43.婚約解消を望みます。
王宮に着くと、謁見の間に案内をされた。
名を読み上げられ、入室を許可される。
緊張気味のビアンカの手を握り、お父様とお母様に続いて扉をくぐる。
謁見の間には、国王陛下と王妃殿下、アイザック王子と、ラザフォード殿下がいた。
国王陛下と王妃殿下は不思議そうな顔をして、アイザック殿下はドレスを身に纏ったビアンカに目が釘付け。ラザフォード殿下は眉根を寄せ、いぶかし気な顔。
「メルディアを照らす黄金の太陽、国王陛下にご挨拶申し上げます。ヴェルハルト・レナン・ブランシェルに御座います。お目通り賜り、恐悦至極に存じます」
「面を上げよ。ヴェルハルト、そちらの娘は?」
「あら。あなた……」
何度か顔を合わせている王妃殿下はビアンカに気づいたようだ。
「ビアンカと申します。この度、ブランシェル家に養子に迎え入れましたので、ご挨拶に参りました」
「ビアンカ・ブランシェルと申します」
「養子? アリー。ビアンカはあなたの侍女をしていた子ね?」
「左様で御座います」
「ふむ……。しかし、そなたにはすでに息子もいただろう? 何故養子を?」
「それにつきましては、わたくしからご報告申し上げます」
私はビアンカと手を繋ぎ、一歩前に出た。
「ふむ。申せ」
「ありがとう存じます。ビアンカを養子に迎えて欲しいと両親にお願いをしたのはわたくしです。大変ご無礼ですが、わたくしは第一王子アイザック殿下の婚約者を辞退させて頂きたく存じます。アイザック殿下とビアンカは思いを寄せ合っております。わたくしは二人の想いをかなえて差し上げたく存じます」
「な……ッ!」
思わず立ち上がってしまった国王陛下。
うぅ……。これ、怒りを買ったかな……。
早まったか……?
「どういうことなの? アイザック。アリーの言ったことは本当なの?」
「はい。幼い頃より、私はビアンカを妃に望んでおります」
「アイジー! お前、そんなこと一言も言わなかったじゃないか!」
「それは、ビアンカが王子妃として成長できるか、未知数だったからで御座います」
声を荒げたラザフォード殿下に、私はやんわりと声を掛ける。
つか、何怒ってんのこの人。
「……アリー。あなたがこの子を侍女として王妃教育の場に同席させていたのは、この子に王妃教育を身に付けさせる為だったのかしら?」
「王妃殿下、並びに国王陛下を欺いた形となりましたこと、心よりお詫び申しげます。このビアンカ次第では御座いましたが、そういった意図も御座いました」
「しかし、解せんな。何故そなたは自分の婚約者を奪う娘に教育を受けさせ、あまつさえ養子に迎え入れようなどと考えたのだ? それほどアイザックを厭うておるのか?」
がーんっとショックを受けたような顔で、私を見るアイザック殿下。
いや……嫌ってない。嫌ってないよ……?
「滅相も御座いません。アイザック殿下は素晴らしい方だと尊敬しております。落ち度など御座いません。幼い頃より親しくさせて頂いた殿下には、幸せになって頂きたいのです。――荒唐無稽な話だとお笑いになるかもしれませんが、わたくし、幼い頃に夢を見たのです。夢の中で、アイザック殿下はビアンカと惹かれあっておりました」
「なら、なおのことビアンカを退けたいと思うのではないのか?」
「結婚が迫った頃にビアンカと出会っていたならば、なんとしても退けたいと考えたかと存じます。ですが、夢を見たのは殿下との婚約が決まり、殿下とお会いする前でした。まだ六歳。それならば、ビアンカが殿下の妃となるにふさわしい娘になれば、わたくしに反対する理由は御座いませんでした。ですから、わたくしは父に願い出て、ビアンカを探し出し、ブランシェル家に招きいれたのです」
「そなたは……。次期王妃の座を最初から捨てるつもりだったと申すのか?」
「申し訳御座いません。もしも、ビアンカが相応しい娘にならなかった場合、わたくしの目の届く場所で、殿下のお立場を狂わせることが無いように、我がブランシェル家に置くことで監視をする意思も御座いました。その場合は、わたくしは殿下に嫁ぐつもりでおりました」
えって顔で私を見るビアンカ。
最初に言ってたじゃん……。駄目だったらうちの使用人になって貰うってさ。
一度王妃教育受けてみて、これは無理って思えば、私を陥れてまで王妃の座に着こうとは思わないだろうって思ってたし。
「勿論、政略の意味を分からぬ程子供では御座いません。ですが、ビアンカが我がブランシェル家の娘となり、わたくしと比べ遜色のない教養を身に付けているのであれば、王家にとってもブランシェル家にとっても、支障は無いかと存じます」
「わたくしはアリーがお嫁に来てくれるのを楽しみにしていたのよ?」
「王妃殿下には心よりお詫び申し上げます。ですが、このビアンカとお話をなされば、きっと王妃殿下もお気に召すかと存じます」
顔を見合わせる国王陛下と王妃殿下。
アイザック殿下は玉座のある壇上から降りて、私とビアンカの間に立った。
うん、そっちが上座だもんね。私はすっと一歩下がる。
「父上――いえ。国王陛下。私、アイザック・フェロー・ド・メルディアはアウラリーサ・ブランシェルとの婚約を解消し、ここにいるビアンカ・ブランシェルを妻に望みます。どうかお許し願いたく存じます!」
まっすぐに国王を見つめ、深く頭を下げるアイザック王子。
ビアンカも、深く腰を落とし、頭を下げた。
私も、お父様もお母様も頭を下げる。
「――考えておこう。……そうだな。すぐに認めてやるわけにはいかん。だが、ビアンカを次期王妃の視野に入れ、新たにそなたには王妃教育を受けて貰う。期限はそなた達が十七歳となり、学園を卒業する日と定めよう。ビアンカがアイザックの妃に相応しいと判断をすれば、その時は正式にアウラリーサとの婚約を白紙とし、新たにビアンカを婚約者として発表しよう。それでどうだ?」
「国王陛下のご配慮、痛み入ります」
「有難うございます!!」
ビアンカとアイザックは、お互いを見つめあい、嬉しそうに笑っている。
婚約解消、とはならなかったけれど、国王陛下と王妃殿下の同意は得られた、とみていいだろう。
……私の婚期は危うくなったけどね……。
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