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25.婚約者様がお見えです。

「お待たせして申し訳ございません。ようこそおいで下さいました、アイザック第一王子殿下。アウラリーサ・ブランシェルがご挨拶申し上げます」

「……お前とぼくはこんやくしゃだって言ったのはお前だろ。そういう挨拶はいらない」

「畏まりました。ご機嫌よう、アイザック殿下。本日はどうなさいました?」


 私はアイザック王子の向かいに座る。

 最近リティが気を利かせて、ソファの下に踏み台を置いてくれたから、抱っこで座らずに済んでいる。

 ちなみにアイザック王子の足元にも、しっかり踏み台が置かれていた。

 すぐにリティがお茶を淹れてくれる。


 アイザック王子は私を見た後、リティとフレッドに視線を向け、すぐにまた私の顔を見る。

 ――ああ、はいはい。人払いしろと。


「リティ。フレッド。席を外して頂戴。扉は開けておいていいわ」

「「畏まりました」」


 リティが部屋を出て、フレッドは扉を少し開けた状態で閉じる。隙間からフレッドのマントが見えるから、扉の前にいてくれるみたい。


「――それで? 何かお話があったのでございましょう?」


「この前言ってた話、どうなった?」


「居場所は分かりました。トルメント領ピエナにいるそうです」


「トルメント領?」


「はい。馬車で四日ほどの位置だそうです」


「――四日!?」


 わかるー。私も思ったもん。そんなにかかるのかって。


「どうするんだ? 四日も掛かる場所なんて、父上が許してくれないぞ」


「本当は、こっそり会いに行こうかと思ったんですが、流石に私も無理でした。でも、お父様が、その子のお母様にお手紙を出して下さって、公爵家の使用人として雇っても良いと仰ってくださいました」


「使用人? 公爵家で養子に迎えるんじゃないのか?」


「どんな子なのか、会ったことのない子ですよ? 殿下の運命かも、会ってみないと分からないじゃないですか。だから、とりあえず使用人として、その子の親御さんが良いと言えば、ブランシェル公爵家に迎え入れます。公爵家に仕えることで、行儀見習いにもなりますし、殿下と会わせて差し上げることもできます。私が王妃教育を受けるようになれば、その子も傍で王妃教育がどんなものか、見ることもできるでしょう。その子と殿下がお互いに好きになって、その子が殿下のお嫁さんにふさわしい、次の王妃様にふさわしい教養と知識を身につけたら、その子を養子に迎え、殿下のお嫁さんにしてほしいと、私の方からお父様にお願いして差し上げます。勿論、陛下にも」


「なんか難しいけど……。つまり、大きくなるまで、お前のそばで勉強して、大きくなったらその子をお嫁さんにするように言ってくれるってことだな?」


「左様で御座います。ただし、殿下。殿下も王様になるために、しっかりお勉強をしていただきます」

「え――っ!!」


 オイ。


「当然でございましょう。男の子である王子殿下が、平民の女の子だけに頑張らせて、自分はお勉強をおさぼりになるおつもりですか? ……かっこわるぅ~……」

「!!」


 ぼそっと煽ったら食いついた。


「ちゃ、ちゃんとやるに決まってるだろ!! ぼくは次の王様になるんだぞ!! 勉強くらい、ちゃんとやる!」


「剣のお稽古もで御座いますよ」


「……」

「ぁー……。サボる気なんだ~……カッコわ」

「やるに決まってるだろ!!」


 にふっ。チョロいぜ、お子様王子。


 素直な子なんだよな。アイザック王子。

 今の、無垢なアイザック王子なら、私の言葉は届くかも。

 私なんかが、烏滸がましいとは思うけど、ここもゲームの世界なら、伝えておきたいことがある。


「流石は王子殿下で御座います。……その子なのですが……」


「?何かあるのか?」


「お父様が怪我で働けなくなってしまって、私たちと同じ六歳なのに、お花を売るお仕事をしているそうです」


「……え?」


「私は、()()、公爵家に生まれることが出来ました。とても幸運だと思います。メルディアは、とても良い国だと思います。王都の平民街でも、道は綺麗に整備され、夜は明りが灯るそうです。それを作るのに掛かったお金は、民が税金を払ってくれているからです。でも、その税金の為に、貧しい生活をしている人も多くいます。その子も、そんな平民の一人です」


「……」


 アイザック王子は、まっすぐな瞳で私をじっと見つめてくる。


「そんな陛下だから、私は国王陛下を敬います。でも、もしも、国王陛下が、王だからと、自分のことしか考えず、威張り散らす方だったら、私は絶対、忠誠なんて誓いません」


「……王の為に国があるのではない。国の為に王がある。……父上のお言葉だ」


「とても素敵なお言葉ですね」


「……王族だからえらいんじゃなくて、民のことを考えられる王が偉い。……そういうことだな?」


「はい。王だけでなく、貴族もです。威張っているだけの貴族は、民に嫌われます。でも、民を想い、国を想う貴族は愛されます。だから、民の為、ひいては国の為尽くす方が、偉いのだと私は思います。私は、殿下にはそういう王様になって頂きたいです」


「うん」


「だから、私も、お勉強頑張ります。王妃にならなくても、貴族だから」


「うん。ぼくも、頑張る」


 怒りんぼで、威張りんぼの小生意気な王子様。

 あなたには、良い王様になって欲しい。

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