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58.疑念が浮かんでしまいました。

「追うぞ!」


 は!?

 どうやって?!

 無理だから! 相手馬だから!!


 くるっと踵を返して、アイザック王子が駆けだした。

 いや、私は行けるけど、ビアンカとフローラには無理だと思うよ、お嬢様の体力の無さを舐めたらいけない。何なら二人ともさっきの飛び降りのお陰で腰砕けてるから!


「殿下、ちょ――」

「お前らは教室戻ってろ!!」


 ヴァルターも王子の後を追って駆け出していく。

 慌てて教室の外に飛び出してみたけれど、殿下とヴァルター、めちゃくちゃ早かった。

 あっという間に十メートルくらい先の廊下の角を曲がっていく。

 壁に張り付くようにして、凄い剣幕で駆けていく殿下達を見送る、登校中の生徒たち。




 ……熱いな――。


 私も大概猪突猛進だけど、殿下とヴァルターには負けるんじゃないかな――……。


 意外と殿下って頭に血が上りやすいのかもしれない……。

 ヴァルターは殿下を止めようとしているのか、それとも一緒になって追う気なのか。


 残ったのは、ざわつく二学年Aクラスの面々に、手を握り合ってぷるぷるしてるビアンカとフローラ。鼻息荒く殿下についていこうとするシャーリィを必死に引き留めるリヒト。


 迷惑ですね。すみません。


「……とりあえず、教室へ、戻りましょうか……」


***


 私も行くときゃんきゃん吠えるシャーリィを引きずって、リヒトもFクラスへと戻っていく。

 まだ顔色が良くないビアンカとフローラの歩調に合わせ、教室へと向かう。


 教室に入ると、ヴェロニカが近づいてきた。


「あら。今朝はフローラ様もご一緒ですのね。お顔の色が優れないようですが、具合でもお悪いので?」


「実は――」


 へにょりと眉を下げるフローラに代わり、私がさっきあったことを説明する。


「まぁ……。ヴァルター様もお見えにならないし、心配しておりましたの。大変でしたわね」


「ええ。流石に驚きました。ヴァルター様と殿下も、流石に馬相手では追いつけそうもありませんから、じきに戻っていらっしゃると思いますわ。そうだわ。ヴェロニカ様、殿下の醜聞、手を打って下さったのね。まだ誤解したままの方もいらっしゃるようですけれど、分かって下さった方もいらっしゃるみたい。感謝致しますわ」


「いいえ。わたくしも公爵家の娘ですもの。殿下の醜聞を鎮めるのも、臣下の務めですわ」


 ハラリと扇を広げ、満足そうに眼を細めるヴェロニカ。

 ツンと澄まして見せているけれど、気にしてくれていたんだろうな。


 始業のベルが鳴るのとほぼ同時、息を切らせたヴァルターが戻ってきた。


「アウラリーサ嬢。あんたのとこの騎士がネイドの所に当たってくれるってさ。必ず見つけるから、あんたに大人しく授業を受けて下さいって伝言だ」


 そっか、門の所で鉢合わせたのかな。

 良かった。街中を王子が護衛――まぁ、ヴァルターが護衛になるかもしれないけれど――もつけずに走り回るとか、あんまり想像したくない状況だ。ほっとした。

 フレッドが頼もしくて、思わず頬が緩んでしまう。


 程なく担任がやってきて、何事もなかったかのように、授業が始まった。


***


 ヴェロニカとヴァイゼ殿下が動いてくれたおかげで、あの日店に居た子たちが声を上げてくれたらしい。噂は、少しずつ、収束しているみたい。

 他クラスに居た知人が、休み時間に教えに来てくれて、噂に惑わされて恥ずかしいと、謝ってくれた。


 授業も上の空のまま、昼休みになった。


 ネイドの事は、フレッドが探してくれている。

 門まで見に行ったけれど、フレッドの姿は無かった。

 代わりに、アイザックの護衛騎士が、フレッドがお父様に事情を話して、ブランシェル家の私設騎士の何人かで、ネイドの行方を追ってくれていると教えてくれた。

 ネイドは家には戻っていないそうだ。


 アイザック殿下とビアンカは、二学年のAクラスで、ネイドについて聞き込みをしてくると言っていた。

 アイザック殿下と私たちの噂は、ヴェロニカとヴァイゼ殿下が奔走してくれている。

 シャーリィとリヒトは、倉庫に閉じ込められた日の目撃者が居ないか、探してみると言っていた。


 私は、教室で頭の中を整理しようと、ノートに思いつくままに箇条書きにしていく。

 フローラとヴェロニカも、私のノートを覗き込んで、意見を出してくれる。


 一つ。私たちがピアスを買いに行った日に、店の近くで魔物の違法取引事件があった。

 二つ。シャーリィが裏路地から走ってきたネイド・シラーに突き飛ばされた。

 三つ。シャーリィが、誰かに襲われた。

 四つ。魔物の違法取引にアイザック王子と私たちが関わっていたという噂。


 一つ目は、大人がどうにかするだろう。自警団が動いているというし、国も動き出しているらしい。

 二つ目。ここからは、仮説。


 違法取引に関わっていたのはネイド。

 シャーリィに顔を見られたことで、口を封じようとした。

 自分が捕まるのを恐れ、あの日シャーリィから逃げるために馬車に駆け込んだ私たちに罪を擦り付けようとした。


 と、幾つか疑問が出てくる。

 一つ目。シャーリィにぶつかった後、ネイドはそのまま走り去っていた。

 私たちが馬車に駆け込むのを見られる状況じゃなかったはず。


 二つ目。何故、冤罪をかける相手が殿下だったんだろう。

 ヴァイゼ殿下が言ったように、殿下に冤罪をかけるのは、リスクがかなり高いはず。

 逃げ出したのは私たちくらいだろうけど、店の中には結構人が居た。

 その殆どが学園に通う学生だ。

 冤罪を掛けたところで、すぐに冤罪なのがバレるじゃない。

 だって、あの時何人も、店の中に居る殿下を見た人がいるんだもの。


 三つ目。シャーリィを倉庫に閉じ込めた女生徒は誰?

 ただの嫌がらせだったのか、それともこの一連に何か絡んでいるんだろうか。


 ……まだ、何か見落としている気がする。


 殿下に、冤罪をかけて、得をする人。

 私は、一人だけ心当たりがある。


 だけど、まさか。


 ――まさか、だよね。

いつもご拝読・いいね・ブクマ・評価・誤字報告、有難うございます!

次は明日、8時くらいに投稿予定、力尽きてたら夜になるかも……;

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