63.シャリシールは優秀です。
その後は、てんやわんやだった。
急に戻ってきた私に、お父様が出迎えてくれる。
事情を話すと、お父様がすぐに王宮へと使いをやってくれ、すぐに折り返しで学園に捜索が入ると王宮からの返答が来た。
ラザフォード殿下も、王宮から姿を消しているそうだ。
元々フラフラしている人だから、誰も気に留めていなかったらしい。
あの後、王子殿下が学園長と居るのが目撃されたのを最後に、殿下の行方は分からなくなった。
ビアンカと教師の姿も忽然と消えたままだ。
お父様とお兄様、それに公爵家の騎士団が、学園長の屋敷と教師の屋敷を当たってくれるらしい。
フレッドだけは、私のそばに残ってくれた。
私は、自室へと戻った。フローラも一緒だ。
階下で、シャリシールがずっと吠えている。
あの子も何か、感じ取っているのかも。
数時間が経過しても、殿下とビアンカの行方はようとして掴めずにいた。
途中、お兄様が帰宅して、学園長も教師も、戻ってきていないとのことだった。
王宮の騎士が学園長の屋敷と教師の屋敷は押さえているらしい。
数時間後、ヴァルターが屋敷にやってきた。
リヒトとシャーリィは家へ帰したそうだ。
捜索の結果、使用人用の入口から、荷物を運び出す馬車が一台出て行ったらしい。
仕事をさぼって休憩をしていた料理人が、荷馬車を見ていたそうだ。
その時間に搬入は無く、不思議に思っていたのだそう。
王子殿下は、学園長と一緒に教員用の出入り口から出て行っただろうと推測された。
というのも、学園長の馬車が、一台無くなっていたから。
記録に残っていなかったあたり、手引きした者がいるのかもしれないが、そちらは現在捜査中だそうだ。
「……ってことなんだ。……なぁ。この馬鹿犬どうにかならんのか?」
玄関ホールで、ばうばう吠えていたシャリシールに捕まって、ひっきりなしに匂いを嗅がれ、ばうばうと吠えられているヴァルターは、げんなりした顔で周囲を駆け回るシャリシールを目で追っている。
「この子も心配なのよ。シャリシールはビアンカになついていたもの」
私が力なく笑うと、ヴァルターが首を傾けた。
「なぁ……。コイツ、ビアンカの匂いを追えたりしないのかな?」
「え?」
「や、だって犬だろ?」
私もシャリシールを見下ろす。
シャリシールはヴァルターに吠えるのに飽きたのか、今は扉の前をくんくんと嗅ぎながら、うろうろと歩き回っている。
「シャリー」
私が呼びかけると、シャリシールはぴょんっと顔を上げ、ぷりぷりと尻尾を振って駆け寄ってきた。
私はシャリシールの頭を撫でる。
「ねぇ、シャリー。お前、ビアンカの匂いが分かる?」
「バゥッ!」
返事? 本当に、分かるかな。
「アリー様。ビアンカ様が普段お使いのもの、何かありませんか?」
「お嬢様。ビアンカお嬢様のショールは如何でしょう? 持って参ります」
フローラの言葉に、リティが慌ててビアンカの部屋へと駆けていく。
わしわしとシャリシールを撫でながら待っていると、リティがショールを持って戻ってきた。
ビアンカ、ごめんね。お気に入りのショール、少し借りるわ。
「シャリー。ビアンカの匂いよ? 分かる?」
私がしゃがんでシャリシールの鼻先にショールを寄せると、シャリシールは尻尾をぷりぷりさせながら、ショールに顔を何度も突っ込むようにして足踏みをし、ぱっと顔を上げると、扉の方へ駆けて行った。
ガリガリと扉を掻き、こっちを向いてバゥバゥと吠えている。
「行けるの!?」
「バゥッ!!」
私がシャリシールに駆け寄ると、リティがリードを持ってきて、素早くシャリシールにリードをつける。
「お願いいたします!」
「ぁっ、ハイッ!」
ずぃっとリードを渡されたヴァルターがシャリシールのリードを握った。
「ヴァルター様、剣は使えますか?」
「俺辺境伯の息子だから! 得意!」
フレッドが仲間の騎士から剣を一本受け取って、ヴァルターへと投げる。
「フローラ、ごめんなさい、あなたはここで待っていて!?」
「わ……わかりました! お気をつけて!」
「お嬢様も残ってください!」
扉を開けようとしたら、フレッドに止められる。
「嫌よ! ビアンカは私の妹だもん!! 私が強いの、フレッドも知ってるでしょう!?」
「ですが!」
「フレッドが守ってくれるから大丈夫だもん!!」
「~~~~っ。分かりました! 私から離れないように!」
「分かったわ!」
「お嬢様! 私も――」
「あんたは足手まといだ! ついてくんな!!」
容赦ないヴァルターの声に、リティが足を止めた。
ごめんね、リティ。でも、多分あなた、私たちについてはこれないと思うんだ。
扉を開けると、シャリシールが勢いよく駆け出していく。
私とフレッド、ヴァルターの三人は、シャルシールの後を追って駆け出した。
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