1.テンプレ通りに転生しました。
けたたましいブレーキ音。
スローモーションのように迫ってくるトラックのライトと引きつった顔のドライバーから目が離せないまま、朝倉 優梨、十八歳。その短い生涯に幕を閉じた。
――そして、今。
目が覚めると、いつもの癖でスマホを探して布団に潜り込んだまま手が彷徨い、見当たらずに体を起こし、見慣れないふっかふかのゴージャスなベッドにぎょっとして、周りを見渡して固まった。
空想でしか見たことのなかった天蓋付きのキングサイズのベッド。
六畳だった自分の部屋の軽く四倍くらいありそうな、やたら広い部屋には、ブリッブリの可愛らしい姫系――ゴシック調?の、めっちゃ高そうな家具。
どこここ。
思考回路が停止した。
寝ぼけてるのかと目を擦った。
ほっぺたもぺちぺち叩いてみた。思い切って、両手でばちんっと叩いてもみた。
でも、サラサラの手触りの良いシーツも、部屋の景色も消えない。
意識はしっかり覚醒している。流石にこれが夢ってことはないだろう。
そうして、思い出す。突っ込んできた大型トラック。けたたましいクラクション、体の前面に受けた衝撃、跳ね飛ばされて宙を舞う、あの感覚。
事故。目覚めると豪華な部屋。異世界転生。乙女ゲーム。悪役令嬢。婚約破棄に、ざまぁ展開。
ぽんぽんぽんっと連想ゲームのように浮かぶ単語。
いや。
いやいやいや、小説じゃないんだから。事故で死んで異世界転生? 脳みそお花畑かな? ありえないでしょ。
なのに。これはどう見ても現実だ。夢なら何となくでもわかるもの。
心臓がバクバクする。ありえない、という思いと、王道テンプレな展開ならと、冷静に考える自分がいる。
現実逃避してもどうにもならないというのなら、そうだと割り切った方がいい。
テンプレ通りの異世界転生と仮定しよう。
だれだ? なんのゲーム? いや、小説か?
最近やったお気に入りのゲームと小説とコミックが、しゅばばばばーっと頭の中を巡る。
ぐるぐる思い出しながら、まずは自分の体を確認する。
白く小さな手。短く細い指。小さな体。よし、断罪前パターンではなさそうだ。お子様に転生。
部屋の様子からすると、明らかにお嬢様。多分貴族のご令嬢。
手入れの行き届いた部屋の様子からすると、虐げられてる系では無さそう。
となれば、やっぱりなんぞの悪役令嬢、ざまぁ系かな。
ぐるっと見渡して、ドレッサーを発見。はだしのまま、鏡の所へ走る。
ぱっちりとした鮮やかな紫色の瞳。くるくると縦に緩やかにカールした、つやつやのプラチナブロンド。北欧系?透き通るように白い肌。薄紅色のほっぺ。ぷっくりと愛らしい唇。幼稚園か小学校一、二年くらいの、天使のような美少女だった。
――ぅおおおお! なんだこの子! めっちゃかわいい!! …って、だれだこれ。
……。
わかるか――い! 情報量少ないよ! ネグリジェ姿じゃ服から判断も無理じゃん!? 世の転生令嬢ズはなんで鏡見ただけで『あのキャラ!』って分かんのよ?!
……っは。
そうだ。
王道テンプレなら、ここで侍女とかが来て、お嬢様、なんつって、最初の情報が得られたりする。
外はうっすらと白み始めている。まだ早朝っぽい。
お子様相手にそんなに朝早くからたたき起こしはしないだろう。
侍女が来ない場合は、別の手を考えないといけないが、テンプレ通りであることを祈りつつ、侍女がやってくるのを、うろうろそわそわと待つこと、数時間。
――コンコンコン。
控えめなノックの音が聞こえた。
来た――――! 侍女だ! これで何のキャラかわかるはず! わかるかも。 わかるといいな――……。