36.生理的に無理かもしれません。
王妃殿下の謁見の間は、王妃専用ということもあって、上品で優しい色合いの部屋だった。
壁際には、三十人くらいの身なりの良い男女。装いからして、女中や侍女ではなさそうだけど。
「メルディアを潤す麗しき月、王妃殿下にご挨拶申し上げます。ブランシェル公爵公女、アウラリーサ・ブランシェル、王妃教育を賜るため、本日父と共に登城致しました」
「ご機嫌よう。アウラリーサ。お待ちしていたわ。お部屋は気に入ったかしら?」
「はい、わたくしの為に、有難うございます。とても素敵でこちらで過ごすのが楽しみになりました」
「そう、良かったわ。王妃教育は明日から行います。今日は城の中をアイザックに案内させましょう。その前に、あなたの教育係を紹介しておきましょうね」
「お心遣い、感謝いたします」
――なるほど。私の教育係だったのか。
王妃殿下が、一人一人、名前を挙げ、その度に壁際に並んでいた人が礼を返してくれる。
メルディア王国のマナー、王妃の心得、王宮制度に五ヵ国語、詩に音楽、刺繍に祭事、歴史に情勢、外国文化に諸外国のマナーの講師、神聖語学に論理学、数学に古典、法学に哲学、貴族理論に乗馬に……。
――ひぇぇ。
壁際の人たち全員講師だった。
まって、お子様に施す教育レベルじゃなくない?
舐めてた……。
王妃教育舐めてた……。
そりゃ年数掛かるわ。
え、これ何年で覚えるの?
マナーや心得、五ヵ国語くらいは、正直英語も危うかった私的に魂抜けそうだけど覚悟はしてた。
けど論理学とか神聖語学とか法学に哲学?
……なんで私、婚約解消予定なのに、勉強漬け生活送ることになってるんだ?
すごい不毛だ……。
「時間が空いた時は、わたくしとお茶をしましょうね」
にっこりと微笑んだ王妃殿下に、猫を総動員して笑みを作り、「ぜひ」とお答えしておいた。
***
「アウラリーサ、来たか! ビアンカもリティも久しぶりだな。母上に仰せつかった。城の中を案内してやる」
灰になりかけて部屋まで戻ると、数分後、アイザック王子が訪ねてきた。
私に声を掛けているようで、その実視線はビアンカに向いている。
ええ、突っ込みませんとも。
デレてんじゃねーよとか呑気な面しやがってなんて、思っていませんわ。
……やめよ。むなしいだけだわ。うん。
「ご機嫌よう、アイザック王子殿下。本日よりよろしくお願いいたします。王妃殿下に伺いましたわ。是非お願いいたします。リティ。ビアンカ。あなたたちも一緒に来て頂戴」
「「畏まりました、お嬢様」」
***
殿下が最初に案内をしてくれたのは、王宮にある庭園だった。
大分日差しも温かくなって、薔薇が咲き誇っていて、凄く綺麗。
珍しい品種の薔薇もあって、ダリアみたいな薔薇や黒い薔薇や紫色の薔薇もあって、見てるだけで楽しい。
四阿で出してくれたのは、ローズティー。
凄く優雅な気分になれる。
ほわんっとなっていたら、アイザックが不意に立ち上がった。
「叔父上――!」
めっちゃ無邪気に手を振って走って行ってしまった。
視線で追うと、ドレスを着た色っぽい令嬢を二人侍らせたイケメン男性にアイザックが飛びつくのが見える。
腕に絡みついていた令嬢が「きゃー」なんて悲鳴を上げた。
私は慌てて立ち上がり、リティが頭を下げるのに習い、ビアンカも頭を下げる。
イケメンは軽々とアイザックを片手で抱き上げると、にこにこしながら近づいてきた。
「やぁ、君がアウラリーサ嬢? 将来が楽しみな美人さんだねぇ」
「ラザフォード王弟殿下にご挨拶申し上げます。ブランシェル公爵家が長女、アウラリーサ・ブランシェルと申します。お目に掛かれて光栄です」
「アッハ、そんなに畏まらないでよ、アイザックのお嫁さんなら僕にとっても姪みたいなものでしょ? 仲良くしようよ、ね? 可愛いのにさぁ、そんな硬い態度してたら勿体ないじゃーん?」
ラザフォード殿下、私の髪を一房掬い取ると、髪の先に口づける。
うげ。
いや、何すんの。
ロリコンか。
……いや、ロリじゃないな。両隣のおねーさん、見事なボンキュッボンだもの。
この方が王弟ラザフォード殿下か……。
陛下の弟君。見た目は似てるんだけど、同じ兄弟とは思えないほど空気が違う。
なんていうか……。
うん。凄いイケメンだと思う。
オールバックにした見事な金色の髪。深いロイヤルブルーの瞳。
顔のパーツは陛下にかなり似てる。
目じりの皺とかも、ダンディな感じだし、イケオジな感じっていうか、チョイ悪な感じというか。
陛下と随分歳が離れている感じ。
四十代くらいだと思うけれど、見た目は三十代にしか見えないくらい、見た目が若い。
ただ、なんかこう……。
チャラい……。
……うーん。苦手なタイプだなー……。
これはあれだ。
自分がイケメンな自覚があるやつ。
イケメン嫌いなわけじゃないんだけど、「俺って格好いいっしょ?どぉ?どぉ?」って空気が伝わってくる男は苦手。意地でも格好いいと認めたくなくなる。
何故かちゃっかりと腕にぶら下げたおねーさんごと私たちのお茶の席に混ざりこんできた。
国王陛下は真面目で威厳があり、王の風格!な感じなのに、ヘラヘラと笑っておねーさんのほっぺにキスしたり、私と目が合うとウインクしてきたりする。
チャラ……ッ!!
子供の前でアダルティーな雰囲気出さないでくれますか――ッ!!
もう帰れよ。なんで混ざってんのよ。
結局一時間くらい付き合わされて、初日からメンタルがごっそり削られた。
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今日も残業ですっかり遅くなっちゃった…。
明日は力尽きていると思うので、いつもより少し遅い投稿になるかもしれません;




