23.お手紙を書きます。
『拝啓 クロエ様
いきなりお手紙を書く無礼、お許しください。
私はアウラリーサ・ブランシェルと申します。』
「ん――――っ」
早くも行き詰った。
なんて書けば良いのか。
本当は、公爵令嬢だって内緒で会うつもりだったんだよね。
きっと警戒されるから。
いきなり見ず知らずの、それも公爵令嬢から、こんな手紙来たらびびるよね。
だって私、今のビアンカとは接点ゼロだもの。
仲良くなってからなら自然と誘えると思ったけれど、馬車で四日はちょっと行ってくる、とは出来ない。十四まで待つなんて嫌じゃ。乗っかる一択でしょう。
見ず知らずの、会ったこともない貴族の娘からの手紙、か――。
視線を上に上げ、考えを巡らせる。
――細かいことは書かずに押してしまうか。意味分からないだろうけど、仕方がない。
『突然の事で驚かれたかと思います。
先日私は記憶を無くし、その時夢にビアンカさんが出てきました。
私もビアンカさんと同じ六歳です。
ビアンカさんと仲良くなりたくて、お父様にビアンカさんを探して貰いました。
ビアンカさんに会いたいです。
どうか、公爵家へ皆さまでおいでください。
アウラリーサ・ブランシェル』
……お子様のお手紙なら、こんなもんかな?
字、汚いなー。六歳にしては上手だと思うけど、もっと練習しよう。うん。
手紙を封筒に入れて、お父様の所へと戻る。
「お父様、アウラリーサです」
「おはいり」
お父様の執務室に入ると、ウォルターさんが来ていた。
「お父様、お手紙書いてきました。ウォルター、お早う!」
「おはようございます、お嬢様」
お父様に手紙を差し出すと、お父様が封蝋をしてくれる。
「それじゃあ、ウォルター。この手紙を頼むよ」
「畏まりました、旦那様」
ウォルターさんは手紙を受け取ると、私にぺこりと頭を下げ、執務室を出て行った。
扉が閉まると、お父様に向き直る。
「お父様。護身術を教えて下さる方を探して下さるんですよね?」
「うん、そうだね」
「私、カシー兄様みたいに、素振りもやってみたいんです。でも、カシー兄様に剣を持たせて頂いたんだけど、私には重すぎて無理でした。だから、うんと短い、ナイフくらいの武器を使ってみたくて、暗器とかを使える人にお願いしたいです」
父、目を丸くする。
「ちょっと待って、アリー。暗器なんて誰に聞いたの」
「……。夢のお告げです」
「夢」
「お父様、公爵家にそういうのを専門にしている人は居ないんですか?」
「いや、まぁ、居るにはいるんだけどねぇ」
お父様、苦い顔。
まぁ、そりゃ、六歳の愛娘に、そんな公爵家の闇っぽいの、知られたくなかったよねぇ、ごめんなさい。
「アリーは次から次に、面白いことを考えるね」
「お父様、駄目? 悪いことには使いません」
きゅるんっと見上げると、がっくりと項垂れながらOKが出た。
ふふふふふ。父はやっぱりチョロい。
実は、やってみたいことがあるんだ。
それには普通の護身術じゃ無理。
王妃教育が始まる前に、やりたいことの基礎くらいは、全部学んでおかなくちゃ。
うん? いや、素振りくらいは出来るか?
丁度いい重さで、ナイフくらいの長さで、手にフィットする感じの棒があれば。
よし、そうと決まれば探しに行こう。




