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73.お茶目すぎやしませんか?

 ビアンカは、名を呼ばれると、すっと一歩前に出た。

 私とフレッドも、一度顔を見合わせて、言われるがままに一歩前に出る。


 アイザックは、ゆっくりと、フレッドの前で足を止めた。


「……入れてくれ」

「は!」


 脇の小扉の前で、近衛騎士が扉を開く。

 礼を取って入ってきたのは、お父様とお母様。それから、ファルク子爵夫妻。フレッドのご両親だ。


 え?え?っと私とフレッドが困惑していると、アイザックは、真面目な顔でフレッドを見上げた。


「フレッド・ファルク卿。私があなたに差し上げたい礼は……。私の持つ、『アウラリーサの婚約者』という名誉だ」


「――は……?」


「聞こえなかったか? 私の婚約者を、お前に譲ってやると言っているんだ」


 ニっと悪戯が成功したって顔で、アイザックが腰に手を当て、フレッドを下から覗き込んだ。


「は、えッ!? いや、ですが、私は子爵家の三男で――」


「そなたには叙爵が決まった」


「はッ!?」


 ぐりんっとフレッドが国王陛下に視線を移す。

 こちらもニコニコとアイザックによく似た表情を浮かべていた。


 アイザックが仰々しく、後ろ手を組んで、重々しく語りだす。


「そなたはアウラリーサ公爵令嬢と共に勇敢に魔物に立ち向かい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。また、王都を揺るがす()()()()()()()()に大きく貢献した。よってその功績が認められ、国王陛下はそなたの叙爵をお決めになられたんだ。まぁ、公爵家の令嬢の嫁ぎ先としては、王家には劣ってしまうが、爵位は伯爵。それも港を有するハーヴィスト領だ。悪くないだろう?」


「は……」


 さっきから、『は』しか言えなくなっているフレッド。

 私も理解が追い付かない。

 え、何? どういうこと?


 ふっとこっちを見たアイザックと、ばちっと目が合う。にまっと笑ったアイザックは、ぐぃっとビアンカを抱き寄せた。きゃ、と笑ってビアンカが小さく声を上げる。


「アウラリーサ・ブランシェル。私、アイザック・フェロー・ド・メルディアは、そなたとの婚約を解消し、ここにいるビアンカ・ブランシェルを妃とする。異論はないな?」


「えっ?」


「アウラリーサ・ブランシェル。そなたとアイザック第一王子の婚約は昨日を以て正式に白紙となった。アイザックの新たな婚約者として、ブランシェル家次女ビアンカを、アイザックの婚約者とすることが決定したのだ」


 !?

 ちょ! 言い出しっぺは私なのに!?

 なんでそこ私抜きで決まっちゃってるの?!

 嬉しいけど、いきなり過ぎて頭が付いて来ないよ!


 陛下のお言葉に、私はお父様とお母様へと視線を向けた。

 お父様もお母様も、ニコニコとしている。


「ストムバート」

「はっ」


 陛下の声に、宰相閣下が、文官を伴い、私とフレッドの方へと歩み寄ってくる。

 宰相閣下が、文官から書類を受け取ると、フレッドにペンを差し出した。


「では、フレッド・ファルク卿。アウラリーサ・ブランシェル嬢。こちらの同意書にサインを」


「ど、え、こ……はッ!?」


 顔を真っ赤にして、言葉を解さなくなってきたフレッド。

 さっきまで、あんなに堂々としていたのに。

 そろ、っと書面を覗き込んだら、一番上に、『婚約同意書』の文字。


 ばふっと私の顔面から火が出た気がした。


 ちょ!? 国のTOPがどっきりですか?!

 お茶目すぎやしませんか!?


 はわわわわ――っとなっていると、いち早くフレッドが我に返った。

 コホン、と咳をすると、ペンを手に取る。

 その手が緊張からか、ぷるぷる震えていた。

 一度、視線をお父様達に向ける。

 私も釣られてお父様達へ視線を向けた。


 お父様とお母様も、フレッドのご両親も、微笑みながら、頷いてくれる。


 フレッドが私を見つめ、ふわりと微笑んでくれた。

 私も、自然と笑みが浮かぶ。


 緊張しながら、二人で書面にサインをする。


 書き終えた書面を確認した宰相閣下は、一つ頷くと、その書類をお父様達の元へと運んでいく。

 滲む視界の向こうで、お父様達が、書類にサインするのが見えた。


 トン、とフレッドの手が、私の手に触れる。

 そっと、その手を握ってくれた。


 宰相閣下が、書類を国王陛下へと差し出し、文官が印璽を陛下に差し出す。

 深紅のワックスを垂らし、グっと印璽が押され、国王陛下が宣言をする。


「正式な発表は後日となるが、ここにフレッド・ファルク、アウラリーサ・ブランシェルの婚約が成立した。皆、拍手を」


 わっと歓声が上がり、拍手の音が響く。

 見上げると、照れくさそうなフレッドの笑顔。

 嬉しくて、じーんっとなる。


 アイザック殿下が、私達の傍に寄り、笑いながら教えてくれた。


「ヴァイゼ王子とヴェロニカ嬢が口添えをしてくれたんだ。私とビアンカの仲は、学園でも少しずつ噂になり始めている。婚約者の妹に懸想をしているとなれば、私の醜聞になるだろうってね。ヴェロニカ嬢の提案で、ビアンカと私は、在学中にAクラスへ昇進できなければ、卒業後の結婚は先送りとなることになった。来年には、同じクラスになるよ。必ず」


「おめでとうございます、お姉様……」


 涙目でお祝いを述べてくれるビアンカ。

 私も、ビアンカに笑いかけた。

 ふと思いついて、アイザックをちらっと見てから、言ってやる。


「ありがとう、ビアンカ。では、謹んで、あなたに私の婚約者様、差し上げますわ」

いつもご拝読・いいね・ブクマ・評価、有難うございます!

またやっちゃった…;投稿ミス…;;

次は明日の夜、21時頃、投稿予定です。

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