20.体幹は大事です。
お父様がテーブルに地図を広げる。
「ここが王都。で、トルメント領は、ここ」
「こんなに早く見つかると思っていませんでした。もう何年も前の話だと聞いていたので。王都からピエナの町まではどのくらいかかるんでしょうか」
「そうだね。馬車で四日ほどかな」
うわぁ……。
地図で見ると近そうなのに、めちゃくちゃ遠い。馬車の速度ってどのくらいだろ。
イメージは馬がぱっぱか走るくらいの速度だよね。自転車くらい?もっと遅いかな。
くそー。電車とか飛行機なら日帰り出来そうな距離なのに。
小説とかだと、あっという間なイメージだけど、現実は甘くない。
頑張って魔道具で転移装置作って欲しい。割と切実に。
「会いに行きたいけれど……。難しいですよね……」
「うーん……。詳しい報告はまだだから、報告を聞いてからかな。ピエナまでの治安によっては、行かせることは出来ないからね」
「そうですよね……」
うーん。一旦報告を貰ってから考えよう。
「ぁ、そうだ。お父様、お願いがあるんです」
「ん?今度は何のお願いかな?」
くすくすとお父様が笑う。忙しいのにごめんね。
「私、護身術を教わりたいんです」
「護身術? 護衛ならフレッドがいるだろう?」
「フレッドはとっても頼りにしてますが、自分の身はある程度自分で守れるようになりたくて」
「ふーむ。良いだろう、分かったよ」
「ありがとうございます!! お父様!!」
ぎゅぅっとお父様に抱き着くと、お父様はデレっと目じりを下げて抱き返してくれた。
***
「はい、背筋を伸ばして。顎が上がっているわ。そう。はい、そこでカーテシー。……うん、大分良くなったわ。それじゃ、今日はここまでにしましょうか」
「ありがとうございました」
うーん……。お母様は褒めてくれるけど、まだまだ駄目だ。ぶれっぶれ。体がフラフラよろけちゃう。
――うん。これは、体幹トレーニング。これ、追加しよう。
「それじゃあ、少し休みましょうか。お茶にしましょう? 終わったら、刺繍でもしましょうね」
「お母様、私、今日はこの後別のことをしてきます!」
「あら、そう? わかったわ。それじゃ、刺繍は明日にしましょうか」
「はい!」
お母様にカーテシーをして、外へと飛び出す。
部屋の外で待っていたフレッドを連れて、廊下をてくてく歩く。
私が考え事をしていると、フレッドは黙っていてくれる。
イケメンな上に筋肉でその上気配りもできる紳士とは、うちの護衛は優秀だ。
ん――。何をしようかな。
楽しくて、でも、体幹が鍛えられること……。よし。
お庭へと出ると、庭師のマシューを探す。マシューは花壇で草むしりをしてた。
「マシュー!」
「おや、お嬢様。今日はどうなさいました?」
マシューは手についた土を払いながら、体を屈めてにこにこと視線を合わせてくれる。
馴染んだね!
「あのね、マシュー。花壇の脇に使っているみたいな、このくらいの大きい石、ある?」
このくらい、っとニ十センチくらいを手で示してみる。
「石、でございますか? 御座いますが……」
こちらです、と案内されたのは、丸太で出来た物置小屋。
扉を開けると、植物の苗や梯子に混ざって、大きな石がいっぱい木箱の中に詰まっていた。
いい感じにデコボコ。
「うん! いいね。この石、貰っても良い?」
「はぁ、よう御座いますよ。何をなさるんで?」
「体幹トレーニング?」
「??」
きょとんと首をかしげるマシューは放っておいて、フレッドを見上げた。
「フレッド、ここの石、そうね、二十個くらい。持っていきたいの。お願いできる?」
「畏まりました」
マシューが出してくれた麻袋に、フレッドがぽいぽい石を入れ、ギュッと口を麻紐で縛って、ひょいっと肩に担ぎ上げた。
やってることはサンタさんっぽいけど、イケメンがやるとスチルにしたいくらい格好いいから不思議だ。
マシューにお礼を言って、お庭とか、景観の邪魔にならない場所を探す。
「うーん。どこならいいかな……」
「ブランコの脇などは如何でしょう?」
「あ、良いね!」
カシー兄様が小さい時に、お父様が作ったという、太い樫の木の枝に太いロープを渡して、板に固定した、手作り感のあるブランコだ。屋敷の片隅にある。
ブランコのところに到着すると、私はスカートの裾をつまんで、ぴょんっと跳ねる。一歩前にはねるごとに、地面を足で蹴って、跡をつける。丁度、猫の足跡の模様みたいに、右、左、右、っと跡が付く。
「フレッド。この印の所に石を置いて? 出来るだけ形が悪い方が上に来るようにね」
「こう、ですか?」
フレッドは言われた通り、石を交互に並べていく。
丁度、ブランコを漕いでも当たらない位置に、半円に並んだ石。
早速試してみる。
「よっ。ほっ。おっとっと」
ぴょん、ぴょん、ぴょんっと石を渡る。ぐらぐら揺れて危なっかしい。
うーん。安定悪いなー。バランス感覚養うには良いのかもしれないけど、足くじきそう。
「ああ。お嬢様。少々お待ちを」
何をしようとしたのか、察したらしい。フレッドは走ってマシューの所へ戻っていく。丁度小屋から戻ってきたマシューと少し話をすると、小さなシャベルを持って戻ってきた。
片膝を突き、置いた石の下をシャベルで掘っていく。
そして、下半分くらいだけ石を埋めると、ぐっぐと手で土を固定していく。
おおぉ――。
「これで如何でしょうか」
全部の石を固定させて、フレッドは膝を叩いて立ち上がった。
あーもぉ、フレッドってばマジでイケメン!!
早速試してみる。
少しぐらつくけど、ひっくり返ることはなさそう。ばっちりじゃん!
「うん! ばっちりだよ、フレッド! ありがとう!」
お礼を言うと、フレッドはふわりと笑って、敬礼をしてくれた。
よーし、これで体幹鍛えるぞ!
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