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91.委ねます。

「わかったわ」


 私は、甘いのかもしれない。

 頭では、色々渦巻いてる。

 私は、ヴェロニカが好きだ。

 だから、ヴェロニカを信じたい。

 でも、ヴェロニカが私をだましている可能性だって、無いわけじゃない。

 渡すことによって、不利になるかもしれない。

 ビアンカやアイザックどころか、この国自体を危険にするかもしれない。

 疑いだしたら、キリがない。


 結局のところ、覚悟があるかって、ことなのかも。

 ヴェロニカが、ヴァイゼ殿下を信じるように。

 信じる責任を自分で背負う覚悟があるかどうか、なのかも。


 調べて分かることは、調べよう。でも、一人の力なんてたかが知れてる。

 誰かに委ねるしかない場合だって、少なくない。

 いつだって、誰かが手を貸してくれたから、今までやってこれたんだもの。

 誰かに託すなら、信じようと思うなら、信じる覚悟が必要なんだ。

 ヴェロニカは、信じるに値する人だ。だから、私もヴェロニカを信じる。

 信じて、託す。


「わたくし、ヴォニーを信じるわ。ヴァイゼ殿下を信じるヴォニーを信じる。イグナーツ様。宜しいでしょうか」

「アウラリーサ様のお望みのままに」


 にこ、と笑みを浮かべて、イグナーツは私に微笑むと、魔道具を摘まんだまま、ヴェロニカに視線を移した。


「――でも」


 笑みを浮かべたまま、まっすぐにヴェロニカに視線を合わせる。


「この魔道具には、先ほどの会話がそのまま記憶されています。丁度アウラリーサ様の声を記憶させたところから。記憶させた魔道具は、消すことはできません。こっちの魔道具は、アウラリーサ様に預けます。ヴェロニカ嬢。あなたはこちらの魔道具を、ヴァイゼ殿下に渡してください」


 イグナーツは、机に置かれていたもう一つの魔道具をヴェロニカに差し出した。


「ここを押せば、記憶が開始されます。押したら、後は二十四時間、止まりません。機械についたこの突起をスライドさせて、こちらのボタンを押すと記憶した音が流れます。もう一度押すと止まります。この突起の上についている印は、時です。時計と同じですね。ここが三、六、九、十二、で一周。スライドの位置が記憶された時間になります」


 見た目的には、スチームパンクっぽい。

 鳥かごのような道具。中には魔石。台座の部分には、ぐるっと囲むように小さな印。ダイヤルのような印の下には、ぐるっと溝が刻まれていて、その溝の所に爪の先ほどの小さなバー。

 そのバーをスライドさせると音が出る。

 バーの下には、ボタンが二つ。縁取りのように丸い溝が二つのボタンが録音ボタン。縁取りが一つで、録音ボタンよりも小さいボタンが再生ボタン。


「途中で止めたりできないの?」

「ええ。途中で止めたりできてしまうと、都合のいいように変えられてしまいますからね。自分の言葉を消したりだとか、それだけで印象は全く違うものになってしまいますので……。例えば」


 ふ、とイグナーツが視線をシャーリィに移した。

 きょんっと目を丸くして、ぱしぱしと瞬くシャーリィ。


「シャーリィ嬢。実は私の知り合いが王宮でパティシエをしていまして、王家御用達のまだ誰も食べたことの無い超最高級のチョコレートがあるのですが、チョコレートはお好きですか?」

「え、大好き! 何? くれるの?!」

「はい。欲しいですか?」

「え! 欲しい!!」

「一個小金貨一枚もする高級品ですが、特別に差し上げます」

「きゃー! イグナーツ様大好きー! 愛してるー!!」


 ぴょんぴょんと跳ねたシャーリィが、がばーっとイグナーツに抱き着いた。

 イグナーツはにこにこと笑みを浮かべたまま。


「嘘です」

「……へ?」

「あるわけないじゃないですか。あってもシャーリィ嬢にはあげません。全部僕が食べます」

「えええええッ!? 何それぇ!! 騙した! イグナーツ様酷ぉい! 意地悪! 悪魔! イグナーツ様なんて嫌いっ! だーいっきらいっ! もう絶交ですぅ――!!」


 シャーリィはムキーっと怒ると、イグナーツをどーんっと押した。

 細いけど、イグナーツはびくともしていない。にこにこしながらケロッとしている。

 何これ。


「……??」


「つまり、今シャーリィ嬢の言ったセリフだけを抜き出せば、シャーリィ嬢は僕に愛を叫び、更に別の人には僕の悪口を言っていた、なんてことを捏造できてしまいます」


「あ――」


「だから、一度押したら二十四時間は止まりません。ここの扉を開けて中の魔石を交換すれば、追加で記憶が可能です」


「わかりましたわ」


 イグナーツが、ヴェロニカの掌に、魔道具を乗せた。

 ぎゅっとヴェロニカが魔道具を抱きしめる。


「アリー。わたくし、絶対にこの魔道具を役立ててみますわ。決してアリーを、メルディアを裏切りません。裏切らせません。もしもヴァイゼ殿下が悪意を持っていたのなら、わたくしが必ず刺し違えてでもお止めします。誓いますわ」


 ヴェロニカは、視線をもう一つの魔道具へと向けた。

 紡がれた言葉は、あえてなのだろう。録音されていることを、知った上での発言だ。

 多分、これは、ヴェロニカの決意。

 ヴァイゼ殿下は、ヴェロニカにゆだねよう。

いつもご拝読・いいね・ブクマ、誤字報告ありがとうございます!

予定よりも早く更新できました!

次は明日の朝、8時投稿予定です。

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