26.駄目なやつかもしれません。
「アリー。クロエから手紙が来たよ」
「えっ!?」
アイザック王子の訪問から一週間。
クロエから返事が来た。
随分と掛かった気がするけど、よく考えたら片道四日だもんね。早い方なんじゃないだろうか。
朝食の後、お父様が内ポケットから手紙を出してくれる。
お父様に駆け寄って、手紙を受け取った。
「お父様にもお手紙来てましたか?」
「ああ。私はもう読んだよ」
「それじゃ、私もお部屋で読んできます!」
大分慣れてきたカーテシーをして、部屋に戻る。
ドキドキしながらペーパーナイフで封を切った。
『アウラリーサ・ブランシェル様
お手紙をありがとうございました。
ブランシェル閣下からも公爵家で働かないかと、丁寧なお手紙を頂きました。
思ってもみない幸運に、とても驚き、感謝をしております。
ビアンカも、お嬢様のお話をしたら、大変喜んでおりました。
ビアンカは平民育ちの為、礼儀もなっておりませんが、ご無礼の無いよう、良く言い聞かせておきます。
お誘い、心より感謝申し上げます。
家族ともども、誠心誠意、お仕えしたく存じます。
クロエ』
まるで大人に宛てたような文章だけど、とても綺麗な字で、丁寧に書かれていた。
よかった。
これで無事、アイザック王子にヒロインを会わせてあげられる。
***
後から聞いたんだけど、ビアンカたちは、二日後には屋敷に到着するみたい。
使用人達は、使用人寮の部屋を片付けたり、仕事着を用意したりと少しバタついている。
私もビアンカを迎える準備。
私の服、お古にはなっちゃうけど、ほとんど袖を通してない服ばかりだから、幾つかビアンカに上げよう。どんなのが似合うかなぁ。
リティに手伝ってもらって、クローゼットの中をチェックする。
……つか、六歳児になんでこんなにドレスがあるんだ。
デビュー前でしょうよ。すぐおっきくなるよ?
ほぼ未使用のドレスの中から、ピンクのドレスと水色のドレス、黄色のドレス、オレンジ色のドレスを選んでみる。ワンピースもレースがいっぱいの可愛いやつを三枚ほど。この中から好きなの選んで貰えば良いかな。
子供用の仕事着と普段着は、後でリティが買ってきてくれるらしい。クロエさんと、お父さんのマークさんの分も一緒に。
それから、新しい蝋版をウォルターさんに用意して貰った。
蝋版は勉強道具。これ、実は前に頼んでおいたんだ。
二日間は、あっという間に過ぎて行った。
***
そして、ビアンカ親子が到着する日。
三人が到着したのは、その日の午後。
馬車の音が聞こえたから、急いで部屋を出る。
普通使用人を出迎える、なんてしないんだけど、ビアンカは私がお父様に頼んで探して貰った子だからね。
やっぱり気になるのか、お父様もお母様も、お兄様も階段を下りてきた。
扉を開けてもらって外に出ると、丁度公爵家の馬車から、平民の親子が下りてくるところだった。
薄い茶色の髪の女性。短い黒髪の男性。そして、黒髪に赤いリボンの女の子。
赤いリボン!
小さい時から着けてるのか……。ゲームの中ではトレードマークだったもんね。
「わぁーっ!! おっきな家!! お父さん、お母さん! 今日からここが私の家?!」
……オイ。
……ヤバイ。これは、アカンやつかもしれない……。




