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41.外堀埋めさせていただきます。

 それから。

 月日は目まぐるしく過ぎて行った。


 夢中で勉強をし、マナーや所作やダンスの稽古を受けて、部屋に戻ってビアンカとお浚いをする。

 週に二度の、アイザック王子を交えての勉強会は、毎回ラザフォード殿下もやってきて、悔しいけれど、そのおかげでアイザック王子も大分勉強が身についてきたみたい。


 お父様は、やっと約束をしていた護身術の先生を手配してくれて、週に一度、護身術も教わっている。誕生日に貰った新しい金属板を使った護身術も、フレッドに付き合って貰って続けている。

 まだまだ拙いから、騎士とか相手じゃ手も足も出ないだろうけど、素人相手なら通用するんじゃないかな?ってレベルにはなったんじゃないだろうか。


 因みに、お父様からのもう一つのプレゼント、白い犬のシャリシールは、もっふもふの大型犬に成長した。

 私の背と変わらないくらい大きくなって、飛び掛かられると簡単に後ろに転がされちゃうくらい。

 毎朝、一緒にお散歩をしているお陰で、私の体力もかなりついたと思う。


 ビアンカの所作は、見違えるように綺麗になって、言われなければ、誰も彼女が元平民とは気づかないだろう。

 最初こそ、これ駄目かもと思ったけれど、あんなことがあったなんて嘘みたい。


 私も王妃殿下とのお茶会に招かれて、そこで何人かの令嬢と仲良くなることが出来たけれど、結構驚いちゃった。

 王宮のハイレベルな人たちに囲まれていたせいか、彼女達と比べて、ビアンカの所作は遜色ないレベルだったから。


 アイザック王子は、ぐんぐんと背が伸び、筋肉もついて、やんちゃ坊主な雰囲気は殆ど無くなった。

 最近は、遊びを交えなくても、自主的に勉強している時もあるみたい。

 少しずつだけど、次期国王の風格も出てきたんじゃないだろうか。

 今は、私の身長より高くなったアイザック王子を、小さな子とは、見れなくなった。


 時々、男っぽさを見せるようになったアイザック王子を意識してしまったりする事もあったりするけれど、アイザック王子とビアンカの恋は順調だ。

 邪魔をする気は、無い。


 ――あれから、六年。


 もうすぐ、十四歳。地盤は固まったとみていいだろう。

 機は、熟した。


***


「お父様。お母様。お兄様。お話があるんです」


 王都のタウンハウスへ戻ってきた家族に、食後サロンへと集まって貰う。

 お父様もお兄様もお母様も、きょとんとしている。


「どうしたんだい?」


 リティがお茶とお菓子を置いてくれるのを待って、私はお父様を真っすぐに見つめた。


「お父様。お母様。お兄様。私、ビアンカを妹に欲しいんです」


「……は?」

「まぁ……」

「今でも姉妹と変わらないだろう?」


「そうじゃないんです」


 んん……。どこから、話そうか……。


「今までずっと黙っていてごめんなさい。――お父様。ビアンカとお友達になりたいと、お父様にお願いをしたとき、私が夢のお告げだと言ったことを覚えていらっしゃいますか?」


「ん? ああ」


 頷くお父様に、私も頷き返す。


「私は、夢のお告げで、アイザック殿下とビアンカが惹かれあう未来を見ました。私は王妃になりたいと望んではいませんし、できるならアイザック殿下とビアンカに幸せになって欲しいんです。お父様、お母様、お兄様。今のビアンカをどう思われますか?」


「あ、ああ。確かに、その辺の令嬢に引けを取らないくらい、所作が綺麗になっていたな」

「そうね。最初は下女に劣るくらい酷かったけれど、本当に上品になったわ」

「まぁ……。礼儀正しいし、所作も綺麗だよね。あれなら十分淑女で通用するとは思うけど……」


「私は、公爵家の娘として恥ずかしくない子になるように、ビアンカにはずっと私と一緒に王妃教育の場に同席をして貰い、勉強をして貰っていました。夢の通り、アイザック殿下とビアンカは惹かれあっています。あの子が私の妹になれば、アイザック殿下とビアンカの立場の問題は無くなりますし、公爵家から娘を出すという意味で、私との婚約を解消し、ビアンカを出すこともできます。発表前の今なら、殿下と私が同意なら、それも難しくは無いでしょう」


「うーむ……。アリー。お前は本当にそれで良いのかい? あんなに王妃教育を頑張って来たじゃないか」


「それはすべてビアンカを王子妃にする為です。記憶を無くしたあの日から、ずっと計画していたことでした」


「……アリーが妙にあの子を傍に置きたがったのはそういうことか……。でも、そうしたらアリーはどうするつもりなの?」


「私はまだ十三歳です。今からなら、相手を見つけることもできると思いますが、出来なかったら、お父様の爵位の一つのセイアッド領、譲って頂けませんか? 子爵なら、お婿さんも見つかるかと思います」


 うーんと唸るお兄様。心配しなくても欲しいのは子爵。

 お兄様の子が数人生まれても大丈夫なように、ちゃんと考えてるんだよ。


「でも、アリー。あなたも殿下と随分仲良しになっていたじゃないの。それに、ビアンカはクロエの娘とはいえ、今は平民なのよ?」


「仲は悪くないとは思いますが、私と殿下は相性が悪いんです。私は融通が利かないし、殿下は楽観主義です。貴族の義務は心得ておりますし、殿下とビアンカが惹かれあっていなければ、そのままアイザック殿下に嫁ぐことに否やは申しませんが、愛し合う二人を引き裂かずに済む方がずっといいかと存じます。……ですから、私、ネーヴェ男爵にお会いしようと思っているんです」


 あれから、ゲームの未来は大分変わっている。

 クロエもマークも元気に我が家で働いている。

 ビアンカがネーヴェ男爵に引き取られる未来は、もう無い。


「ネーヴェ男爵に?」

「クロエのお兄様ね」


「はい。クロエにお願いしなくてはなりませんが……。一度、クロエとビアンカを連れて、ネーヴェ男爵にお会いしようと思っています。そこで正式に養子として迎え入れることに同意して貰えば、ビアンカはネーヴェ男爵の姪として、公爵家に迎え入れることもできるんじゃないでしょうか。どうか、お願いします」


 暫く良い顔をしなかった両親と兄だが、私がしつこく粘ると、やがて根負けしたように、ビアンカを迎え入れることに同意をしてくれた。




 その数日後。私はお父様と一緒に、クロエとビアンカを連れ、ネーヴェ男爵に面会した。

 最初こそ、クロエに酷く怒っていたネーヴェ男爵だったが、公爵家との繋がりという旨味を取り、契約書に同意をしてくれた。


 クロエはこれで、名目上は平民に嫁いだ元男爵令嬢となり、ビアンカの身分は確保され、更に数日後、ビアンカは晴れて我がブランシェル公爵家の娘として、迎え入れられたのだった。

いつもご拝読・いいね・ブクマ・評価、有難うございます!!

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