6.お散歩します。
よし。とりあえず、ビアンカ探しは父に任せた。
次はどうしようかな……。
とりあえず、三百キロ超えの巨漢は免れたい。
明らかに体力無さそうだし、運動するかな。
いきなりがっつりした運動は無理だろうから、そうだな、お散歩からで。
「カシー兄様、今度はお屋敷の外も見たいです」
「……え? アリーが? 外、行きたいの?」
「おや」
「まぁ」
兄も父も母も驚いている。
周囲にいた使用人の顔もびっくり顔。
……なるほど。六歳にして引きこもり。片鱗が見えた。
「はい! 行きたいです!」
元気よく返事をすると、皆一斉に破顔した。
「うん、もちろんいいよ。行こうか!」
兄が嬉しそうに椅子から立ち上がって、私に手を差し伸べる。
私も兄に駆け寄って、きゅっとその手を握った。
「カシー、あまり無理をさせてはいけないよ。ほどほどで切り上げるようにね。外はまだ寒い。リティ。上着を持ってきてやりなさい」
「はい、父上」「畏まりました、旦那様」
あの大騒ぎの侍女さんは、リティさんって言うのか。よし覚えた。
玄関ホールで待っていると、リティさんがコートを持ってきてくれる。
フリルとリボンがいっぱいついたピンクのコート。可愛いけど、これ普段使いなのか。
モノクルを着けた初老の執事さんが扉を開けてくれた。
執事さんの名前は、ウォルターさん。セバスチャンじゃないんだ。うん、覚えた。
扉の外に出ると、騎士が二人待っていた。
びっくりして固まっていると、兄が笑いながら教えてくれる。
「ブランシェル騎士団のフレッドとカインだよ。外に出る時は屋敷の敷地内でも、こうして護衛してくれるんだ」
「おはようございます、お嬢様。フレッドと申します」「カインで御座います」
胸に手を当て、敬礼してくれる騎士様ズ。めっちゃ筋肉! 短く刈った髪が漢らしい! 格好良い!
すごいなー! 自宅で騎士団雇ってるのか。
一瞬視線を兄に流し、何でもない風に挨拶をしてくれる。
多分兄が紹介をしたことに違和感は感じたみたいだけど、余計なことは言わない。
こんな幼児相手にこの対応。いいなー。職務に全う、忠誠って感じ!
兄と一緒に歩き出すと、騎士さんズと、リティが離れて続く。
最初は気になって仕方がなかったけれど、少しすると慣れた。
お付きの皆さん、気配消すの上手いね……。
今は二月で季節は冬。気温も私の住んでいた地域と変わらない感じ。吐く息が白い。
なのに、芝生が青々!! マーガレットっぽい黄色やオレンジの花や、アネモネ、クロッカスが咲き乱れていて、春みたい。
植物はすぐに枯らしちゃってた私からすると、庭師さんは神だ。凄い。
所々、木をウサギやクマにカットしたトピアリーがあって、それを探して歩くのも楽しかった。
途中、白い四阿でちょっと一休み。
多分ここも春になると、綺麗なんだろうな。柱に蔓薔薇が絡んでる。
侍女さんがすぐにお茶とひざ掛けを用意してくれた。
至れり尽くせり、温まるー。
生垣で作った迷路もあって、兄と遊んだ。
鬼ごっことか、いいかもしれない。良い運動になりそう。
敷地内には、さっきまでいた本館の他に、建物が二つ。一つは騎士団の寮で、もう一つは使用人の寮なんだって。
この国では十一月から六月まで社交シーズンで、今いるここは王都にあるタウンハウスだって言うから驚きだ。
領地にあるカントリーハウスはもっとでかいらしい。
寮かー。騎士団があるなら、騎士の訓練所なんかもあるのかな。
いいなー。本物の騎士さんの訓練風景。めっちゃ見たい。
「カシー兄様も、剣を学んだりしているんですか?」
「うん。貴族の男子は皆五歳から剣術を学ぶんだ。剣だけじゃなくて、夏は水泳、秋は狩りの為の弓の練習なんかもするんだよ。今は丁度冬だから、剣術と拳闘の訓練かな。興味ある? さっき、騎士を見て目をキラキラさせてた」
拳闘?! 剣だけでなく拳闘もやるの!? 何それ超見たい!
「はい! カシー兄様が訓練している時、見に行ってもいいですか?」
「それじゃ、母上に確認して、いいよって言われたら、午後の訓練の時、見においで」
「はい!」
やった! うへへへへ、騎士団……。マッチョなおにいさんがいっぱい……。
ニヨニヨしてたら、お兄様が盛大に噴出した。