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100.容易に想像できました。

「な……はっ!?」


「壊れた扉はブランシェル家のアウラリーサ名義で請求して下さいませ。フレッド」

「はっ」


 私が足首ぐるぐる回したりと体を解すと、フレッドが笑いを堪えながら片足をプラプラとさせた。

 家令はわたわたと扉と伯爵のいる部屋の方へと視線を行ったり来たりさせている。


 一歩、二歩、扉から距離を取り、せぇの、で扉に踏み込み、フレッドと一緒に思いっきり蹴り飛ばした。


 ドォンッ!!

「っきゃ――っ!」


 蹴り飛ばすと同時に中から悲鳴が上がった。

 本気なのが伝わったかしら?


「やっぱり一度では無理ね。開くまでやるわよ」


「御意」


 にこにことフレッドと話していると、家令が真っ青になって止めてきた。


「ぶ、ぶぶぶぶぶブランシェル公爵令嬢!! おおおおおやめください!!」


「あら。開けてくれたらこんなことは致しませんわ?」


 仕方が無いでしょう?と頬に手を当て、にっこりと微笑んだ。


「立ちはだかっても構いませんが、その時はあなたごと蹴り飛ばすことになるけれど……。宜しくて?」


 めちゃくちゃ痛いと思うわよ?と可愛らしく首を傾げて見せる。

 家令はぷるぷるぷると首を振った。


「行くわよ」

「はっ」


 ドォンッ!!


「きゃ――っ! いやっ、何をしてるの!? やめて! ドアが壊れてしまうわ!」


 ドォンッ!!


「ちょっと! やめてっ! やめてってばっ!!」


 ドォンッ!!


「わかった!! 分かったわ、開ける! 開けるからやめてっ!!」


「あら。そうですか? フレッド。止めて」


「は」


 分かれば宜しい。

 最初から大人しく開けてくれりゃいいのよ。

 往生際が悪いんだから。

 家令は涙目で震えている。

 伯爵夫妻も騒ぎを聞きつけ、騎士を伴いやってきたが、あわあわとするばかりで動けなくなっていた。

 騎士達は口を押さえて笑っちゃっているけれど。


 少し待つと、カチャリ、とドアが少し開いた。

 青い顔で、ビクビクと震え、上目遣いでこちらに視線を向ける少女。

 ラヴィニア・パルエッタだ。


「ご機嫌よう。ラヴィニア様。わたくし、アウラリーサ・ブランシェルと申します。こちらはわたくしの従者でフレッド。お部屋に殿方を入れるのは気が引けますので、一緒にいらして下さいます?」


***


 逃げ場がないと悟ったのか、しゅん、と項垂れたまま、ラヴィニアは大人しく私達に従った。

 家令の案内で応接室へと戻り、ラヴィニア、パルエッタ夫妻と向かい合って座る。


「ビアンカを落とす様にアメリアに命じたのは、あなたですか?」


「ち……違い、ます……」


「嘘ですわね」


「……っ」


 ラヴィニアがひゅっと息を呑む。


「ラヴィニア……?」

「お前、まさか……。嘘だろう……?」


 さぁ、っと青ざめるパルエッタ夫妻。


「あなた、先ほど自分から罪を認めたではありませんか。わたくしは一言もあなたに、アメリアに命じた、とは申し上げておりませんよ? なのに、あなたはアメリアが勝手にやったと仰いました。ビアンカが落ちた時、あなたは学園にいらっしゃらなかった」


 ラヴィニアは、真っ青になり、ガチガチと歯が鳴るほどに震えている。

 パルエッタ夫妻は本当に何も知らなかったらしい。唖然とラヴィニアを見つめていた。


「ラヴィニア様。正直にお話し頂ければ、あなたを王宮で保護してくださいます。今のまま隠していては、あなたは命を狙われますよ」


 ビクっとラヴィニアの肩が揺れる。


「……もう一度問いますよ。ビアンカを階段から落とす様にアメリアに命じたのは、あなたですか?」


 ややあって、ラヴィニアは、視線を下に落としたまま、こくり、と頷いた。


「何故、そのようなことを?」


「邪魔、だったんです……。邪魔だったんです! ユーヴィン様は、ビアンカ様に振られてしまったからわたくしと婚約して下さると仰ったんです! なのに、ビアンカ様が生きている限り、わたくしを愛しては下さらないって! ビアンカ様がいなくなれば、わたくしを愛して下さると仰ったんです!」


 ――は? なんだそれ。


「ラヴィニア!? お前……なんて馬鹿なことを!!」

「お父様、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」


 夫人は真っ青になって倒れ掛かり、家令に支えられ、パルエッタ伯爵は立ち上がってラヴィニアの胸倉をつかんでいた。


「――静かにして頂けます?」


 腸は煮えくり返っているが、まだだ。


 私の声に、パルエッタ伯爵は渋々ラヴィニアから手を放してソファへ座り直し、ラヴィニアはべそべそと泣いている。


「あなたはアメリアに、『あの方』に命じられたと仰ったそうですね。誰に、どのように言われ、何故あの日あの時あの場所を選んだのか。話して頂けますね?」


 ラヴィニアは、べそべそと泣きながら、話しだした。


「一昨日の夜、ユーヴィン様が訪ねていらしたんです。後二日ほどで、西の温室の珍しい花が咲くって。その花の前で告白をすれば、想いが叶うと伝えられているんだって。誘いに来てくださったのかと思ったのに……。ユーヴィン様は、ビアンカ様に告白をすると仰って……」


 ラヴィニアは、わっと顔を覆って泣き出した。

 ……なんというゲス発言……。ラヴィニアもなんであんな奴好きなのか。

 ……顔か?


 ユーヴィンは、きっと断られるだろうと言ったらしい。振られたらアイザック殿下を誘うように言うつもりだと。振られても、一番好きなのはビアンカだから、ラヴィニアを愛することができない。ビアンカがいなくなれば、ラヴィニアだけを愛せるのにと。


 ユーヴィンの愛に焦がれていたラヴィニアは、ユーヴィンに尋ねたらしい。

 もしも、ビアンカが、例えば、死んでしまったとしたら、ラヴィニアを愛してくれるのかと。

 ユーヴィンは笑いながら、もしもそうなったら、ビアンカのことはすっぱりと諦められるから、ラヴィニアだけを愛することができる、そう答えたと。


 殺すのは無理でも、傷物になれば、ユーヴィンもあきらめがつくんじゃないか。そう思って、ビアンカを階段から落とすことにしたらしい。自分でやる勇気は無かったから、アメリアに命じたが、だんだん不安になってしまったこと。

 怖くて自分ではその場にいられないが、誰かが気づいて止めてくれるかもと、昨日帰り際に、クラスメイトに西の温室の話をしたのだそうだ。


 ――なんて、身勝手な……。

 くらくらする額を押さえ、深呼吸をする。


「『あの方』に命じられたのではなかったの?」


「だって……だって、怖かったんです! それに、ユーヴィン様はいつも『あの方』の命令でアメリアに何かを命じていました! 『とても恐ろしい方で、逆らったら私も君もどうなるかわからない』って、いつもそうおっしゃって! だから……っ」


 つまり便乗してそいつの命令だと捏造したと。


「あの方というのは?!」


「ひっ……。わ、分かりませんっ。ユーヴィン様は『ある高貴な方のご命令で動いている』としか……。でも……。ヴぁ、ヴァイゼ、殿下の、ことかなと……思って、いました」


 やっぱそうなるか。


「――何故、西階段から突き落とそうと思ったの?」


「それは……。ユーヴィン様が、告白をするなら、西階段でするつもりだって……。あそこは使う人が少なくて、人の目につかないから、って言っていたから……」


 ユーヴィンの掌で、くるくる踊るラヴィニアの姿が、容易に想像出来てしまった。

いつもご拝読・いいね・ブクマ、有難うございます!!

んーー。もう一本いけるかな……?

夜、10時くらい、もう一本、上げますか。

頑張ります!

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