47.ゲーム補正でしょうか?
呆気に取られていると、低い、静かな声がした。
「無礼者。手を放せ」
え?と思ってみていると、アイザックが冷たくシャーリィを見下ろし、両肩を掴んで、引っぺがした。目を丸くしているシャーリィを無視して、そのまま背を向ける。
「ビアンカ、アウラリーサ。大丈夫か?」
「え、ええ」「は……はい」
「行こう。昼食の時間が無くなる」
アイザックは私とビアンカの間に入り、私達の背に手を回して歩き出す。
……なんだよー。ちゃんとやれば出来るんじゃん。
チョロイン王子、成長したなぁ……。
「え、待ってください! 王子様、お昼食べに行くんでしょ? 私も――」
しつけぇ――。
仕方がない。
「――止まりなさい。アイザック第一王子殿下に許可も無く触れ、話しかけるなど不敬ですよ」
私は扇を手に取ると、足を止め、シャーリィに牽制するように向ける。
シャーリィはビクリと肩を揺らし、足を止めた。
「なっ……誰よ! あなたには関係ないでしょおっ!?」
「関係ありますわ。わたくしはアウラリーサ・ブランシェル。アイザック殿下の婚約者、ブランシェル公爵家の娘です。殿下をお守りするのも臣下の務め。これ以上無礼をなさるおつもりなら、バーシル男爵家に重々抗議させて頂きます。お下がりなさい」
「ひ……酷いわ! わたしが可愛いからって邪魔をするのね?! うわぁぁぁんっ!!」
シャーリィは顔を覆うと回れ右をして走って行ってしまった。
可愛いって……。
自分で言っちゃうんだ?
凄いな……。
ため息をついて扇を仕舞う。
「申し訳御座いません。つい、口出しを」
「いや。しかし、何だあれ……。頭どうかしてるのかな」
ビアンカを見ると、真っ青になって震えている。
まぁ、気持ちはわかる。過去の自分を見ているような気分だろうしね。
しかし。
やっぱりあれはどう見てもざまぁ系ヒロイン。
一体何が起こっているんだろう。
***
「お、おおおおおお姉様、ごめんなさい、私……あんなだったんですねっ! もう、もう、私、お庭に穴を掘ってきます! 穴掘って埋まります!!」
うんうんうん。
恥ずかしいよねー。自分見てる気分だったんだろうね。良かったね、矯正出来て……。
よしよし、とビアンカの頭を撫でてやる。
「いや、ビアンカはあんなじゃなかっただろう?」
「いいえ。ビアンカも最初はあんなでした。つまり、殿下も良識をしっかりと学んでおられなければ、シャーリィにコロっと陥落されていたかと思います」
「あれにか!?」
「相手はビアンカだったかもしれませんが、状況は恐らく先ほどと同じであったと思います」
「ぅぅぅぅぅ……」
顔を覆って縮こまっているビアンカ。
まぁ、ゲームの中では、ビアンカが廊下で転んで、アイザックにぶつかり、それをアイザックが受け止めて、ビアンカが「ごめんなさい」って謝ると、アイザックの方から優しく声を掛けるのだけれど。
多分当時のビアンカなら、あの子と同じようなセリフをぶちかましていた確信がある。
「何か手を打たなくてはなりませんね。このままだとあの子、殿下に付きまとってくると思いますよ」
「ひぇぇ……」
「殿下、側近候補はお決まりですか?」
「何人か候補はいるけれど」
ゲーム通りなら、殿下の側近候補は同じクラスの辺境伯子息、ヴァルター・サグラモール、宰相子息、ユーヴィン・ストムバートの二人。
「わ……私、負けませんっ。お姉様、ユーヴィン・ストムバートは、Aクラスにいらっしゃいますの?」
「え? いいえ、居ないわ。Bクラスではないの?」
「いや? Bクラスにはいないぞ?」
あれ?
やっぱりゲームとちょっと変わってきているみたい。
ユーヴィンは脱落か。
「殿下。隣国のヴァイゼ王子は如何でしょう? Aクラスにいらっしゃいませんでしたわ」
「ん? そういえば見ていないな。Bクラスにもいなかったぞ。ただ、彼はこっちでやることが色々あるから、留学するにしても、時期は遅れるのかもしれない」
ふーむ。攻略対象の何人かは脱落したのかな?
「殿下。側近候補にヴァルター・サグラモールは入っておりますの? 彼はAクラスにおりましたわ」
「うん。候補には入っているな」
「とりあえず、早急に殿下の周りを固めた方が宜しいかと存じます。ご学友として親しくなさる分には自由でしょうから、お声を掛けてみられては?」
「そうだな……。明日、Aクラスに行くよ」
「殿下、私もご一緒致します!!」
「はい。畏まりました」
今の殿下ならシャーリィには陥落しないだろうし、ヴァルター達には悪いけど、当て馬になって頂こう。あの子が逆ハー狙うなら、分散される分、殿下を守りやすくなる。
これがゲーム補正ってやつなのか?
回避出来たと思ったのに……。
ガックリ。
いつもご拝読・いいね・ブクマ・評価・ご感想、ありがとうございますー!!
感謝感謝です!次は夜、20時くらいに投稿予定です!




