65.わかってはいたけれど。
「とんだじゃじゃ馬令嬢だな……。行くぜェッ!!」
誉め言葉と受け取りますわ。
息を吹き返したかのように、シャーリィを追って突っ込んでいくヴァルター。
ワンっと声がして、ヴァルターの後に続くように、シャリシールが駆けていく。
フレッドも駆け抜けざまに、私の頭を軽くぽん、としてくれる。
うん。頼み込んでつけて貰った護身術。
ちゃんと、実戦で役に立った。
フレッドと繰り返した練習が、ちゃんと実を結んでた。
私もフレッドの後に続き、走り出す。
というか、シャーリィ、あの子何なの?
五人ぐらいに追われても、キャーキャー叫びながら、見事にヒョィヒョィと避け続け、前に前にと進んでいく。
「おいっ!! 王子の居場所分かってんのかよ!?」
「わかんないけどぉっ! 多分こっちな気がするのぉっ!!」
愛のなせる業なのか。
最初からこの子放っておけばシャリシールが居なくてもたどり着けたんじゃないかって気がしてくる。
次々と襲い掛かってくる敵。
真っ白い毛並みを棚引かせ、獰猛な唸りを上げて突っ込んでくる大きな犬に、一瞬敵が怯んだ様子を見せる。
そのわずかな隙を見逃さず、剣を弾き飛ばし、峰打ちで次々と昏倒させていくフレッド。
ヴァルターは、少し苦戦気味。私はヴァルターに加勢する。
繰り返し練習した動きは、脳を通すことなく自然と体が動いてくれる。
前世で体に刻んだことも、やっと思い通り動くようになっていた。
「修業が足りないのではなくて?!」
「うるせぇ、見てろよ、もっと強くなってみせらぁッ!」
前世の私は、格闘家目指すレベルの格闘技好きだ。
私も鉄扇を振るう。手加減はしない。遠慮なく急所を狙い、先を目指す。
少し先を、ピンクの髪を弾ませて、シャーリィが階段を駆け上がっていくのが見えた。
「うわぁ、なんだ!?」
「敵襲! 敵襲――ッ!」
「うわぁ、なんだこのガキ!?」
階段の上は大騒ぎになっていた。
鉄扇を、敵のこめかみに叩き込み、私も階段を駆け上がる。
ばーんっと扉を開けては、「ここにはいなーい!」っと駆け出していくシャーリィ。
その度に増えていく敵の数。
腕は大したことないけれど、流石に骨が折れる。
「ほんとにこっちに居るのかよ!?」
「いたぁ――っ!!」
ヴァルターの発した疑問の声に被せるように、シャーリィの嗅覚が、王子の居場所を突き止めた。
***
扉の前はわちゃわちゃになっていた。
増えた敵の何割かが、シャーリィを追いかけていたから、扉にたどり着いたシャーリィを捕らえようとしているらしい。
が、シャーリィも何をどうしているのか、しっかり反撃をしているらしく、大の大人が何人も丸腰のシャーリィの前で膝をついて呻いている。
周囲の敵をなぎ倒し、遅れて私たちも、シャーリィが開けた部屋へとたどり着き、シャーリィの周囲を薙ぎ払う。
開け放たれた部屋の中は、異様な光景が広がっていた。
ツンと鼻を突く異臭。
ガランと広い薄汚れた倉庫のような部屋には、幾つも積まれた無骨な檻。
その檻の中には、赤い目をギラつかせ、唸りを上げる魔物達。
一目で動物とは異なる『何か』だと、分かるその風貌。
『魔物の違法取引』。
シャリシールは部屋の中に入れずに、少し後ろでキュンキュンと尻尾を丸めてしまっている。
そして、魔物の檻に囲まれた部屋の中。
猿轡をかまされて、後ろ手に縛られた、五人の男に囲まれて剣を突き付けられているビアンカ。
足元に散らばった書類と、へたり込んでいる男が一人。
部屋の隅で震えている学園長。
首に腕を回されて、剣を突き付けられたアイザック。
そして――。
アイザックに、剣を突き付けていたのは。
アイザックが慕っていた、幼い頃、ずっと一緒に過ごしてきた、王弟、ラザフォード。
その人だった。
いつもご拝読・いいね・ブクマ・評価・誤字報告、有難うございます!
今日はもう1本行けるかな?うん、21時予定、頑張ります!




