表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/109

79.ハッピーエンドはほど遠い。

 少しの間、私もビアンカも無言だった。

 頭の中で、考えていたからだと思う。


「……まどろっこしいのは、苦手だわ」


 貴族としては、やらざるを得ないことなんだけど。

 私は元来腹の探り合いは正直苦手だ。


「直接、話してみるわ。ユーヴィンと」


 考えた末、恐らくユーヴィンも転生者なのだとしたら。

 もう、はっきりすっぱり、聞いてしまえばいい。

 後の事は、後で考えよう。

 どうせ、筋書き通りに行くことなんて、早々起こりはしないのだから。


***


 翌日、私はユーヴィンを釣ることにした。

 あえてビアンカに、昼休みに、ユーヴィンを呼び出して貰ったのだ。


「……」


 食堂の個室へとやってきたユーヴィンは、扉を開け、私を確認するなり、その表情を無にした。

 黙って扉を閉めようとする。


「入ってお掛けなさいな。ユーヴィン・ストムバート伯爵子息」


 どうぞ、と向かい側の席を指す。

 あえて権力を利用させてもらった。ぶっちゃけ学園の中では通用しない代物なんだが、伯爵子息とはいえ、宰相の息子だ。幼い頃から叩き込まれた身分差を匂わせた命令には、そう簡単に逆らえない。


 渋々と言った様子で、閉じかけた扉の向こうでため息をつき、ユーヴィンが部屋へと入ってくる。

 命じられるままに私の向かいに腰を下ろした。


「回りくどいのは止めましょう? 貴方、転生者?」


「――そうですよ」


「そう。で? 何故、今頃になってビアンカにちょっかいを出すのかしら?」


「――最初は、何が何だか分からなかったんですよ。ねぇ、アウラリーサ嬢。何故、領地に引きこもっているはずのあなたが学園に居るんですか? 何故、ビアンカ・ネーヴェがあなたの義妹なんてことになっているんですか? 何故、アイザック殿下とビアンカがすでに顔見知りなんですか」


 何故。私が、そうなるように動いたからだ。


「僕は、前世を思い出した時、なんとしてもビアンカに選んで貰いたいと思っていたんですよ。入学したら、すぐに彼女を探すつもりでした。なのに、入学してみたら、アウラリーサ・ブランシェルがクラスメイト。それっぽい子が居たと聞いて見に行ったのに、居たのは頭の悪そうなシャーリィ・バーシル。別人だった。そしてアイザック殿下の横には、君を姉と呼ぶ少女。まさかと思いましたよ。あんな取り澄まして微笑む娘が、あのビアンカ・ネーヴェだなんて。平民だったビアンカを養女に迎え、アイザックの妃として作りかえられてしまったと気づいた時は、目の前が真っ暗になりました。あんなに、天真爛漫でコロコロ表情の変わるビアンカが、あんなどこにでもいる平凡な貴族の娘になっているなんて。あなたのせいでしょう。アウラリーサ・ブランシェル」


「――そうよ。私が仕組んだの」


「なら、僕も、自分の為に動いても文句ないですよね。あなたが自分の為に、あの愛らしいビアンカ・ネーヴェを、つまらない令嬢に変えたんだ。僕はビアンカを元の明るく天真爛漫で、少しお馬鹿な彼女に戻してあげる。アイザック王子がそれを厭うなら、僕が彼女を愛してあげる。狂った物語は、元の正しい形に直さなくてはいけない」


「元にって……。ビアンカも望んだことよ!? 貴方はあの子の努力を無下にするつもり!?」


「そう仕向けたのは貴方でしょう、アウラリーサ・ブランシェル! 貴方に誘導され、そうあるべきだと思わされた彼女の目を覚ましてあげる。彼女が自分を殺さずとも、僕はありのままの彼女を認めてあげられる! 元々彼女と僕は愛し合っていたんだ!」


 ……ン……?

 どういうこと?


「待って。あなた、入学まで、ビアンカに会ったことはないのでしょう?」


「そうですよ。でも、前世で僕とビアンカは愛し合っていた! 僕は前世でもユーヴィン・ストムバートだったんだ!」


 ????


「あの」


「なんですか」


「貴方が言っているのは……ゲームの話? で、あっているかしら」


「そうですよ。当たり前じゃないですか」


「前世でユーヴィンだったというのは?」


「攻略対象ですよ。僕はユーヴィンルート一択です。何せユーヴィンは僕ですから」


 つまり……なんだ?

 前世の彼は、ゲームの中のビアンカにガチで恋していた的な……?

 自分をユーヴィンに置き換えてたってことなのか?

 カプとか推しとかじゃなく??


 ――こわッ!?

 ヤバイ、コイツガチのサイコパスなんじゃないだろうか。

 こんな一見さわやか美少年なのに。


「あ、あああああ、あなたに可愛い妹は渡さないわよ!?」


「それを決めるのは貴方じゃない。ビアンカです。さ。もういいでしょう。私は戻りますよ」


 にっこりと笑みを浮かべると、ユーヴィン・ストムバートは優雅に一礼し、長い髪を揺らしながら、部屋を出て行った。


 ――なんかこのゲーム……。

 現実化したとたん、闇が深すぎやしませんか……。


 ハッピーエンドは、まだまだ先になりそうだ。

いつもご拝読・いいね・ブクマ・評価・誤字報告、有難うございます!

大分遅くなっちゃいました;すみません。

次は夜、21時頃、投稿予定です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ