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109/109

109.この先も、ずっと。

 リティが全力で磨き上げてくれたおかげで、私は普段の三割増しになっていた。

 数カ月前からフレッドが内緒で用意してくれたドレスは、自分で言うのもなんだが、妖艶な美女に私を変身させてくれた。

 光沢のある黒のドレスにシャンパンゴールドの細やかな刺繍。

 動く度に光沢のある生地と刺繍に縫い付けられた多色性の高い透き通ったブラウンの宝石が煌めく。


 ハーフアップに纏めた髪はゆるく巻き、髪飾りは大振りの黒い薔薇と紫の薔薇。

 デコルテを大きく開けた首元には、黒いレースのチョーカーにアメジスト。


 耳飾りはあえてフレッドとお揃いの、市井で買った小さなピアスで彩って。


 フレッドのエスコートで入場した卒業式の会場は、知らない場所みたいに、煌びやかに飾られて、楽団が心地の良い音楽を奏でている。


「アリー、卒業おめでとう」

「ヴォニー、あなたも。素敵なドレスね。殿下の執着が凄いわ」


 アイスグレーのドレスに銀糸で刺繍を施したAラインのドレスは、スレンダーなヴォニーによく似合う。


「フローラは?」

「ヴァルターの自慢に付き合わされているわ」


 あそこよ、と扇越しにこそっと指を指した先には、騎士科の人たちだろう。

 ひと際鍛え抜かれた一団の中に、ちょんっと止まったピンク色の蝶みたい。


 ふわふわの淡いベビーピンクのドレスだけれど、派手過ぎず、儚げな妖精のようで、可愛らしいフローラによく似合う。


 ビアンカは、会場にはまだいないみたい。

 アイザック殿下が挨拶をするそうだから、多分一番最後だろう。


 音楽が変わる。

 開会の合図だ。

 この世界の卒業式は、日本のそれと大分違っていて、音楽に合わせ、パートナーと手を取り合い、列を作っていく。クラス順とかでもなく、音楽に合わせ、流れるように並んでいく。

 少しだけ離れてヴァイゼ殿下と話をしていたフレッドが、私に近づき、一礼しながら手を差し出す。

 私が手を取ると、フレッドは指先に口付けて、エスコートをしてくれる。

 ヴェロニカもヴァイゼ殿下のエスコートで、列に並んでいく。


 因みにパートナーがいない場合、教師がパートナーを務めるから、あぶれるなんてことはない。


 ホールの中央に並んでいく卒業生を、家族が壁際で見守っている。

 音楽がフェイドアウトした。


 後方の扉が開き、アイザック殿下がビアンカをエスコートして入場する。

 純白のドレスに、アイザック殿下の瞳のロイヤルブルーのサファイアをあしらったティアラを身に着けたビアンカは、本当にきれいだった。優雅で、気品があり、誰もが認める淑女だ。


 アイザック殿下とビアンカが、壇の前で足を止める。

 ファンファーレが鳴り響き、国王陛下が壇上にお出ましになる。


「メルディア学園卒業、おめでとう。卒業を迎え、諸君らは我がメルディアを支える貴族の一員となった――」


 貴族としての心構えを朗々と語り、国王陛下からの祝辞が終わると、一人一人名を呼ばれ、制服のリボンタイを留めていたピンブローチを陛下へと返す。

 卒業証書ではなく、ブローチを返すことで、守られていた子供から、大人としての自立をする、という意味合いなのだそう。


 そして、最後にアイザック殿下の立太子と、ヴァイゼ殿下とヴェロニカの婚姻が行われることが発表され、国王陛下から祝福を受けた。


 当然ながら、ここで断罪劇は始まらない。

 

 並んだまま、パートナーとフォークダンスのようなダンスが行われ、盛大な拍手を頂いてから、パートナーにエスコートされ、それぞれ自由に楽しむことになる。


 ビアンカとアイザック殿下も、中央で踊り始める。

 幸せそうな、二人の姿。

 祝福された、二人の姿。

 約束の、ハッピーエンドだ。


 ふっとフレッドが笑みを浮かべると、私の前に膝を突き、恭しく手を差し伸べた。


「愛しの私のお嬢様。あなたと踊る栄誉を与えて下さいますか?」


「アリーと呼ぶなら考えて差し上げても宜しくてよ。もうじき旦那様になる、フレッド・シュヴァリエ伯爵様?」


「では、麗しのアリー。お手を」


「喜んで」


 いつの間にか、私の背も、大分伸びた。

 もう、大人と子供には、見えないだろう。

 音楽に乗って踊りだす。


「ここにたどり着くまで、長かったです」

「うん、長かったわね」


 とっとと婚約者差し上げて、自由になろうと思ったけれど。

 結局、エンディングまで、来ちゃったね。


 紆余曲折、何度も遠回りをしたり。

 失敗だって何度もして。何度も何度も迷走して。


「色々ありましたね」

「うん、そうね。色々あったわ」

「ちゃんと待ったので、褒めて下さい」


 フレッドが、ちょんっと頭を下げる。

 私は笑いながら、肩に添えた手を解いて、よしよしと頭を撫でてあげる。


「――ああ、でも……」


 もう、子供じゃないわ。

 私はフレッドの胸倉を掴んで引き寄せる。


「わっ?!」


 驚いたフレッドの唇に、自分の唇を重ねた。

 わぁ、っと歓声が上がる。


 真っ赤になったフレッドの顔。

 ああ、もう、大好き。




 物語は、終わらない。

 ここから、続いていくの。

 きっとまた、イノシシみたいに突っ走って、迷走しまくって迷子になったり、するんだろうけど。

 いつだって、フレッドは私の後ろをついてきてくれる。


 ずっと、一緒にいてね。

 これからも、ずっと一緒に、紡いでいこうね。



 この先もずっと、この世界(メルディア)で――





 ~Fin.~



遅くなりましたぁ――!!


とってもたくさんの方に読んで頂けて、

とってもたくさんの方がいいねをくれて、

とってもたくさんの方がブクマをつけて下さって、

とってもたくさんの方が評価をして下さって。

とってもたくさんの方が誤字報告をして下さって。(誤字多すぎて申し訳…tt)


アウラリーサと一緒に、作者も迷走したり、脱線したり、上手く言葉が出て来なかったり、設定を忘れて何度もやらかしたり、家庭の事情で間が空いたり、ほんと色々ありました。


長くなったこのお話も、ひとまずこれで完結です!


お付き合い、有難うございました!!


また、次のお話で、お会い出来たら幸いです!

感謝感謝!!



2022/5/18 鈴森 ねこ

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