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38.意外な才能がお有りなようです。

「なぁなぁなぁ、少し休もう、五分だけ!」

「始めてまだ五分で御座います」

「やる気が出ないんだ。そうだ、知っているか? 向こうにヒタキの巣があるんだ。タマゴがあるんだぞ。ビアンカは見たいだろう? な?」

「左様で御座いますか。ではそちらの計算を一ページ終わらせたら考えて差し上げますわ」

「一ページなんて多すぎるだろ!? 夜になっちゃうじゃないか!」

「十分もあれば終わります」


 うぜー……。


 あれから三日。

 殿下が一緒に勉強しようと押しかけてきた為、本日は四阿で自習をすることになったんだけど、はっきり言おう。


 邪魔ッッ!!


 なぁーにが一緒に勉強しようだ。

 わずか一桁の計算でやる気をなくしわずか五分で、手足ばたばたさせてやだやだと駄々を捏ねている。

 おもちゃ売り場の幼稚園児か。


 ギャン泣きして大騒ぎするお子様にブチ切れてる親御さんの気持ちがよく分かった。

 時々ギャン泣きする子供相手にヒステリックに怒鳴ってる親見てうわぁーってなってたけど、これは周りの目気にしてる余裕無くなるわ。

 王子じゃなかったら殴ってるよ私……。


 私の額にピシピシと怒りバッテンが浮かぶのを半べそでオロオロと見ていたビアンカが、はっと顔を上げた。


「あっ。王弟殿下」

「えっ?! 叔父上!?」

「……ぅぇ……」


 思わずうげっと顔に出る私と、これでサボれると顔に出る殿下。


「やぁ。皆で仲良く何をやってるんだ~い?」


 上質な服を着崩して、無駄にキラキラしい笑みを浮かべて近づいてくる王弟殿下。


 飛び出しそうになった殿下の上着をむんずと捕まえ、私は席を立つと腰を落として挨拶をした。

 ビアンカも慌てて立ち上がり、ペコーっと頭を下げる。

 後ろで空気に徹していたリティも優雅に一礼。


「ご機嫌よう、ラザフォード王弟殿下」

「叔父上、聞いてください、アウラリーサが全然休憩させてくれないんです」

「五分ごとに五分の休憩を取っていたら国王に必要な学習を終える頃にはお歳を召してしまわれますわ」


 ラザフォード殿下は、きょとんっと私とアイザックを眺め、声を上げて笑った。


「あっはは、そうだよねぇ、勉強なんてつまんないもんね~、いいじゃんいいじゃん、さぼって遊んじゃおうよ!」

「わぁい!」

「ラザフォード殿下!」


 何言いやがんだこのチャライン殿下!!


 そろそろイライラMAXになっていた私、つい声を荒げてしまった。

 は、っと気づいて、慌てて頭を下げる。


「も……申し訳御座いません……」

「あははははっ、アリーは真面目さんだねぇ。気にしないで良いよ。けどさぁ、つまんない勉強をいっくら無理やり詰め込んだって、覚えらんないって。だってつまんないことなんて、記憶にとどまってくんないでしょ?」

「それは……」


 ……まぁ、私も勉強は好きなわけじゃない。寧ろ苦手だ。私は頭使うより体動かす方が好きだったし。

 ぶっちゃけ小、中学校で習った化学や数学の授業の大半はろくに覚えていない。

 今は……。

 少し考えて気が付いた。

 ここがファンタジーの世界だから、かも。

 それだけで色々気になって、私にとって、ここでの勉強が苦じゃないだけなのかもしれない。


 ――そう考えると、六歳のアイザックが勉強嫌がる気持ちもわかる。

 わかるんだけどさぁ。

 次期国王になるって子が、わずか六歳で勉強嫌いでサボリ癖は不味いと思うんだよ。


 思わずむぅっとなる私を、ラザフォード殿下が楽しそうに眺める。


「まぁまぁ、アイジー、勉強じゃなく遊びならやりたいかい?」

「はい! 勿論です、叔父上!」

「ラザフォード殿下……」

「まぁまぁまぁ、そう怖い顔しないで? 綺麗な顔なのにさぁ、ちっちゃい内からそんなに眉間に皺寄せてると、大きくなった時にくっきり眉間皺になっちゃうよ?」


 こーんな、なんて、指で眉の間を寄せてみせるラザフォード殿下。

 ぅ。それは嫌かも……。


 思わず指でぐにぐにと眉間の皺をほぐすと、ラザフォード殿下は可笑しそうに笑った。


「じゃぁ、計算で遊ぼっか!」


「「計算?」」


 私と殿下の声が被る。ビアンカもきょとっと首を傾けた。


「そう! ほら、見てて」


 そう言って、ラザフォード殿下はふんふんと鼻歌でリズムを取る。


「こっちは三ー、こっちは四ー、せーの、ほいっ。さて、いーくつっ」


 ラザフォード殿下は、片手を指三本、もう片手を指四本立てて、ほいっの合図で両手をトンっとぶつけて、四の方を五、三の方を二に、移動したようにして見せる。


「「七!!」」


 アイザック王子とビアンカが同時に答えた。ラザフォード殿下がにこにこと笑う。


「あったりー! じゃ、次行くぞー。こっちが三ー、こっちは二ー、せーの、ほいっ!」


「「五!!」」


 へぇ……。


 十回くらい、繰り返すと、アイザック王子は手をぶつけると同時に答えを言うようになっていた。


「よぉーし、すこーし難しくするぞー。こっちが二ー、こっちが四ー、せーのっ」


 ラザフォード殿下は両手をぱっと後ろに隠した。


「さて、いーくつっ」


「……ええと……。六!!」


 一瞬迷ったが、すぐにぱぁ、っとアイザック殿下が答えた。


「どうかな~~? じゃーん!! 答えは! 六! アイジー、正解!!」

「やったぁ――!!」


 違うやり方でクイズを出す。


「こっちに四、こっちに三~、さて、幾つ?」

「「七!!」」

「あたり! じゃ、後幾つたすと十になるでしょーかっ!」

「四!」「三!」


 あれ?という顔で顔を見合わせるビアンカとアイザック王子。

 因みに三と答えたのがビアンカ。四と答えたのがアイザック王子。


「じゃあ、正解いくぞー。こっちに四~。こっちに三ー、せーの、ほいっ。さて、残った指は~、じゃーん!」


 両手で七を作ってアイザック王子とビアンカに見せるラザフォード殿下。


「三だ!!」「三です!!」


 この計算ゲームがお気に召したらしいアイザック王子。

 休憩休憩騒いでいたのに、一時間、みっちりと遊び、合計が十五までの計算なら、即答できるようになっていた。


 そして、次は体を動かそう、と始めたのはカルトゥール語の勉強。

 枝と葉っぱ、花に石。リボンに宝石、箱に砂糖をテーブルの上に並べていく。

 一個ずつ、カルトゥール語の呼び方を教えてから、ラザフォード殿下が「ずんちゃ、ずんちゃ、ずんちゃっちゃ~」と鼻歌を歌い、それに合わせてテーブルの周りを歩く。


 途中で、ラザフォード殿下がぴたっと止まり、「エシャ(枝)!」とか「フリーシェ(花)!」とか言うのに合わせ、そのアイテムにタッチするというゲーム。

 1個ミスがあると、アイテムが増えていく。

 ビアンカや王子は次々何かを持ってきては、これは?と聞いて覚えていく。

 途中からお手付きしたり間違えたりした人が鬼になるルールに変えて、アイザック王子やビアンカも問題を出すようになった。

 あっという間に、幾つかの単語を覚え、this is a pen程度の簡単な言葉も覚えてしまった。

 悔しいけど、楽しかった。何度もお腹を抱えて笑ってしまった。


 楽しくなくちゃ覚えない、かぁ……。

 確かに私のやり方じゃ、勉強嫌いに拍車かけるだけだったかも。反省。

 楽しい方が、確かに覚えるよね。遊びながらのお勉強、良いかもしれない。


 相変わらずチャラくて苦手だけど、ちょっとだけ、ラザフォード殿下を見直した。

いつもご拝読、いいね、ブクマ、評価、誤字報告、ご感想、感謝感謝です!

ちょっと金曜日から体調崩して更新が遅くなりました、ごめんなさい><;


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