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106/109

106.物語はリセットされる

 話を聞き終え、ほぅ、っと息をついた。

 ヴァイゼ殿下には、大事なことを言わなくちゃ。


 私がソファーから立ち上がると、皆きょとんとした顔で私を見上げた。


 私は手を前でそろえ、深々と頭を下げる。


「ヴァイゼ殿下。わたくしは、ヴァイゼ殿下のことも、疑っておりました。誠に申し訳御座いませんでした。アイザック殿下。国の信頼を損なうような真似を致しましたこと、心よりお詫び申し上げます。どのようなお咎めも辞さない覚悟です。」


 私の言葉に、はっとしたようにフローラが立ち上がり、同じように深く頭を下げる。私の後ろでフレッドも頭を下げているみたい。


「ふ……っ。くふふ、あはははははははっ! アウラリーサ嬢、君は正直だね。頭を上げてかけたまえ」


 楽しそうなヴァイゼ殿下の笑い声に、おずおずと顔を上げる。

 ヴァイゼ殿下は楽しそうに、膝に肘を当て、頬杖を突いた。


「相手がだれであろうと、真実を見極めようとするのは、良い心がけだと思うよ。それに、過ちを認めすぐに謝罪をするのも好感が持てる。謝罪は受け入れよう。……アウラリーサ嬢」


「――はい」


 名を呼ばれ、しっかりと顔を上げる。

 ふっとヴァイゼ殿下が、少年らしい、人懐っこい笑みを浮かべた。


「実は私は、ブロッコリーが食べられないんだ」


 ――はい?


「――はい?」


「そして犬よりも猫派だ」


 猫派。


「……はぁ……」


「それから、私は絵心が壊滅的だ。以前犬を描いたら、上手なトカゲですねと言われたことがある」


「っ……そ……そう、なんですね……」


 危うく吹き出しかけた。


「因みに、ヴォニーとは政略での婚約ではなく、私の一目ぼれだ」

「殿下ッ!」


 にこにこと宣うヴァイゼ殿下に、ヴォニーが真っ赤になって声を上げる。

 あらぁ~~…っ。


「――知らなかっただろう?」


「あ、はい。存じ上げませんでした」


 私は何を聞かされているのか。


「私は、地位や立場だけで信じるというのは、無責任な事だと思う。相手がだれであれ、知らない部分は必ずある。だが、知らないからこそ、相手を知り、相手に知ってもらう。そうして築くのが信頼だと、私は思う。つまり、私たちはこれからだ。我がシュトルクと、メルディアも、ここから信頼関係を、築いていきたいと願っている」


 ――ああ……。

 ふわりと胸が温かくなった。

 きっと、メルディアもシュトルクも、未来は明るい。


「うん。私もだよ。ヴァイゼ王子」


 にっこりと、笑みを浮かべ、握手を交わす未来の王を、私達は、誇らしい気持ちで見つめていた。


***


 あれから数日。

 ユーヴィン達の事情聴取が行われ、ユーヴィンは全ての罪を認めたらしい。

 アメリアは絞首刑。ラヴィニアは廃嫡の上、犯罪奴隷として鉱山送りが決まった。

 メイナード夫人と同じ鉱山へと送られるらしい。

 パルエッタ伯爵夫妻は、爵位を返上し、市井に降りた。


 因みにこの国では、奴隷と言っても、労働者として重要視はされる。だから、ちゃんとした集落で、小さな小屋だけれど家もあり、重労働ではあるが、休憩時間も与えられる。結婚もできれば子供も作れる。望めば子供は孤児院へと送られて、平民として生きていける。月に一度、医者も来てくれる。ただ、お金の支給は無く、食事は一日二回、質素だけれど、食事も配給される。めちゃくちゃ高い塀に囲まれていて、脱走は不可能……らしい。

 イメージ的には、終身刑、なんだろうか。イグナーツの話では、月に一度、手紙のやり取りが許されているそう。


 そして、ユーヴィンは。アメリアと同じ、絞首刑が決まった。

 許せないけれど、ぎゅっと心臓が掴まれたように苦しくなる。


 アイザックから、最後に会うかと問われて、頷いた。

 ビアンカは、会わないそうだ。会っても、会わなくても、きっとずっともやもやとした気分を引きずってしまいそうだから、と。


 私は、まだ聞きたいことがある。


 ユーヴィンは、廃嫡となり、平民として地下牢に入れられたらしい。

 フレッドに付き添われ、迎えに来た騎士に監獄へと案内して貰う。


 戦時中は捕虜などを捕らえる為、かなり広い建物だ。今はほとんど使われていないらしい。重々しい鉄格子の扉を開け、じめじめとした薄暗い階段を降りていく。

 所々にぽつぽつと灯るろうそくの明かりがめちゃくちゃ不気味で怖い。


 フレッドに手を繋いで貰い、ガクブルで降りた階段の先、蠟燭の明りが揺れる牢があった。


「ユーヴィン死刑囚。面会だ」


 冷たい声で告げる騎士の声に、木枠のついた簡素なベッドに寄りかかって、天井を見上げていたユーヴィンがこちらを見た。

 服は灰色のチュニックにウエストの所を麻紐のようなもので縛っただけの簡素なものになっていた。


 ――え?


 こっちを見たユーヴィンの顔に、ぞっとする。


 笑っていた。

 恍惚の表情で、頬を赤らめ、笑っている。

 時折、こらえきれないと言うように、くすくすと笑い声を漏らす。


「やぁやぁ、ご機嫌よう、アウラリーサ・ブランシェル公爵令嬢。会いに来て下さったんですか? 嬉しいなぁ」


 にこにこと笑いながら立ち上がると、くすくすくすくす、楽しそうに笑い声を漏らす。

 お道化るように礼をして、ご機嫌な様子の、弾んだ声。

 そうしてまた、ふふふふふっと可笑しそうに笑う。


 何これ……。

 思わず案内してくれた騎士を仰ぐと、騎士は苦虫を噛み潰したような顔で、肩を竦めた。

 ずっとこんな調子ってこと?

 怖いんだけど。


「……ユーヴィン・ストムバート……いえ。ユーヴィン。あなたに聞きたいことがあります」


「はいはい、なんでしょう?」


「……何故……。ビアンカを殺そうとしたの」


「ああ。リセットをしようと思って」


「――は?」


「貴女がビアンカ・ネーヴェを狂わせてしまったでしょう? メルディアの白雪姫とは似ても似つかない話になっちゃったし。ビアンカはちっともビアンカらしくないし、それでもまぁ少しずつ調教すればいいかと思ったのに、反抗するし……。だから、リセットしようと思ったんです。ヒロインが死んだらバッドエンドでお話が終わるじゃないですか。主人公ですから」


 何でもない事のように、口にする。

 彼の中では、ここはゲームの中なのかもしれない。

 人を一人殺すことを、リセット、だなんて……。


「でも、失敗しちゃった。アメリアも駄目だね。ちっとも使えない。やっぱりモブはモブだった。本編に出てこないキャラだからね。仕方がない。ラヴィニアもさ。最後の最後で怖気づくなんて。大人しく言うことを聞いていれば、可愛がってあげたのに」


 コケティッシュに肩を竦めて見せるユーヴィン。

 こんな場所で、こんな状況で、こんなセリフを吐く彼は、やっぱり狂っているんだろうか。


「――だけど、だけどねぇ、僕、気づいちゃったんだぁ。もう、笑っちゃったよ。こんなことを見落としてたなんて、ねぇ?」


 少しずつ、ユーヴィンの笑みが変化する。

 にこにことした無邪気な笑みから、少しずつ、口角が上がり、顎を上げ、見下すような、勝ち誇ったような笑みに。

 ゆらり、と揺れるように、近づいてくる。




 ――何……?


 思わず、一歩後ずさる。ぐっとフレッドが私の肩を抱く。

 ぎゅっとフレッドのシャツを握りしめた。

 ヒヒヒヒヒっと、耳障りな声で、ユーヴィンが嗤う。

 感情を押し込めるように、興奮するように、上ずった声で。

 ユーヴィンは、ふらり、ふらりと近づいてくると、ガシャンっと音を立て、鉄格子を掴んだ。



「ふふふふふっ……。君は勝ったつもりだろうけど、違うね! 君の負けだ、アウラリーサ・ブランシェル! 勝ったのは僕だ! 大逆転さ! もうすぐ、この物語はリセットされる!」

いつもご拝読・いいね・ブクマ、有難うございます!!

ちょっと遅くなりました;

次は~~…。睡魔に勝てるか微妙なので、無事起きれたら朝8時くらい、撃沈してたら夜9時くらいに更新予定です><;

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