表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/109

13.そんなことは望みません。

「お嬢様、いらっしゃいますか?」


 午後、夢中になって本を読んでいたら、下の方から声がした。

 私がいるのは、吹き抜けになった書庫の二階部分にあるキャットウォーク。

 声のした方を見下ろすと、執事のウォルターさんがきょろきょろしている。


「ウォルター、こっちだよ」


 おーい、っと手を振ると、ウォルターさんがこちらを見上げた。

 一応ね。お嬢様だからね。使用人は、呼び捨てにする。

 リティは距離が近くて、何となく呼び捨てにしたけれど、品のある年配の紳士に向かって呼び捨ては気持ち的にちょっとだから、脳内ではさん付け。

 そのうち呼び捨ても慣れるだろう。


「そちらにいらしたんですね。旦那様がお呼びで御座いますよ」

「はぁーい、今行きます!」


 よいしょ。腰かけていた梯子の三段目から、ぴょんっと飛び降りる。


「あぁぁ、お嬢様、危ないですよ?」

「大丈夫だよ、低いもの」


 あわあわと手をぱたぱたさせるリティ。心配性なんだから。もう。

 きゅっとリティの手を握り、本を抱えて一緒に階段を下りると、ウォルターさんが近づいてきてくれた。


「お父様、帰っていらしてたのね」

「はい、先ほどお帰りになられました。参りましょう」

「お嬢様、本はどうなさいます?」

「んー。もう少し続きを読みたいから、お部屋に持っていってくれる? 上に積んでおいた本も一緒に」

「畏まりました。本をお預かりしますね?」


 はい、っとリティに持っていた本を預け、ウォルターさんの手を握る。

 ウォルターさんは、細い目をくりっと丸く見開いて、すぐにくしゃりと顔を綻ばせると、手袋越しにきゅっと優しく手を握り返してくれた。

 にこにこと孫を見るような目で笑うウォルターさんに、私もえへへっと笑う。

 思考が段々子供に引っ張られてるのかな? こういうのに抵抗がなくなってきてる。


「いこ、ウォルター」

「はい、お嬢様」


***


「お嬢様をお連れしました」


「通しなさい」


 どうぞ、と促され、部屋の中に入る。

 ソファーにどっかり座ったお父様の向かい側に、ひょろりと細い紳士がいた。




 ――んん? なんかデジャヴ。


「アリー、おいで」

「はい、お父様」


 なんかめっちゃ覚えがあるぞ。このやり取り。


 慌てて立ち上がる紳士。歳はお父様と同じくらい。今にも泣きだしそうなほど、眉を下げて口を戦慄(わなな)かせている。

 視線がこっちを追ってくる。紳士を気にしながら、私はお父様へと歩み寄った。


「アリー。こちらはメイナード子爵だ。ご挨拶を」


 ――うん。なんかそんな気はした。


「ご機嫌よう、メイナード卿。アウラリーサ・ブランシェルと申します」


 ちょん、とカーテシーで挨拶をする。


「お初にお目にかかります、アウラリーサ嬢。ニコルス・メイナードと申します。本日は妻に代わり、公爵令嬢にお詫びを申し上げたく、厚かましくもご訪問させて頂きました」


 紳士――メイナード子爵は胸に手を当て、丁寧に挨拶をくれると、そのまま崩れるように床に膝をつき、蹲るように深々と頭を下げた。


 うぇえぇぇっ!?


「本当に、本当になんとお詫びをすればよいのか……。私の妻が、本当にとんでもないことを……。謝って済むことではないのは重々承知しております。許していただこうなどとは考えておりません。ただ、っ、ただ、どうしても、お詫びを申し上げたく――」

「あああああ、あの、メイナード卿、頭、上げてください!」


 いぎゃ――!! やめて――!!

 慣れないよこういうの! 品の良い紳士が幼児に土下座なんてしないで――!!


「……娘がこう申しております。頭をお上げください」


 おおおおお、お父様、朝はあんなにデレてたのに、怒りがまだ収まってなかったの?!

 声が低いよ! 威圧感凄いよ! こんなにしょぼくれてる子爵をこれ以上追い詰めないであげて――!

 ああもぉ、いたたまれないよ!!


「お父様もそんなに怖いお顔なさっちゃいやです……」


 めそっ。

 目ぇうるうるさせて見上げたら、ふっとお父様の表情が和らいだ。

 ほっ……。


 私はそのままひょいっとお父様に抱えられ、お隣へと下ろされる。

 私がソファに腰かけると、お父様に促されたメイナード子爵ものろのろとソファへと座りなおした。

 脇に控えていた侍女さんが、スッと近づいてきて、私の分もお茶を淹れてくれる。良い匂い。


「……ありがと」


 ちっちゃな声でお礼を言うと、侍女さんはきょとっと目を丸くして、すぐににっこり笑ってくれた。


 とりあえず、お茶頂こう。

 っはー、心臓に悪いよ、びっくりした。ちょっと落ち着こう。うん。


「……慰謝料は、家を売ってでも、一生かかっても、必ずお支払いいたします。爵位は返上することにいたしました。本来であれば、妻が直々に詫びるべきなのですが、今彼女は留置場におりまして……。恐らく不敬罪、侮辱罪、暴行罪に傷害罪、国王陛下への名誉棄損も加えれば、極刑は免れないでしょう。……こんなことで、許されるなどとは思いませんが……。妻には命をもって罪を償わせます。本当に、申し訳ありませんでした……」




 は?





 え、今極刑って言った?



「え、いや……、極刑って、死罪ってこと? ……ですか?」


 私の言葉に、悲し気に俯く子爵と、じっと真顔で私を見つめる父。

 無言の、肯定。




 いや、待って待って待って。


 確かに夫人のしたことは、許されることじゃないと思う。

 ゲームの、以前のアウラリーサなら、当然って思っても仕方がないと思う。

 きっと死ねばいいくらい、思ったこともあっただろう。

 殺したいとさえ、思ったかもしれない。


 だけど、私は、ほんの数日前まで、【朝倉 優梨】っていう別人だった。


 アウラリーサがされたことも、痛みも、怒りも、悔しさも、きっと私にはわからない。

 私が鞭で殴られたのは、たった数時間だけだもの。

 やられた分はやり返したし、クビに出来ただけで、もうすっきりしてる。

 二度と遭わずに済むのなら、それでもう十分だ。


 めちゃくちゃむかついたし、腹もたったし、地獄に落ちろとは思ったけれど、死んでしまえなんて思っていない。


 小説やゲームなら、ざまぁされて死罪になったって書かれても、さらりと流せることだけど、自分のことになると話は別だ。


「お父様、訴えを取り下げることはできませんか?」

「――は……?」

「え、なんだって?」


 驚く子爵とお父様。

 だけど、私の感覚じゃ、自分が関わったことで人が死ぬなんて、震えるほどに、怖いんだよ。

 だって、私が自爆するように誘導した。自分があの人を殺したんだって、嫌でも記憶に焼き付いちゃうよ。

 死ぬまで後悔し続けちゃうよ。

 罪は償ってほしいけど、望んでいたのは、それじゃない!


「死罪なんて、望みません! それなら、厳しいところで、ずっと罪を償って欲しいです。一生かけて、自分のしたことを、悔いて後悔して反省して欲しいです。メイナード卿にもです。ほんとに悪いと思うなら、お金はメイナード夫人に払わせるべきです……! 私をぶったのはメイナード夫人でメイナード卿じゃないもの!」


 段々感情が高ぶって、思わず怒鳴ってしまった。

 なんでか分からないけど、泣けてくる。

 呆気に取られる、お父様とメイナード卿。


 生きてずっと償う方が、つらいかもしれない。残酷なことなのかもしれない。

 それでも、私は、死罪なんて望まない。

 

いいね、ブクマ、評価、有難うございますー! ブクマ200を超えました!

評価を下さった方も、後二人で30人!総合評価も650超えました!


PVが……ふぁッ!?

今日1日で13000超えてる!?

累計後ちょっとで25000……! はわわわわ……! ご訪問有難うございますー!!

めちゃめちゃ嬉しいです!感謝感謝!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ