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103/109

103.鬱陶しくてうんざりだ。

 ワァっと鬨の声が上がる。


 勢いに押され、オロっと後退する敵を、あっという間に騎士達が追い詰めていく。

 剣の打ち合う甲高い金属音が響き渡る。

 突然の騒ぎに、通りに面した屋敷の窓に次々と明かりが灯り、野次馬が窓から覗く。


 敵は、ただの破落戸ではなさそうだ。

 そこそこに腕が立つ手練れもいるようで、王宮の騎士が苦戦している。

 敵の数は二十人ほど。対して騎士の数はその半分。


 援軍の登場に浮足立っていた敵は、落ち着きを取り戻した途端、状況が均衡した。

 加勢をしたいところだけれど、私の役目はパルエッタ伯爵夫妻とラヴィニアの護衛だ。

 ぐっと馬車の屋根を掴む手に力が入る。


 フレッドと剣を交わしていた男の脇をすり抜けるようにして、敵の一人が突破してきた。

 馬車の奥では、パルエッタ伯爵が、ぎゅっと夫人とラヴィニアを抱きしめて縮こまって震えている。

 言われた通り、大人しくしている。ありがたい。


 馬車の屋根の所を掴んだまま、グンっと後ろに身体を引き、勢いをつけ、がむしゃらに突っ込んできた敵の剣に、身を乗り出す様にして扇を当てる。

 剣と扇が擦れあい、火花が散る。

 受けはしない。軌道を少し、逸らすだけ。

 軌道の逸れた剣は、ガンっと馬車の側面へと当たり、引っ掛かった形になる。


「なッ!?」


 ぐらっと体が泳ぎ、倒れこむように迫ってくる敵の喉を、扇の先で突く!


「やッ!!」

「がはっ!」


 ボロっと剣を落として、喉を押さえ、体をくの字に倒す男の顎を蹴り上げる!


「はッ!」

「ぐぁッ!!」


 一瞬上体が浮き上がり、ズシャァっと男が派手に地面へ転がった。


 直ぐ傍では、剣を弾き、敵の後ろに回りこんだフレッドが、剣の石突で延髄を強打する。

 ぐるんっと白目を剥いた敵は、私が蹴り飛ばした男の上に重なるように転がった。


 上から見ていた野次馬から、おー、っと声が上がり、パチパチと拍手が降りてくる。

 見世物じゃねんだよ。呑気なものだ。


 あちらこちらでうめき声が上がり、一人、二人と敵が地面へと転がっていき、残った敵に焦りが見え始める。

 残った敵は、顔を歪め、じりじりと後退し、チっと舌打ちをすると一目散に逃げだした。


「逃がすな! 追え!」

「はッ!」


 騎士団長の指示に反応した騎士が後を追う。


 勝負あったと思った時、周囲の空気がざわついた。


 ――馬を駆る音。それも複数。

 一瞬味方かと思ったが、先頭で馬を駆る人物の輪郭が月明りに浮かび上がったところで、そうではないことに気が付いた。

 フレッドも剣を構えなおす。


 馬の躍動に合わせ、弾む長い髪。揺れるリボン。

 引きつれているのは、数名の隣国の兵士だ。


 ユーヴィン・ストムバート……。


 向こうも、こちらに気づいたらしい。速度を落とし、ゆっくりと近づいてくる。


「……アウラリーサ・ブランシェル……? 何故、貴女が此処に……? それに、これは一体……」


 ごく、と喉が鳴った。

 何故、はこちらのセリフだ。自分から動いたことなんてなかったくせに。

 何故、このタイミングで?

 何故、シュトルクの兵を連れているの?


 黒幕は、やっぱりヴァイゼ殿下だった?


 ――『違います!』――


 一瞬、脳裏にヴェロニカの声がよみがえった。

 ふるっと頭を振って、ユーヴィンへと視線を向ける。


「それはこちらのセリフですわ。ユーヴィン・ストムバート。何故あなたがここに? 何故、シュトルクの兵を連れていらっしゃるのかしら」


 一瞬、顔を歪めたユーヴィンは、すぐにいつもの作ったような微笑みを浮かべた。

 邪気の無さそうな、優しい笑み。それが作り物なのは知っている。


「婚約者の乗った馬車がならず者に襲われていると聞いたので。婚約者を助けに来るのがそんなに可笑しなことですか?」


 トン、とユーヴィンが馬から降りて、馬を引いて近づいてきた。


 私は馬車の扉の両脇に手をついて、通せんぼのスタイルを取る。

 ユーヴィンは私が見えていないかのように、馬車の中へと優しく声を掛けた。


「ラヴィ。怖かったでしょう? 助けに来ましたよ」


 ラヴィニアは、ユーヴィンの言葉に肩を揺らし、イヤイヤと首を振って、パルエッタ伯爵に抱き着いた。

 途端に、ユーヴィンの顔から表情が抜け落ちる。


 ぞっとするほど、冷たい表情。

 それから、ゆっくり口の端を上げた。目だけが、冷え切った、凍り付くような表情で。

 つまらなそうな、壊れたおもちゃを見るような目。

 ビアンカに拒まれたプレゼントを、その場に放り投げて踏みつけ微笑んだ、あの時にみた、あの冷えた目。


「ラヴィニア。僕の言うことが聞けないの?」

「……っ」


 優しい声音で呼びかけるユーヴィン。

 それでもラヴィニアはぶんぶんと首を振る。

 パルエッタ伯爵が、ラヴィニアをしっかり抱きしめて、ギリギリとユーヴィンを睨みつける。


「婚約者にこんな態度取られたら、凄く、すごーく傷つくんだけど? もう、婚約解消しちゃおっかなー」


 それでもラヴィニアは、ぎゅうっとパルエッタ伯爵にしがみついて、動こうとはしなかった。

 私は、ほっと息をつく。


 不意にユーヴィンの声音が変わる。作るのをやめた、抑揚の無い、つまらなそうな声。


「あっそ。じゃ、もういいや。……ほんっと、君は邪魔だよ。なんなの、ほんと。邪魔ばっかり。鬱陶しくてうんざりだ。アウラリーサ・ブランシェル。もう、消えてよ」

いつもご拝読・いいね・ブクマ、有難うございます!!

睡魔に負けてちょっと遅くなりました…;;

次は夜、9時くらいかな? 投稿予定です!

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