表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/109

40.暫しのお別れです。

「小さいあなたを残していくのは本当に心配だわ……。リティ、フレッド、くれぐれもお願いね?」


「畏まりました、奥様。道中お気をつけて下さいませ。無事のお戻り心よりお祈り申し上げます」

「命に代えてもお嬢様はお守り致します」


「アリー、夜更かしをしてはいけないよ。王宮の方にご迷惑を掛けないようにいい子にしているんだぞ? 暑くなるからといって、お腹を冷やさないように、それから――」


「アリー、これをあげるよ。離れていてもずっと一緒だからね」


 お父様の間に割り込んで、カシー兄様が私の首にアミュレットを掛けてくれる。


「良いんですか? 旅をなさるお兄様が身に着けていた方が……」

「大丈夫だよ。僕も剣の腕は上がったし、カインも一緒だから」


 にこっと笑うカシー兄様の後ろで、カインが胸に手を当て、すっと頭を下げる。

 私もカインに、どうかお兄様をお願いしますと思いを込め、頭を下げた。


 大げさすぎ、と思ったが、この時代だと、大げさなわけでもないのかもしれない。

 お父様達の乗る馬車の後ろには、三台の馬車。荷物を乗せた馬車に、使用人を乗せた馬車。

 その馬車を守るように、騎馬した騎士が左右に三人ずつ。六人の騎士が守りについている。

 この、物々しさ。

 脇を守る騎士の空気は、まだ公爵家の敷地内だというのに、ピリっと刺すような緊張感がある。


 これから長い道のりを、数日かけて旅をする。

 道中盗賊が出ることもあるし、野生の獣に襲われることも、運が悪いと魔物に遭遇することもあるのだそうだ。


 ブランシェル公爵領までは、割と道が整備されていてまだマシらしいが、それでも危険には変わりがない。

 年に二度も、国の重鎮である貴族が、皆こうやって命がけの旅をしてるんだ。

 前世では、命の危険なんて、死ぬ時まで感じたことが無かった。

 安全なのが当たり前の世界だった。

 それに比べ、この世界は、死がすぐそばにある感じがする。

 すごい世界だな……。ものすごく、命っていうものを感じる。


 私よりも先に涙目のお父様とお母様に抱き着くと、苦しいくらいに抱きしめ返してくれた。


 愛されてるなぁ、アウラリーサ。じぃん、とする。

 私も、大好きだ。この家族。温かくて、幸せな気持ちになる。

 これからしばらく会えないと思うと、やっぱり寂しい。

 うるっときてしまう。


 お父様とお母様の前だと、どうにも子供に戻ってしまう気がする。

 ぎゅぅ、っと抱き着いて、すりすりすりっと頬をこすりつける。

 お父様の、わずかに香る煙草の匂い。

 お母様の、甘い花の香り。


 お父様とお母様からは髪に。カシー兄様からはおでこに、口づけを貰い、三人は馬車に乗り込んでいく。


「お手紙を書いてね。待っているわ」

「必ず書きます! お気をつけて!!」


 御者が一度頭を深く下げ、馬の嘶きを合図に、馬車が走り出す。

 身を乗り出したお兄様が手を振って、後続の馬車からも、通り過ぎる際に侍女や従者が口々に「お嬢様ー」っと手を振ってくれる。

 馬車を守る騎士達は、前を真っすぐ向いたままだったけれど、お別れの際はきちんと声を掛けてくれていた。


 ぎゅぅっと胸が締まるようで、涙があふれて止まらない。

 私の隣に、フレッドが跪いて、そっと私の背に手を回してくれた。

 温かい手のぬくもりに、余計に涙があふれてくる。

 しゃくりあげて泣く私をなだめるように、フレッドはずっと背をさすってくれていた。


 遠ざかっていく馬車を、リティとフレッドとビアンカと、王都に残る使用人達と一緒に、見えなくなるまでずっと、見送った。


「――さ。お嬢様。そろそろお屋敷に戻りましょう。お城に行く準備をなさいませんと」

「……ん」


 少し、気持ちが甘えたになっているのかも。

 リティの袖を引くと、リティはそっと私の手を握ってくれた。

 駆け寄ってきたビアンカが、私の逆の手を握る。


 お城に行ったら、いつも通りに頑張るから。今だけは、ちょっと甘えたい。


***


 目を冷やし、何とか誤魔化せるようになった頃、お城から迎えが来てくれた。

 私も今日からお城で生活することになる。

 荷物はほとんど運び終えているから、日常的に使う物を詰めた鞄が一つ分。

 フレッドが鞄を持ってくれて、馬車まで行くと、アイザック王子も一緒に来ていた。

 神妙な顔で馬車を下りると、ビアンカに一度笑いかけてから、真顔で私の顔を見る。


「アイザック王子殿下。迎えに来て下さったんですか?」

「公爵たちが今日領地に戻ると聞いたから。公爵たちは?」

「先ほど発ちました」

「そっか。……。あ。秋だ! 秋になったらまた会える。元気出せ! 秋なんて、あっという間だ!」


 ――普段はクソガキな癖に。

 こんな時だけ、気遣いを見せるなんて。

 やっと止まった涙がまた崩壊しそうだ。


 こういう時の優しい言葉は、ほんとずるい。


「ありがとう存じます。……そうですね、すぐですね!」


 いつまでも、めそめそなんてしていられない。

 ここから、本格的に妃教育が始まる。

 それは、ビアンカを王妃の位置まで引き上げないといけないということ。


 受験並みに頑張らないと、人に教えるなんて、到底無理だ。


 零れ落ちた涙を、ぐぃっと乱暴に拭って、作り笑いだけど、大丈夫だと、笑って見せた。

いつもご拝読・いいね・ブクマ・評価、誤字報告、有難うございます!!

感謝感謝です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ