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56.それはいわゆる冤罪です。

 教室に戻りかけると、周囲の空気が先ほどよりも悪くなっていた。

 ちらちらとこちらを盗み見る視線。視線。視線――。


 視線を感じて、ぱっとそちらを向くと、サっと目を逸らされる。

 ひそひそと何か話して、逃げるように去っていく。


 私たちは顔を見合わせた。

 さっきの騒ぎのせいだろうか。


「あんな大きな声で騒ぐから……」


 恨みがましくビアンカがシャーリィをじとりと睨む。

 ぱっとアイザックの影に隠れようとするシャーリィを、アイザックがサっと避ける。


 この時はまだ、私たちは、呑気にそんなことをしていたのだけれど。


「アウラリーサ様」


 教室に着くなり、険しい顔でヴェロニカが足早に近づいてきた。

 すでに教室に居たヴァイゼ殿下も、メイナード子爵子息のイグナーツも、宰相子息のユーヴィンも、何やら浮かない顔でこっちを見ている。


「ヴェロニカ様? 一体何が――」

「良からぬ噂を耳にしましたの」


 眉を寄せ、真剣な顔のヴェロニカ。何だか、嫌な感覚にドクドクと心臓が嫌な音を立てる。


「――魔物の、違法取引に、殿下とあなた達が関わっているらしいと、噂になっているのです」


 ……え?


 何、どういうこと?


「え、あの、ヴェロニカ様、それはいったい……」


「昼休みの間に、あっという間に広まったようですわ。わたくしも、昼休みから戻る途中に、偶然他の生徒が話しているのを耳にしましたの。……勿論、わたくしは信じておりませんわ。ですが、何人もの生徒が、あの日、丁度事件があったといわれる時間、あなたや殿下が、走って馬車に乗り込むのを見たと、証言をしているのです」


 ……。


 確かに、あの日、私たちは走って馬車に乗り込んだ。

 転んでいるシャーリィに絡まれる前にって。

 あの時、店には大勢、この学園の生徒が居た。

 でも、おかしい。

 アイザック殿下は目立つ。

 現に、アイザックは平民のような恰好をしてきたけれど、お忍びなのがバレバレで、何人もの生徒が気づいてちらちらとみていたから。

 だから、店に居た人なら私たちが、ずっと店の中に居たことを知っているはずなのに、何故こんな噂が広まるの?

 それに、広まる時間が早すぎる。


「ヴェロニカ様。実は――」


 私は、あの日、店の外でシャーリィが事件に関わっていた可能性のある男子生徒とぶつかったこと、シャーリィに絡まれないように、走って馬車に乗り込んだこと、シャーリィの身に降りかかったことを、掻い摘んで話した。

 この子は、敵じゃない。そう思ったから。


 話を聞き終えたヴェロニカは、大きくため息をついた。


「タイミングの悪いこと……。そうなると、その男子生徒は何かを知っていそうですわね」


 ヴェロニカの言葉に、フローラが眉を下げる。


「殿下の噂も、その男子生徒が流したのでしょうか……」


 と、いつの間に来たのか、ヴァイゼ殿下が混ざってきた。


「どうにも解せないな。シャーリィ嬢はまだわかる。あの子は下位貴族だし、元庶民だ。言い方は悪いが、あの子はそれでなくても悪目立ちするし、疎ましく思っている者も少なくないだろうから、脅す目的で嫌がらせに見せかけて襲う事も出来るだろう。その辺忠告すらしなかったのは解せないが、立場的にも手を出しやすいしな。でも、アイザック王子が関わっていたなんて噂を流すのはリスクが高すぎるんじゃないか? 相手は王族だぞ。冤罪を被せたとなれば、学園の中の事だろうが首が飛ぶ」


 な、と言うように視線を下げると、ヴァイゼ殿下の隣で、宰相子息のユーヴィンが頷いた。


「そうですね。それに、シャーリィ嬢を閉じ込めたという女生徒も気になります」


「仮に、その男子生徒が噂を流したと仮定して、どうやってこの短時間に噂を広めたんだ? そっちもわからないままだ」


 ヴァルターが頭をガシガシと掻く。


 少し離れてこっちを見ていたメイナード子息のイグナーツが、ぼそっと言った。


「とりあえず……。その男子生徒の事は、貴族名鑑でも、調べてみたら? シャーリィって子、その生徒の顔、見てるんでしょ? あれなら写真も載っているから、虱潰しに探すよりよっぽど効率的なんじゃない?」


「「あ」」


 私とフローラは思わず顔を見合わせた。


 ――コロっと失念していた。

 そうだよ。ここ、貴族学園じゃん!

 貴族名鑑は毎年発行される。

 貴族に生まれると、神殿で洗礼を受け、貴族の一員として貴族名鑑に載る。

 写真も載る。

 つまり、ここの生徒なら、間違いなく載っているはずだ。

 なんでこんな簡単な事、気づかなかったんだろう!


「そうね! 失念していたわ! 有難う、イグナーツ様!」


「うん。とりあえずさ。考えてもわからないなら、分かりそうなところから調べてみたら良いんじゃない?」


 砕けた口調のイグナーツに、つい私も口調が砕けた。

 笑ってお礼を言ったら、イグナーツは微笑を浮かべ、優しい口調で返してくれる。

 メイナード夫人を断罪した私を、てっきり憎んでいると思ったのに。

 イグナーツの笑みからは、悪意は欠片も見えなくて、私はなんだか、涙が出そうなほど、嬉しかった。

いつもご拝読・いいね・ブクマ・評価・ご感想、有難うございます!!

遅くなっちゃいました;

明日は仕事がバタバタな為、余力を残したいので朝の更新は厳しいかも…;

とか言ってて、うっかりミスって明日の朝の分書いたら、予約ミスって次話投稿しちゃいました(白目)

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