30.きゅんときました。
「なんか……。凄い子でしたね……」
苦笑を浮かべながら、フレッドが言う。
ほんとねー。六歳ならまぁ多少は仕方が無いかと思ったけど、転生者であれ。
前世一体どんな生活をしていたのか。
「ほんとね……。多少覚悟はしていたのよ? でも、まさかお父様をおじさん呼ばわりする子が居ると思わなかったわ」
前に見た格闘技の動画、思い出しちゃった。
試合開始直後にばーっと走って飛び蹴り一発でKO決めちゃった選手。
あれ見た時は思わず笑っちゃったけど、自分が喰らうと笑えないわ――。
出会いがしらに飛び蹴り喰らった気分だよ……。
リティに投げてきちゃったけど、大丈夫かな――。
リティのお給金、お父様にちょっと上げて貰えるようにお願いしとこ……。
気を取り直して、ブランコのある樫の木の所に着くと、私はワンピースのベルトの所に挟んでいた金属板を手に取る。
目標は自由自在にこれを振り回せるようになること。
イメージ通り、使いこなせるようになれば、武器にも盾にもなるんだ。これ。
前世の私は運動全般得意で、見た動きは大体再現できたんだけど、アウラリーサはあんまり運動能力高く無さそう。動体視力も高くないし。才能は無くても、努力で補えるわ。
トップにはなれなくても、人並みかそれ以上は目指せる。
あの子とアイザック王子の為だけに私の人生つぎ込む気はない。
私は私、自分の目標があるんだもの。自分の為に、やれること片っ端からやるわ。
えいっと突き出したり、両手で左右の端を握ったり。上下左右に振ってみたり。手首だけで振ってみたり。フレッドは少し離れ、後ろ手を組んで直立してる。
うーん。折角現役の騎士が傍に居るんだよな――。勿体ないよな――。
「……ねぇ、フレッド?」
「はい、お嬢様」
組んでいた手をきちんと体の脇へ付け、こちらに視線を向けるフレッド。
「良かったら、少し付き合って貰えない? 一人だと勝手がわからないんだもの。私も素振りやるから、フレッドも素振りやって? 見てみたいわ」
「はぁ……。ですが、私は護衛の仕事が」
「大丈夫よ。屋敷の中だもの。それに何かあっても、フレッドが傍に居るんだから、安心でしょう?」
私がそう言うと、フレッドは嬉しそうに笑う。
「畏まりました。それでは、お言葉に甘えます」
私に剣を向けるのは流石にやらないか。
フレッドは体の向きを九十度横に向け、剣に手をかける。
ふっと表情が真剣なものになる。
笑うと少し幼さが残る顔立ちが、途端に精悍な印象になった。
キンっと高い金属音と同時、フォンっと風切音を立て、両手で剣を構える。
背に流したマントがヴァサッと翻り、一歩足を踏み出し、また風切音を立て、垂直に振りぬかれる剣がきらりと光を反射する。
スっと足を引き、剣を横に構え、受けの構え。
うっわ――!! フレッドかっこい――っ!! 凛々しい!!
やっぱ筋肉良いね、筋肉!
あ――。スマホ欲しい――! 写真撮りたい――!
「……お嬢様……」
ガン見してたらフレッドが苦笑して手を止めた。
「ぁ。ハイ」
そーね。私に付き合って貰ってるのに自分がやらずにどうするよ。
フレッドを見ながら、私は金属板をワンピースのベルトに挟む。
きょと、っと首を傾げるフレッド。ふふふっ。
「気にしないで、続けて? 私、フレッドを相手って想定して練習するから」
「はぁ……」
不思議そうな顔をしながら、フレッドはまた前を向いた。私からは、フレッドの横顔が見える。
フレッドが剣を上げる。
私もベルトに挟んだ金属板を握る。
ヒュオッと風切音を立て、フレッドが剣をまっすぐ振り下ろす。
体……。うん。覚えてないな。
すぐに反応出来ない。前はネタでこっそり練習して、結構使いこなせてたのに。
ええと。
縦に来た場合は、横に避けて、外に流す。扇の柄に手を添えて。
私がもたもたしてる間にも、フレッドは軽々と大きな剣を縦横無尽に振るってる。
ううう。想像だと難しいな。
のろのろとあーじゃない、こーじゃないとやってたら、フレッドが苦笑を浮かべ手を止めた。
「お嬢様、これ私が素振りすることで何かお役に立ててますか?」
「そぉね、やっぱりイメージだとわからないわ!」
「はははははっ」
そんなに笑わなくてもいいじゃない。つられて私も笑っちゃう。
「では、どのようにすれば宜しいでしょう? お付き合い致しますよ」
「……。じゃ、お願いしようかな。私を捕まえて欲しいの」
「捕まえる、ですか?」
「うん。腕を掴むでも、手首を掴むでも、殴ってくる、でも良いわ。でも、勝手がわからないから、ゆっくりでね?」
「分かりました」
私が金属板をベルトに差して頷くと、フレッドが、ゆっくりと私の手首を掴む。
――よし。やってみるぞ。
相手の腕の外側に、自分の手を回す。逆の手で金属板を抜く。
親指をフレッドの手首の下へ。
……流石鍛えている人の腕。手首太いなー。親指つりそう。
……で、フレッドの腕の上に金属板を渡して、掴まれた方の手で金属板の逆を握る。で、そのまま、下へ腕を引く。
「えいっ!」
「うわっ!」
フレッドが倒れこむように膝をついた。
「やった、できたっ! わぁい、成功――!」
「いたたたた……。なんですか? 今の」
フレッドが手首をさすりながら体を起こす。
「んー、護身術? …的な?」
前世の私、格闘技大好きで、その流れで動画サイトの格闘家のチャンネル、登録してたんだよね。
その中で、私がめっちゃ興味を持ったネタがあった。
それが、古武術。
これはその一つ。
素早く出来るようになると、何が起こったかわからない間に倒される感じ。
格闘家が古武術の達人に技を教わる、そんなネタだった。
その達人、おじいちゃんだったんだけど、めちゃくちゃカッコ良かったの。
私もやってみたくて、動画で見ながら友達相手に何度も練習したっけ。
「ちゃんとした護身術は、お父様に教えてくれる人お願いしてるけど、それ以外にも、自分で出来る護身術を身につけたいなと思っているの」
「これは本当に精進しないと、俺の方が守られそうです」
――あ。俺って言った。
俺だって。俺だって。
わぁぁ――。なんか、打ち解けたみたいで嬉しい。距離が縮んだみたい。きゅんってくる。
うーん。ビアンカの一人称『あたし』、を聞いたときはガックリ来たけど、フレッドの『俺』は、嬉しく思うのはなんでだろう。
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