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54.何やら不穏な空気です。

 あの後の事は、恥ずかしながらろくすっぽ覚えていなかった。

 アイザック王子やヴァイゼ殿下と踊った事は覚えているのだけれど。


 意外だったのが、シャーリィだ。

 てっきり他の攻略対象に触手を伸ばすのかと思ったら、どうやら殿下一筋らしい。

 近くに寄ってみたが、見向きもされなかったとヴァイゼ殿下が笑っていた。


 ――うん。逆ハー狙いと決め付けていた。

 でも、シャーリィが追いかけてくるのは、いつだってアイザック殿下だけだ。

 ストーカーじみていて、迷惑ではあるのだけれど、あの子はとても、一途だった。


 反省。今度、きちんと謝罪しよう。


 大半がまだデビュタント前の子供ということで、昼過ぎから始まったパーティーは、夕方、日が暮れる前にはお開きとなった。

 帰りのエスコートは、フレッドがしてくれた。

 包み込むみたいな、大きな手の温もりを、放しがたくて、馬車に乗るまで、ずっと手を繋いであるいた。


***


 翌日。

 いつも通りに登校すると、あの手この手で接近を試みるシャーリィが、その日は姿を見せなかった。

 珍しいこともあるもんだ。


 アイザックは、どこからかまた飛び出してきてタックルされるのではと辺りをびくびくきょろきょろ伺っていたが、教室に着くまで、シャーリィは現れなかった。


「……来ないな」

「珍しいですわね。お休みでしょうか」

「何だか拍子抜けましたわね」


 Bクラスの前で別れ、教室へと入ると、フローラが足早に寄ってきた。


「ご機嫌よう、アリー様。お聞き及びになりまして?」

「ご機嫌よう、フローラ。ええと……何の事?」

「昨日、パーティーで小耳にはさんだのですが……。先日、ピアスを買いに行きましたでしょう?あの日、丁度あのあたりで、騒ぎがあったそうなんです」

「あ、ええ。聞いたわ」


 ――ヴェロニカにね。


 今朝の新聞にそのことが載っていたと、出かける前に、リティが話してくれた。


「で、ここからは噂なのですが……」


 眉を寄せ、少し体を丸めるようにして、真顔で声を潜めるフローラ。

 私も釣られて背を丸め、フローラに耳を寄せる。


「――なんでも、ここの生徒が関わっていたっていうんです……」


***


 ひそひそ、ひそひそ。 こそこそ、こそこそ。


 廊下を歩くと、そこかしこで、小さな輪を作り、数名同士で固まって、声を潜めて話をしている。

 恐らく、魔物の違法取引に関する話なんだろう。


 なんだか、学園全体が嫌な空気だ。


 昼休み、食堂に向かっていると、目の前に立ちふさがるようにシャーリィが飛び出してきた。

 何故か制服でなく、前世で言う体操着みたいな、シャツとパンツ姿だ。

 クラスメイトなんだろうか。困惑顔の男子生徒も伴っている。

 どこかで見た顔だと思ったら、初日にシャーリィを止めてくれてた男の子だ。


 目に涙をいっぱい溜めて、青ざめた顔で、ふるふる震えながら、ビアンカを睨みつけている。

 ビアンカが驚いたように目を丸くし、その剣幕にひるんだように一歩下がり、ビアンカを守るようにアイザックが前に出た。


「……何の用かな?」


「……どいてください、王子様……っ。わたし、その子に話があるんですぅっ!!」


「……ビアンカは公爵令嬢だ。無礼な言い方はやめろ」


「公爵令嬢なら、何をしても良いっていうんですかぁっ!?」


「どういう意味かしら?」


 思わず横から口を挟むと、ぎっとシャーリィに睨まれた。

 何だか、様子がおかしい。


「上から植木鉢落としたりぃ! わたしの教科書をずたずたに引き裂いたりぃ! バケツに入った泥水を上から掛けたのもあなたでしょぉ!? 挙句に、人を呼び出して倉庫に閉じ込めるなんて、いくら何でもやりすぎじゃないのぉっ!? わたしが王子様に近づくのが気に入らないからって、酷すぎますぅっ!! 植木鉢なんて、当たってたら怪我じゃ済まなかったかもしれないんですよぉっ!」


「待って、なんのこと? わたくし、そんなこと、していませんわ!!」


「嘘ぉっ! だって、あなたじゃなきゃ、誰がやったっていうのよぉ!」


 掴みかからんばかりのシャーリィを、男子生徒が押さえている。

 私は男子生徒に視線を向けた。


「その、シャーリィが言ってるのは、ほんとです。一時限目が始まっても、シャーリィが教室に来なかったから。俺、休み時間に探しに行ったんです。そしたら、コイツの声、甲高くて目立つじゃないですか。倉庫からきゃんきゃん叫んでるのが聞こえて。俺が助け出した時、シャーリィは泥だらけで……」


 確かに、この流れはテンプレ通りだ。

 でも、シャーリィ、語尾は伸びてて嘘くさいけど、その表情は青ざめて、演技には到底見えない。

 実際に、シャーリィを助け出した子もいる。


 シャーリィの言う通り、一歩間違えば、死んでいても可笑しくない。


 私がアイザック王子へ視線を向けると、王子はコクリと頷いて、視線をシャーリィへと移した。

 

「シャーリィ・バーシル男爵令嬢。ここでは人目に付く。個室で話そう。ついておいで」


 王子の言葉に、気が緩んだのか、シャーリィは、ぽろぽろと大粒の涙を零しながら、こくこくと、頷いた。

いつもご拝読、いいね、ブクマ、評価、誤字報告、ご感想、有難うございます!

ちょっと今日は帰りが遅くなる予定だったんですが、予定よりも早く戻ってこれたので、ちょっと時間は遅めだけど投稿します。

明日は~……いつも通り起きれたら、朝8時くらいに投稿予定。

起きれなかったらごめんなさい;

早くてお昼、遅くて夜21時くらいには、投稿する予定です。

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