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85.ボッコボコにしてやりました。

 私が救護室を出てすぐに、王宮から派遣された医師団がやってきた。

 そのうちの一人は、以前フレッドが傷を負った際に治療をしてくれていた医師だった。


 目が合うと、会釈をしてくれる。


「妹なんです。どうか、よろしくお願いします」


 私が深く頭を下げると、医師は笑みを浮かべ、最善を尽くしますと、ビアンカのいる救護室へと入っていった。


「アウラリーサ嬢。俺も手伝わせてくれ」


 苦し気に眉を下げるヴァルターに、私はゆるりと首を振る。


「アイザック殿下の傍にいて下さい。まだ、アイザック殿下を狙ったわけではないとは限らないのですから。必ず、殿下をお守りしてください」


「……わかった」


 ぎゅっと一度目をきつく瞑り、ヴァルターが頷いた。

 心配してくれたらしいフローラとヴェロニカが救護室の傍まで様子を見に来てくれた。


「アリー様。ビアンカ様のご容体は?」

「フローラ、ヴォニー。次の授業、もう始まっていたのではなくて?」

「授業はありませんわ。王宮から騎士が派遣されて参りましたの。授業どころでは無いみたいですわ」

「そう……。フレッドを助けて下さった医師の方もいらしていたの。きっと大丈夫」


 私は掻い摘んで、アイザック殿下から聞いた話を二人に話した。


「手分けをして当たってみましょうか。わたくしは一旦ヴァイゼ殿下にご報告に参りますわ」


「わたくしは、アネット様と仰ったかしら。その方が何か見ていたかもしれません。お話を伺って参りますわ」


「では、わたくしはビアンカを落とした女を追っていったという方を探してみますわ」


 私達は、お互いに頷きあうと、夫々が動き出した。


***


 王宮騎士団によって、学園は封鎖されたらしい。

 あちらこちらで、既に騒ぎになっているようだ。

 声を掛け、話を聞いたが、どれも『ビアンカ様が階段から落ちたらしい』というのと『ビアンカ様が落ちた後、女子生徒が二人走っていったらしい』という情報だけ。


 何人かは、心配そうに声を掛けてくれた。

 残念ながら、声を掛けてくれた人の中にも目撃者は居ないようだ。


 少し遠回りになるが、西階段を回ってみる。

 階段のあたりには、数名の王宮騎士の姿があった。

 西階段は使えないらしい。

 四人ほど、騎士が階段の下に集まり、階段の上を指さしたり、しゃがみ込んで床を確認したりしている。

 恐らく、あそこがビアンカが落ちた場所なのだろう。

 ぎゅっと胸が詰まった。


 階段を見上げてみる。

 西階段はどん詰まり。

 左に曲がっても、その先は行き止まりだ。

 となると、曲がったのは右側。

 


「あの。宜しいかしら?」


 近くにいた人に小声で話を聞いて回る。

 十五人ほどに話を聞いた時だった。

 階段を駆け上がっていく人物を見た、という人がいた。

 魔導科の生徒だ。


「僕が見た時は、女の子が階段の下に倒れていて。駆け下りてくる男子が二人、駆け上がっていく女子が二人でした」


「駆け上がっていったのはどんな子だったかお分かりになります?」


「一人は茶色い髪の女子で、もう一人は赤っぽい金髪の子でした」


 ――赤っぽい金髪……? シャーリィ?


「どちらへ行きました?」


「階段を駆け上がって、右側に曲がっていきましたよ。倒れていた女の子に駆け寄ったの、アイザック殿下だったんですが、救護室へ連絡してくれって叫んでたんで、僕はその後救護室に向かったから後の事は分からないんですが」


「そう。有難うございます」


 私は教えてくれた生徒に軽く頭を下げ、西階段の上へと急ぐ。

 途中で、見かけた生徒に声を掛けて回った。

 凄い勢いで走っていた女子二人はかなり目立っていたらしい。

 まぁ、貴族しかいない学園で廊下ダッシュすれば当然目立つだろう。


 実際に走っているところを見た、という人もそこそこ居た。

 二人は廊下をダッシュして、そのまま実技棟の方に走って行ったらしい。


 実技棟は、分野ごと、用途に合わせた授業を行う為の教室のある一角だ。

 例えば、淑女科なら、お茶会を模したサロンであったり、夜会のパーティ会場であったり、音楽室や美術室、みたいな部屋があったり。それが、各科ごとに複数、教室が設けられている。


 二人が曲がっていったのは、淑女科の実技棟。

 話を聞きながら実技棟に向かっていると、ピンクの髪を揺らして、淑女科の方からシャーリィが駆けてきた。

 何だかやけに制服がヨレヨレになっていて、髪もぐしゃぐしゃになっているけれど。


「アウラリーサ様ぁ!」

「シャーリィ。丁度あなたを探そうと思っていたのよ」


 シャーリィは駆け寄ってきて、私の腕を掴むと、ぐぃぐぃと人の少ない場所へと連れて行く。

 私は大人しくシャーリィの後について行った。


「温室に珍しい花が咲いてるからって聞いて、見に行こうとしたんです! そしたら、アイザック殿下とビアンカ様が上がっていくのが見えたから、声かけようと思って階段を上がってたんだけど、わたしの前に居た子が、ビアンカ様の背中を掴んで、後ろに引っ張るのが見えちゃって。わたしはちょっと離れていたから、ビアンカ様助けられなかったけど、逃げてった子を追いかけたんです」


 ふんすふんすと鼻息荒く、シャーリィが一気に話してくれる。


「それで、その追いかけていた子は?」

「任せて下さい! ちゃんととっつかまえました! めっちゃ抵抗するから、ボッコボコにしてやりました!! 伸びちゃったから、覗き込んでた子に頼んで捕まえて貰ってます! わたし、騎士さん呼びに行こうと思ってぇ」


 ドヤっとシャーリィが胸を張る。よしよし、とシャーリィの頭を撫でてあげた。


「よくやったわ、シャーリィ。その子はどこに?」

「なんの教室かわかんないけど、猫足のテーブルがよっつと椅子がよっつずつ並んでるお部屋です!」


 多分茶会実技室ね。通称サロン。

 私は傍にいた人に騎士を茶会実技室に呼んでくれるようにお願いをして、私はシャーリィと一緒に、その部屋へと急いで向かった。

 

 

いつもご拝読・いいね・ブクマ・評価、有難うございます!

次は夜、21時頃投稿予定です。

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