……」
ぁっ。
慌てて手を解いて、こほんと咳払い。
フレッドも真っ赤になって天井を見上げている。
「ええと。だから。そう、ユーヴィンがビアンカを好きっていうのも、何かズレてるっていうか……。プレゼントもそうだったでしょう? ビアンカが受け取りを拒否したら、怒るでも悲しむでもなく、ゴミのように捨てたりして」
「ん、つまり、アリーは、ラヴィニア嬢がユーヴィンに脅されていたって考えてるのかな?」
「まだわかりません。アメリアって子が言っていたことも確証はありませんし……。とりあえず、わたくしは一旦ヴェロニカにお手紙を出してみますわ。ヴァイゼ殿下に魔道具を渡すと仰っていましたから」
「声を記憶する魔道具だっけ。私はヴェロニカ嬢を支持するな。ヴァイゼ王子なら、何か掴んでくれると思う」
うん、っとアイザックが頷く。
「そうだね。ビアンカは数日は安静にしていなくてはいけないし、恐らく明日は学園も休みになるはずだ。事件の話を聞きたいって名目なら、ヴェロニカ嬢やヴァイゼ殿下と王宮でお会いすることもできるとおもうのですが、殿下」
「ああ。私から父上に相談をしてみるよ。ストムバートの調査が始まったら、分かったことをストムバートに話してみるつもりだ。ストムバートが絡んでいるのなら、何かしら、動きがあると思うし、もし絡んでなければ、正義感の強い彼のことだ。きっと進んでユーヴィンの調査をしてくれるだろう」
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ちょっと体調が悪いので、明日の朝の更新は微妙……。
夜には投稿するつもりです。ダウンしてたらごめんなさいっ。




