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王女様とデート?

 翌朝、日の出前に目覚めた桃馬は薪割りでもしようと部屋を出た。


「夕べはよく眠れたか?」


 部屋の前でユフラが英国紳士が乗馬するような出で立ちで桃馬を待ち構えていた。


「王女様、いいんですか? 僕の部屋なんか来て、ヒレンエさんに怒られますよ」

「構わぬ。それより馬で遠出しないか?」

「馬で?」

「宮殿は色々面倒だからな」

「はあ、ところで僕の乗馬用の服は?」

「術でなんとかならぬのか?」

「魔法使いじゃないんですから」


 ユフラは兵士の衣装部屋へと桃馬を案内した。


「さあ、好きなのを選べ」


 ユフラが退室すると、桃馬はササッと乗馬用の衣装を選んだ。アンドブレインの為せる能力である。


「匂いばかりはどうしようもないか」


 そう思った瞬間、桃馬の嗅覚が衣装の匂いに対して鈍感になった。アンドブレインが嗅覚をコントロールしたのだ。


「便利な身体になったもんだ」


 桃馬は衣装に着替えてユフラの元へ急いだ。


「お待たせしました」

「よく似合うぞ。さあ、行くぞ」


 ユフラは馬小屋へと桃馬を連れていき、王族専用馬の「スファニア」

挿絵(By みてみん)を桃馬に披露した。


「すごい毛色だ。正しく黄金の馬と言うべき馬ですね」

「先祖代々、王族のみが乗り、世話もしている。馬も特別な牧場で先祖代々、我が王族に使える一族が馬を育ててくれている」


 桃馬はなんだか恐ろしくなってきた。


「トウマにはこの馬しかあるまい」


 ユフラが指し示したのは、アンドマンと共に戦った例の馬である。


「折角だから、名前をつけてやったらどうだ?」

「そうですねえ。あっ、ヤスケにしましょう」


 名付けられた馬は近づいてきた桃馬に鼻先をこすりつけた。


「あははっ! そうか、気に入ったか? よしよし、今日からお前はヤスケだ」

「良かったな、ヤスケ。さあ、スファニアと共に参ろう!」


 ユフラは荷物を桃馬に渡し、スファニアに跨った。


「ヤスケ、少し重くなるが頼むぞ」


 桃馬はヤスケの首元を優しくなで、荷物を後ろに縛りつけて少しもたつきながら跨った。


「まずは門まで行こう」


 ユフラに続いて桃馬もヤスケを歩かせた。


「トウマ、馬はイスではない。そのようにドカッと腰を降ろしては駄目だ」

「あっ、はい。ヤスケ、ごめん」


 ヤスケは「気にするな」とばかりに歩みを進めた。


「見廻りを兼ねて、トウマと出掛けて来る。昼過ぎには戻る」


 門番にそう伝えたユフラはスファニアの右脇腹を強めに蹴り、桃馬に「続け!」と左手で大きく手招きをした。


「頼むぞ、ヤスケ」


 アンドブレインが桃馬に競馬騎手ばりの乗馬技術を授け、ヤスケをユフラの元へ走らせた。


「アンドマンの能力って怖いな」


 自分の意思がアンドマンの能力についていっていない桃馬である。


 ユフラはアナーク王国で一番広くてきれいな「モフリ湖」で馬を停めた。桃馬もすぐに到着した。


「トウマ、あの小屋で馬たちを休ませよう」


 ユフラは小屋の前で馬を降り、手綱を引いて小屋に入った。桃馬も同様の行動を取った。


「この棒に手綱を縛りつけて水や野菜を近くに置いてやるのじゃ」


 桃馬は「ゆっくり休め」とヤスケをなで、ユフラの指示に従った。


「荷物の中にパンと茶が入っている。湖に張り出している小屋で食事としよう」


 桃馬に荷物を持たせ、ユフラは湖の小屋へと進んだ。桃馬は人使いの荒い妻・咲江を思い出した。


「やっとトウマと二人きりで話ができるな」


 湖の小屋に到着し、桃馬が荷物をテーブルに置くとユフラはサッと竹製の水筒二個とバケットに干し肉やレタスやトマトを挟んだサンドイッチを並べた。


「これ、王女様が作られたんですか?」

「ヒレンエにも手伝ってもらった」


 桃馬はヒレンエからの当たりが強くなることを覚悟した。


「今日は私の二十六回目の誕生日じゃ。年一回の我がままとヒレンエも許してくれるはずじゃ」

「それはおめでとうございます」

「贈り物はよいぞ。すでに二度も助けてもらっているからな。ちなみにトウマはいくつになる?」

「二十七歳になったばかりです」

「年上か? まだ二十歳にもなっていないかと思ったが」


 桃馬はユフラが咲江と同い年であることに運命かもと思った。


「まずは食事としよう」


 ユフラはサンドイッチ一切れを桃馬に渡し、自らも一口食べた。桃馬も合掌礼拝してサンドイッチを口にした。


「パン、堅いな」と心でつぶやき、少しでも軟らかくしようとお茶を飲んだが、ユフラから顔をそむけてむせこんでしまう桃馬である。


「どうした? 茶が苦いか? トウマはやはり子供じゃのう」


 桃馬は勤務先の忘年会での罰ゲームで飲んだセンブリ茶を思い出した。


「こ、このお茶、さぞかし身体にいいんでしょうね?」

「この茶のおかげで医者は暇を持て余している」


 アナーク王国に来てまだ二日しか経っていないが、砂糖の甘さや過度な脂っこさを感じていない桃馬である。


「昨日の宴でも、酔っぱらう人はいませんでしたね」

「我々は酒に強くない民だからな。一部を除いては」


 ユフラの表情がわずかに曇ったのを、桃馬は見逃さなかった。


「トウマ、私の両親はギデハに毒殺された」

「ギデハって、一体何者ですか?」

「父上の弟、諸国で学び我が国を変えようとしている」

「変える? アナーク王国をですか?」


 ユフラはサンドイッチ一切れを平らげた。


「幼い頃、ギデハは色々な国の事を教えてくれた」


 桃馬はユフラの複雑な思いを受け止める覚悟をした。


「私は今のアナーク王国を守りたい。例え、他国に比べて劣るとしても」

「他の国民は他国のことを知っているのですか?」

「一部の者はな。文明とやらが発達して便利にはなるらしいが、美しい自然が汚されるのは耐えられぬ」

「ギデハはアナーク王国の文明を発達させたいと?」

「富を増やしたいそうだ。私には理解出来ぬ」


 桃馬はギデハについていった方が快適な生活が出来ると考えてしまった。


「ギデハはなぜ、アナーク王国にこだわるのでしょう? 自分が文明生活をしたければ、その国に行けば良いものの」

「ガエーヌがそそのかしたのであろう」

「ガエーヌ?」

「ギデハが他国で娶った妻じゃ」


 桃馬はようやくサンドイッチ一切れを食べきった。


「そのガエーヌがギデハにアナーク王国の王座に着けと?」

「飽くまで私の想像だがな」


 桃馬はユフラが叔父夫婦を呼び捨てしている事に、王女としての責務を果たそうとしているのだなと痛感した。


「おいおい、アナーク王国の歴史は教えていく。太陽があの一番高い山に重なったら宮殿に戻るぞ」


 桃馬はアナーク王国に「時刻」と言う概念は無いことを知った。


「王女様、もしギデハが他国に行きさえすれば?」

「余計な事を言うな!」


 桃馬は自分が出来る事、つまりアンドマンとして敵を倒す事に専念するしかないと無理に納得を試みた。


「王女様、僕はいつまでこの世界にいられるか分かりません。ただ、ギデハ一味を全滅させたらアナーク王国を去ります」


 桃馬はユフラに自分が叔父夫婦の仇になってしまうことを敢えて告げたのである。


「トウマ、そなたは何も悪くない。だから、そんなことを言うでない」


 ユフラは桃馬の手を握った。


「王女様、僕には妻がいます」

「ただの労いじゃ!」


 ユフラは桃馬の手を強く握るまでにとどめた。


「そのお心遣い、有難き幸せです」

「しっかりと励め」


 ユフラは甘味の茶葉をヒレンエに探させようと思いつつ、桃馬の手を離した。


「さあ、まだまだあるぞ」


 桃馬は顎が強くなることを期待して、再びサンドイッチを手にした。









皆様、いつもご愛読いただきありがとうございます。


今回は桃馬とユフラの心の交流、そしてユフラの両親やギデハ夫妻等について描きました。


桃馬はアンドマンになったことで様々な能力を得ると同時に、ヒーローとしての業(ギデハ一味を倒すことで、ユフラにとっては叔父夫婦の仇になってしまう事)を背負う覚悟を決めたようなんですが。


さあ、気分を変えて今回もやります!


アンドマン・スペックその3


アンドスキン・・・あらゆる攻撃、状況に耐える強化皮膚。海中では潜水服、宇宙では宇宙服の機能を果たす。


いいねや評価、感想、そしてブックマークの登録もよろしくお願い致します。


では、次回もお楽しみに!

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