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66.間違っていると思います。

 まさか、とは思っていた。

 そうかも、とも思っていた。

 履歴の名前を見つけた時、ああ、やっぱりとも、思った。


 だけど、こうして目の当たりにすると、信じられないという気持ちが湧き上がってくる。


 貴方の事は、苦手だった。

 だけど、甘っちょろいかもしれないけど、一緒に過ごしてきて、少しは貴方に心を開いてしまっていたんだよ。

 こんなあなたを見るくらいなら、いい加減でチャラチャラしたあなたの方が、何倍も良かったよ。


 飛び込もうとするシャーリィに、ラザフォードは、見たこともない暗い表情で、アイザックの首にグっと剣を押し当てる。

 ぷつりと裂けたアイザックの首元から、赤い血が、ツ、と筋を作った。


 シャーリィは、下唇を噛んで堪えている。

 涙目で、こちらを見つめるビアンカ。


 迂闊に飛び込むことも出来ない。


「なんで……。何故なんですか、ラザフォード殿下! 貴方はあんなに、アイザック殿下を可愛がっていたではありませんか!!」


「つまらない事を聞くんだな、アリー……。そもそも、こうなったのは君のせいじゃないか」


「私、の……?」


 どういう、こと?


「そうだよ。君のせいだ。君が余計なことをしなければ、私は良い叔父でいられたのに! たかが公爵家の侍女如きにうつつを抜かし、婚約者を蔑ろにした愚かな甥の代わりに王位を継ぐ、良き叔父でいられたんだ!」


 何を、言っているの? この人は。


「アイジーが、ビアンカに懸想しているのは、すぐに分かったんだよ、アリー。だから、少しずつ、少しずつ、アイジーには耳当たりの良いことを吹き込んできた。ビアンカとの恋を応援する、好きな子と幸せになったって良いじゃないか。アリーならきっと応援してくれるってね……。アイジーは、素直に私の言葉を聞いていたんだよ。アリーとは婚約を破棄すると! そしてビアンカを妃に迎えると! 出来っこないだろう? 子供だってわかる事さ! 周りにも広めてやったよ、アイザックは婚約者の侍女に懸想しているってね! なのに、アイジーに裏切られ、捨てられるはずの、アイジーを憎むべき、ビアンカを恨むべき君が!! よりにもよって二人の仲を認めてしまった! 公爵家の養子にするなんて、突飛なことまでしでかして! まさか勉強に同伴させていたのが、侍女を次期王妃に育て上げる為だなんて、誰が思う!? 兄上も義姉上も、認めてしまった! まただ! あああああ、まただッッ!!」


 端正な顔を歪め、頭を掻きむしるラザフォード。


「前王妃が亡くなった時、私は十六だった。周りは皆口をそろえ、次の王は私だと言ったんだ!! この私こそが、次期国王だと!! 国王となるため、寝る間も惜しんで努力をしたさ! このメルディアの為、海外との繋がりを深くしようと外遊にも出た! 少しでも良き王と言われるために! なのに、私が必死に他国との繋がりを作っている間に、再婚だァ!? 十五年も後妻を迎えようとしなかったのに! それも、二十以上も歳の離れた後妻だと!? 挙句男児を産んだと聞かされた! 私の絶望が分かるか!!」


 そうだ。私も、気が付いた。

 当時、ラザフォードは、王位継承権第一位。現国王の子は姫ばかり。王子を産むことなく、亡くなった前王妃。

 今の妃殿下を召し上げられるまで、アイザックが生まれるまで、次期国王の座は、約束されたようなものだった。


 気持ちは、分かるよ。

 でも、それでアイザックを陥れようなんて、間違ってる。

 間違ってるよ。


「アイザックが王に相応しくないという醜聞も広めたのに! 広まることなく収束してしまった! お前が手を回したからだ、アウラリーサ! いつも、いつもいつも、お前が私の邪魔をする!」


 怒りに任せ、吠えるラザフォード。

 ふと目の端に何かが見えた。ジリジリと、ソロソロと、シャーリィがアイザックを捕らえるラザフォードに接近していた。

 背景になっている魔物が檻の中で動くからか。はたまたその毒々しい色の為か。シャーリィは見事に背景から浮くことなく、ジリジリとその距離を詰めている。

 アイザックも、シャーリィに気づいたらしく、ちらちらと横目でシャーリィを窺っていた。

 思わずヒュっと息を呑んでしまう。

 何するつもりなんだ、あの子。


「……もう、回りくどいことは止めだ。最初から、こうすればよかったんだ。アイザックが、王位継承を辞退すれば、私が王だ。この私がメルディア王国次期国王だ!! 邪魔をするな! アウラリーサ!!」


 ラザフォードが、アイザックから剣を離し、私の方に切っ先を向けた。

 同時にシャーリィが猫のようにラザフォードの足に飛び掛かる。


「こんにゃろーッ! 王子様を離せーっ!!」

「なッ!?」


 周りが見えなくなっていたんだろう。虚を突かれ、ラザフォードがひるんだ。

 がぶり、とシャーリィがラザフォードの足に噛みつく。


「ぐぁッ!!」


 アイザックの首に回していた手が緩む。

 痛みで身を屈めたラザフォードに、アイザックが、勢いをつけてヘッドバットをぶちかました。


「がっ!!」


 頭突きは見事にラザフォードの顔面を打ち、バっとラザフォードの鼻から血が噴き出す。その手から離れた剣を奪い、アイザックはシャーリィの腕を掴むと、こちらに向かって転がるように駆けてきた。


「アイザック殿下!!」

「ありがとう、助かった、シャーリィ嬢」

「えへへへへっ、がんばりましたぁ!」


「この……っ!」


 顔を血で真っ赤に染めたラザフォードが、ゆらりとよろめく。

 忌々し気に、こちらをにらんだ。


 その口元が、にやりと歪む。


 ふらりとラザフォードが移動した、その先には。

 黒い、獅子に似た体躯の、表面が鱗で覆われた、蛇の尾を持つ異形が、檻の中で、咆哮を上げた。

いつもご拝読・いいね・ブクマ・評価・誤字報告、有難うございます!

……てか、誤字多すぎだろ私ィっ!!(顔覆)

ほんといつもいつもすみません、凄く助かってます、有難うございます!

次は明日の朝、8時くらいに投稿予定です

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