表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/109

71.悲しいすれ違い。

 フレッドは、またすぐに眠りに落ちて行った。

 フレッドの口元から、規則的な寝息が聞こえ始めると、リティがそっと近づいてくる。


「お嬢様」

「うん。もうちょっとだけ」


 フレッドの手を握り、離れずにいると、リティが小さく苦笑を浮かべた。


「お気持ちは分かりますが、お部屋に戻られませんと。お疲れでしょうが、国王陛下がもう五日もお待ちですわ」


「あ。そうか。そうね」


 陛下と王妃殿下が私を慮って下さって、何も言わずに待っていて下さっていたのだった。

 本当は、すぐにでもご報告に伺わなくてはいけなかったのに。


 一度フレッドの頬を撫でてから、私は近くに用意して貰った部屋へと、一度戻った。

 湯浴みをし、身なりを整えて、急いで謁見へ向かう。


 名を呼ばれ、謁見の間へと足を踏み入れると、国王陛下と王妃殿下、アイザック殿下が待っていた。


「アウラリーサ・ブランシェル、馳せ参じました」


 カーテシーで挨拶をすると、陛下のお声がすぐに掛かる。


「顔を上げよ。この度はご苦労であったな。王子の救出に尽力を尽くしてくれたと聞いておる」

「勿体のう御座います」

「フレッドの容態は?」

「先ほど目を覚ましました」

「そうか。良かった……」


 安堵したようなアイザック王子の声に、胸が熱くなる。


 陛下も微笑を浮かべていたが、一度目を伏せ、静かな声で話し出した。


「そなたには伝えておくべきだと思ってな。……ラザフォードは、病死として発表をする。王家の醜聞を広げるわけにはいかぬのでな。我が弟が、迷惑をかけた」


「とんでもございません。国王陛下。ですが……。ご無礼を承知でお聞きしても、宜しいでしょうか」


「ラザフォードの事であろう?」


「御意」


「私はね。アウラリーサ。あれを解放してやりたかったのだよ」


「解放、で御座いますか?」


「ラザフォードと私は、十五、歳が離れていてな。私が王位を継いだのは、あれがまだ十歳の時だった。あれは幼い頃より、よく口にしていたよ。王位に興味はない、自由に生きたいと。王子が居ないまま、先の妃が亡くなった時、あれは外の世界が見たいと国を飛び出して行った。男児が居ないままでは、私が不安だろうと、継承権は残していく、そう言ってな。歳の離れたあれが、私は可愛くてならなかった。だからこそ、解放してやりたい、自由にしてやりたい、そう思った。幸い、長い年月の末、私は妃に会うことができた。アイザックも、無事育ってくれた。やっと解放してやれる。王位という枷を外し、自由にしてやれる。そう思った。――あれのその言葉が、強がりだとは、気づかなかった。それほどまでに王位を望んでいたとは、思いもしなかった……。此度の事は、私の咎だ」


「――いいえ」


 なんて悲しいすれ違いなんだろう。

 兄がいる以上、王位につけないラザフォード。

 自分を慰める為だったのだろうか。王位を諦める為についた嘘。


 私の前でも、彼はいつも王位には興味がないと、王なんて窮屈だと、そう言っていた。

 異国の話を、面白おかしく話していた。

 だから、私も疑いもしなかったんだ。

 彼には、玉座よりも、自由に飛び回る方が似合っていたから。

 言葉の通り、自由奔放に振舞っていたから。


 可愛い弟に苦労を強いたくなかった陛下。

 王位に興味がない振りをしながら、王位に焦がれたラザフォード。


 陛下は声を詰まらせて、王妃殿下がそっとその肩に触れる。


 長い、沈黙が落ちた。



 陛下の代わりに、アイザックが口を開く。

 あの後、学園長と、Bクラスの担任は、王族と公爵令嬢の誘拐及び、魔物の違法売買に関わっていたとして、爵位没収、死罪となったそうだ。


 あの屋敷の所有者は、学園長だった。

 屋敷を与えたのはラザフォード。

 あの場所で、異国から取り寄せた魔物の密輸と売買を行っていたのだそうだ。

 学園長も、魔物のコレクターだったらしい。

 

 未だ謎のままなのが、シャーリィを襲い、アイザックに罪を着せるように仕向けた女。

 ラザフォードの手の者なのは間違いないが、その正体は依然不明なままだった。

 アイザックが事件の後、投獄中のネイド・シラーを訪ね、貴族名鑑を確認させたが、該当する人物はいなかったそうだ。

 あの後、シャーリィが誰かに襲われることもなく、あの女生徒の影は、忽然と消えてしまったらしい。

 もやもやとしたものは残るが、あの女生徒については、引き続き調査が行われることになった。


 今回の事に対する謝礼は、また後日、あの日、アイザック救出に向かったヴァルターやフレッド、アイザックの醜聞払拭に尽力したヴァイザとヴェロニカを集め、改めて行うと伝えられた。


 すべてが解決したとは言えないが、ひとまず、事件の幕を閉じたと思っていいだろう。


 アイザックが、私を見て、ふと笑う。


「とりあえず、ご足労だったな。お前はとりあえず寝ろ。化粧で誤魔化したようだが、ひっどい顔しているぞ?」


 うぐ。

 もぉぉ。デリカシー無いなぁ。何も陛下とかの前でいうこと無いでしょうよ。


「しっかり休んでこい。食事もちゃんと取れ。ビアンカが心配をしていたぞ。フレッドが治るまで、お前はあの部屋を使って良いから」


 気遣うような、優しい声に、私も笑みを返して頷いた。


 そうだね。やっと私も、ぐっすりと眠ることが出来そうだから。


いつもご拝読・いいね・ブクマ・評価・誤字報告、有難うございます!

次は夜、21時頃投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ