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4.閃きました。

 あの後、お医者様が来て、診察をしてくれた。

 頭に傷が無いか調べたり、レンズのついた道具で瞳孔を診たり、円錐型の聴診器で心音を確認したり、脈を取ったり。

 それから、次々と色々なものが運ばれてきて、一つ一つ、確認をした。

 本だとか、ペンだとか、ペーパーナイフだとか、カトラリーだとかは元々の知識もあったし、自然と分かった。

 現世では見たことが無かった魔道具なんかもあったけど、そっちも問題なく使えた。


 あ、ちなみにこの世界、魔法は無いけど魔術はある。

 どういうことかというと、呪文を唱えれば水を出せたりってのは無くて、現世のガスや電気の代わりな感じ。

 道具を使えば、いろんなことが出来る。使い方は、小さなレバーみたいなのを回したり、引っ張ったり、アンティークっぽい感じ。

 魔道具は魔物の核から取れる魔石を術式の回路を組み込んだ道具に装着して使う。

 イメージは乾電池かな。


 人だったり、場所だったり、歳だったりは覚えてないんだけど、日常的に使っていたもの、例えば簡単な文字の読み書きだったり、道具の使い方だったり、カーテシーや食事の作法なんかは、体が覚えているみたい。


 私のことも、教えて貰えた。


 今のアウラリーサは、六歳。

 両親と兄の四人家族。

 公爵家の令嬢で、つい先日、アイザック王子との婚約が決まったばかりだそう。

 婚約前なら回避したかったんだけど、残念。


 診察を終えると、お医者様は両親と話があると出て行った。


 残ったのはお兄様。

 両親は忘れられてたことが相当ショックだったみたいで、打ちひしがれていたけれど、カシー兄様は早々切り替えられたみたい。

 にこっと笑うと、ぎゅっと私の手を取った。


「アリー、この家の中の事は覚えてる?」

「い、いえ……」

「それじゃ、着替えたら案内してあげるよ。屋敷の中!」




***


 着替えを済ませて部屋の外に出ると、お兄様が待っていた。


「お待たせしました、カシー兄様」

「うん、じゃ、いこっか。どこから見たい?」


 どこからつってもなんもわからんのですが。


「ええと……。カシー兄様のおすすめの所から教えてください」

「じゃあ、こっち!」


 食堂、お茶会などに使うサロン、応接室が三つ。お父様の執務室。シガールーム。お兄様の私室にお母様の私室。

 ダンスのレッスンをするがらんと広い部屋に勉強部屋。パーティをするためのダンスホール。

 お父様の狩りの戦利品を飾る剥製コレクションの部屋にはビビった。

 甲冑や武具を飾る部屋なんかもあった。

 書庫は二階分の高さの吹き抜けで、天井まである大きな本棚が円形の壁一面にびっしりと並んでいて、これが個人の書庫かと驚いた。

 流石公爵家。広い広い。

 観光してるみたいで、めちゃくちゃ楽しかったけど、屋敷の中を歩くだけで、息が切れてしまった。


 やっぱり、運動不足かな? 幼稚園児ってなんか一日中駆け回ってるイメージで、意外と体力ありそうなんだけど。

 将来の事を考えると、今のうちから体は動かしておいた方がよさそう。


 ヘロヘロになっていると、使用人が呼びに来て、食堂に案内される。

 すでに両親が待っていた。


「父上、母上。遅くなって申し訳ありません。レイアン先生はお帰りになったんですか?」

「ああ。今さっきお帰りになられたよ」


 兄の言葉に返事を返しながら、気づかわし気にちらちらこちらを伺う両親の視線がいたたまれない。

 気づかない振りをして椅子に手を掛けたら、失礼しますと給仕係の男性が抱えて椅子に座らせてくれた。

 あああああ、六歳児……っ!

 恥ずかしいけど仕方がない。


 朝食は目が点になる豪華さだった。

 え。朝からこんなに食うの?

 カリカリに焼いたベーコン、目玉焼き、サラダはいいとして、魚をミルクで煮たようなやつ、ブロックのハムにチーズ、でっかいソーセージ、レバーのパテっぽい何か、豆の入ったお粥っぽいの、パンにスコーンにパンケーキ、朝から生クリームが乗ったケーキってどういうこと?! ジャムにバターに蜂蜜にクロテッドクリーム。もう見てるだけで胸焼けしそう。


 パンに目玉焼きとチーズをもらって、ソーセージを一つ。パンはサンドイッチ用かな? ってくらいに薄いパンで、表面をカリっと焼いてあって、おいしかった。

 もう充分です。ハイ。


「アリー、こんな時になんなんだが……。来週、アイザック殿下との顔合わせがあるんだ。どうする? 会えそうかい?」


 あー……。アイザックか。

 悪さをしなければ断罪されることは無いんだろうけど、気が重い。

 そのまま上手くいったとしても、私に王妃なんてできる気が一ミリもしない。

 できれば逃げたい。

 でも、逃げてもどうにもならなそう。王家との婚約なんて、早々覆せないだろうし。

 だからって、婚約解消の為に誰かを傷つけて断罪なんてもっとやだ。


 婚約前なら断固拒否したんだろうけど、婚約しちゃってるんだよなー。やだなー。


 


 …いや、待てよ?


 ヒロインは、ビアンカ・ネーヴェ。ネーヴェ男爵の駆け落ちした妹の子。

 それがわかっているなら、公爵家の力を使えば、ビアンカを探し出せるんじゃ?

 何も王子とヒロインが学園で出会うまで、待つ必要、無くない?

 とっととビアンカを探し出して、王子様に引き合わせちゃえばよくない?

 ヒロインと王子が意識しあったら、穏便に婚約解消できないかな?

 いっそビアンカを男爵に引き取られる前にうちで引き取っちゃって、王妃教育もさせちゃえば、アイザック王子とビアンカの結婚、なんの問題もなくなるよね?

 今から頑張れば、婚約解消になっても、嫁ぎ先くらいは見つかるんじゃないかな。


「お父様、私、大丈夫です! アイザック様にお会いします」


 そうと決まれば、計画を練らなくちゃ。

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