8.喧嘩は買わせて頂きます。
一時間はあっという間だった。
お兄様におねだりして、練習用の剣を持たせてもらったりもした。
子供用のショートソードなのに、めっちゃ重かった。あれをあんなに軽々振り回すのかと、兄ますます尊敬。
騎士さん達の筋肉も触らせて貰ったりして、大満足。堪能堪能、超楽しかった。
屋敷までまたフレッドに送って貰い、扉の所でバトンタッチして、リティの案内でお母様の待つサロンに向かう。
「お嬢様がお戻りになられました」
「通して頂戴」
どうぞ、と促され、部屋の中に入る。
ソファーにゆったり腰掛けるお母様の向かい側に、ツンっとした感じのオバサンがいた。
――ん? なんか今、睨まれた?
「アリー、こちらにいらっしゃい」
「はい、お母様」
なーんか感じ悪いな。めたくそガン飛ばしてくるんだけどこのオバサン。
視線がこっちを追ってくる。オバサンを気にしながら、私はお母様へと歩み寄った。
「アリー。この方が家庭教師のメイナード子爵夫人よ。ご挨拶なさい」
「ご機嫌よう、メイナード夫人。今日は私の我儘でお約束を破ってしまい、申し訳御座いませんでした」
ちょん、とカーテシーで挨拶をする。
イラついてるのが態度に出ないように気を付けないと。
「……イザベラ・メイナードで御座います。……お記憶を無くされたとか? で? お勉強の時間に合わせたように、騎士団の見学、ねぇ……。とんだ無駄足になりましたが、まぁ、よう御座います。それならば、明日からは今まで以上お勉強をなさって下さるんでしょうね。何せ、お嬢様はわたくしがお教えしたことも、ぜぇーんぶお忘れになられたのでしょうから? 今までの分も取り返さねばなりませんものねぇ。明日からは今までより一時間、いえ、二時間は長く致しましょう。宜しいですね。奥様」
……あァん?
なんだコイツ。喧嘩売ってんの?
もしやアウラリーサがああなった要因の一つは、このオバサンか?
「メイナード夫人、それはいくら何でも……」
「わたくしはお嬢様のお為を思って申し上げているのです。こう申しては何ですが、旦那様も奥様もお嬢様を甘やかしておしまいでしょう? お嬢様はアイザック殿下の婚約者となられたのですから、いつまでも我儘を通されては困ります。わたくしは奥様がなさらない代わりに、お嬢様を厳しく躾け、公爵令嬢にふさわしい、立派な貴婦人に育て上げねばなりません。その為にわざわざ王女殿下の家庭教師も務めたわたくしが、お屋敷に出向いておりますのよ? 努々お忘れなきよう。もちろん給金はその分払って頂きますからね」
眉を寄せて窘める母にネチネチと嫌味を言うオバサン。しかもマウント取ってきやがった。
お母様の表情がスンっと固くなる。
……んだこのクソババァ。
おま、雇い主である公爵夫人相手に何説教こいてんだ。
うちの可愛いお母様虐めると奥歯ガタガタ言わせんぞコラ。
「私は大丈夫です。お母様。よろしくお願いします。メイナード夫人」
面白い。喧嘩売るなら受けて立ってやろうじゃないの。
カ――――ン!
心の中でゴングが鳴り響いた。
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