35.王妃教育が始まります。
それから、数日はとても慌ただしかった。
翌日の朝は予定をずらし、商人を呼び、リティとビアンカに新しい服三着ずつと靴を購入した。
ビアンカはよっぽど嬉しかったみたい。
早速着替えてクロエさんとマークさんに見せに行った。
因みに、クロエさんは厨房に、マークさんは薬草の世話係として働いてくれている。
ビアンカとアイザック王子は、私の提案通り、仲良く文通を始めた。
よっぽどアイザック王子と文通がしたかったらしく、ビアンカはものすごい勢いで文字を覚えた。
アウトプット、やっぱり大事だね。
ビアンカに下働きのオーサという子を紹介すると、今まで以上に頑張った。
リティの話だと、夜遅くまで机に向かっていることが増えたみたい。
覚えた文字やマナーを自分よりも大きなオーサにお姉さんぶった様子で教えていると、可笑しそうに笑いながら教えてくれた。
時々私宛にも、手紙が届いた。殿下も予定を早め、帝王学の勉強を始めたらしい。
ビアンカが頑張って勉強していると聞いて、焦ったらしい。
いい傾向じゃないの。
お馬鹿なお花畑王子が次期国王なんて、臣下としては笑えないもんね。
剣の稽古も始めたと言っていた。
外遊に出ていたラザフォード王弟殿下が戻ってきているらしい。
剣の稽古をつけて貰っているんだそうだ。
異国のお土産の珍しいお菓子を貰ったから分けてやると、綺麗な装飾の施されたお菓子を届けてくれた。
箱一杯に並んだチョコレートは、頬がとろけそうなくらいに美味しかった。
私も最後のおさらいを詰め込んで、あっという間に時間が過ぎていった。
***
そして、王宮に上がる日。
念入りに支度をし、濃紺のドレスに着替え、私はお父様のエスコートで馬車に乗り込む。
ビアンカとリティも同じ馬車へと乗り込んだ。
フレッドは馬で行くらしい。
お母様とお兄様が見送りに出てくれた。使用人達も並んで見送ってくれる。
「アリー、しっかり頑張るのよ」
「気をつけてな。フレッド、頼んだぞ」
「はい、お母様、お兄様、行ってまいります」
窓越しにぱたぱたと手を振っていると、ガタンと馬車が走り出し、私は椅子へ座りなおした。
ビアンカは初めて乗る馬車に緊張気味。
緊張の理由は、お父様にもあるかもしれないけれど。
「アリー、向こうに着いたら、王宮の女官が部屋へ案内をしてくれる。リティとビアンカには、隣室が与えられるはずだよ。リティ。アリーも王宮は不慣れだ。不安も多いだろう。しっかり付いていてやってくれ」
「わかりました、お父様」
「畏まりました、旦那様」
「――ビアンカ」
「は……はい、旦那様!」
お父様に声を掛けられて、ビシっと姿勢を正すビアンカ。
そんな様子にお父様はくすりと笑って、目を細める。
――お父様、目、笑ってないよ。
「いいね。君は侍女見習い扱いだけど、君の言動がアウラリーサの評価に繋がる。くれぐれも騒ぎは起こしてくれるなよ? いい子にできるな?」
「肝に銘じておきます、旦那様。お嬢様にご迷惑の掛かるようなことは致しません」
「宜しい」
ふっとお父様の表情が和らぐ。
前のビアンカなら、癇癪起こしているところだもんね。
短期間で、本当に変わったよ、この子。
外が見たいんだろうに、きちんと背筋を伸ばし、大人しく座っている。
「――ビアンカ、見て。お城よ」
「……わ、ぁ……」
以前の私と同じように、感嘆の声を上げるビアンカ。
その瞳はキラキラと輝いている。
やっぱ凄いよね。お城。
私とビアンカが顔を寄せ合うように窓の外を見ていると、お父様が笑いながら言った。
「アリーとビアンカは仲良しだね。これなら、アリーの良いお友達になれそうだ」
***
王宮に到着すると、お父様とはそこで一旦別れ、女官の案内で後宮へと向かう。
この後宮は妃の為の宮で、私もお父様達が領地にお戻りになられたら、この後宮に住むことになる。
念のために言っておくと、国王陛下に側妃は居ない。
更に言うなら、メルディアの後宮は男性も普通にいた。
男性の客は入れないそうだけど、近衛兵や文官の姿がちらほらと。
なので、フレッドも私について後宮に入る。
「こちらがアウラリーサ様のお部屋にごさいます」
やがて女官はひとつの部屋の前で足を止め、扉を開けた。
白を基調にした可愛らしい部屋だった。
机も家具も、皆白で、所々ワンポイントに上品な淡いスモークブルーが使われている。
「侍女の部屋はその扉の奥、寝室はあちらの扉の奥に御座います。侍女のお二方は、部屋にお残りになり、公女様のお部屋を整えてください。後ほど女官に城の中を案内させます。アウラリーサ様は王妃殿下がお待ちです。お連れするように仰せつかっておりますので、わたくしといらしてください」
「わかりました。リティ、ビアンカ。荷物を片付けておいて頂戴」
「「畏まりました。お嬢様」」
私はフレッドだけを連れ、女官の案内で、王妃殿下の待つ後宮の謁見室へ案内される。
いよいよ、王妃教育だ。
何だか、あっという間だったな。
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