37.抗議致します。
王宮に通うようになって、私はビアンカを王妃教育に参加できるように手を打った。
いやー、物事ってどこで役に立つかわかんないね!
ここで、あのメイナード夫人が役に立つとは。
実は初回のマナーの講義の時に、ビアンカとリティの入室を拒まれたんだよね。
講義の間、お付きの方は控えの間でお待ちくださいって。
講義の後、王妃殿下にお目通りをお願いし、ビアンカとリティを連れて行った。
謁見室に案内をされ、扉の入口でリティとビアンカの入室を止めた近衛兵を制して、王妃殿下に対面する。
きょとんと不思議そうにリティとビアンカを眺める王妃殿下。
無礼だよね、すみません。
「王妃殿下、お忙しいところ、お手間を取らせてしまい、申し訳御座いません。こちらはわたくし付きの侍女で、こちらがリティ、あちらがビアンカと申します。実は、王妃教育の間、この者たちを同席する許可を頂きたいのです」
「まぁ……。理由を聞いてもいいかしら?」
「王妃殿下もご存じのことですが、わたくしは以前、家庭教師に暴力を振るわれておりました。ですから、わたくしは講師という立場の者が怖いのです。王妃殿下がご用意下さった講師が何かをするなどとは、全く思っておりませんが、どうしても不安に思ってしまうのです。彼女達がいてくれれば、私は安心してお勉強に集中することができます」
「ああ、そうね……。十四歳までなら、認めてあげるわ。それ以降は、機密に関わる内容になってくるから、同席は認められないけれど、それでも宜しくて?」
「はい!! ありがとう存じます!」
っしゃ!
これでビアンカも妃教育に参加させられる。
部屋に戻ったら、遊びに来ていたアイザック殿下がぶーぶーだった。
「なんで!? 折角ビアンカもアウラリーサも王宮に居るのに全然遊べないじゃないか! アウラリーサが勉強している間、ビアンカは使用人なんだから同席しなくたっていいだろ!? アウラリーサが後でビアンカに教えればいいじゃないか! アウトプットが大事って言ってたのに!」
「その点はお詫び申し上げます。王妃教育を甘く見ておりました。わたくしもそうしたいのは山々ですが、一日は二十四時間しかないんです。私の一体どこにそんな時間があると?」
「帰りの馬車の中でいいじゃないか!」
「勿論帰りの馬車の中で教えは致します。ですが、ブランシェル家は王宮の近くに居を構えているんですよ。馬車の時間は一時間ほどしかないんです。どうやって十時間分の内容を一時間で詰め込むんですか」
「じゃ、屋敷に戻ってから教えたらいいだろ!?」
「わたくしに寝るなと?」
「うぅぅぅぅ……っ」
「殿下もお勉強をなさればよいではありませんか。大体、何故いずれ婚約解消する予定のわたくしがみっちりと教育を受けている間に殿下は遊んでおいでなのですか」
「べ……勉強は、してる……」
「まぁ。素晴らしいですわ。では、既に他国の言語も習得なさっておいでなのですね。何か国語ほど?」
「……外国語は、まだだ」
「左様ですか。では、歴史は? 古典は? 法学は? 貴族理論はどれほどでしょう?」
「……まだだ」
「……なんのお勉強をなさっているのでしょう?」
「文字の読み書きだろ、剣の稽古だろ、足し算も一桁ならわかるぞ!」
「剣以外なら、ビアンカでもできますわ。抗議申し上げます。せめてわたくしがビアンカに教えた程度身に付けて頂くまで、ビアンカには会わせて差し上げません」
「なんだと!?」
「あら、ご不満ですか、そーですか。あーあ、可哀想なビアンカ。あーんなに殿下の為に頑張ったのに。まぁ、別に宜しゅうございます。殿下がビアンカを妃に迎えるのをやめると言うのであれば、ビアンカを王妃教育に同伴させる必要は無くなりますわ。侍女としてなら、リティから教わるだけで十分だと思いますので。わたくしも自分のお勉強だけで済みますから、殿下は存分にぐうたらなさってもかまいませんわ。いずれわたくしが王妃になった暁には、優秀な部下で周りを固め、国はしっかり回させていただきますので」
「なんでそうなる!?」
「勿論嫌がらせですわ」
唖然とした顔の王子殿下。
ええ。嫌がらせですがなにか?
なんだよ、人が法学やらなんやらで頭抱えてんのに、文字の読み書きに計算だと?
普通の六歳児ならそれでいいけど、王位継承権第一位の王子がなんで婚約者よかレベル低いんだよ!
同じ容量詰め込んで貰わないと納得できない!
圧笑を浮かべて見つめると、ぺしょんっと殿下の頭で耳が垂れた幻覚が見えた。
「わ……わかった……。ぼくもアウラリーサと同じだけ勉強する……」
「お分かりいただけたようで何よりです」
「殿下! 私もいっぱい勉強するので、お休みの時に教えあいっこ致しましょう!」
「そうだな。アウラリーサも一緒にやろう。そのくらいは良いだろ?」
なんだ。私も混ぜてくれるのか。
二人で仲良くやるのかと思ったら。
ビアンカを見ると、ビアンカも目をきらきらさせて頷いている。
「ええ、喜んで」
これで甘ったれの我儘王子、脱却できると良いな。
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