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語らぬ乱入者

 夕方になり、ハヌリーロ宮殿の広場では子牛の丸焼きやビーマン、玉ねぎや人参などの野菜串焼きなどが井桁に焚べられた炎の上の金網で焼かれていた。


 桃馬は子牛一頭を丸焼きにして火が通るのか心配だった。なぜなら肉の柔らかさより、焦げた香ばしさを重視するゴリゴリのウエルダン派だからである。


「トウマは焦げた肉が好みなのか?」


 桃馬が肉の一片を串に刺し赤身を焦がしているのを、ユフラは不思議そうに眺めながらレアの肉を頬張っていた。


「僕の国でも生焼け肉が好きな人はいます。でも僕は焦げた肉のほうが香ばしくて好きです」


 桃馬が焦げた肉を美味しそうに食べているのを見て、ユフラも肉の一片を串に刺し、ソースを垂らして火にかざした。


「焦げた肉がこんなにも良い匂いがするとは、皆の者! 肉を焦がしてみよ」


 若い兵士達は「うまそうだな」と次々と肉を焦がし始めたが、老兵らは「身体に悪い」と柔らかいレアを頬張りながらぬるいビールのような酒を飲んでいた。


「美味じゃ!」


 ユフラは焦げた(ウエルダン)を一口食べて絶叫した。桃馬はアナーク王国の将来に少し不安を抱いた。


「トウマの国ではこんな美味しい肉を食べておるのか?」

「は、はあ。醤油とかあればもっと美味しいと思います」

「ショウユ? 少ないお湯の事か?」


 桃馬はアナーク王国の言語に疑問を抱いた。文化は西洋風なのに日本語で普通に会話が出来ている。しかもユフラが「醤油」と聞いて「少湯」と連想するのを見て、熟語を理解している事を確信した。


「王女様、僕は違う世界から来てアナーク王国の事は何もわかりません。恐らく文字も読めないと思います」

「気にするな。分からぬ事は私に聞けばよい」


 桃馬は深く考えるのをやめることにした。これが「異世界」なのだと腹を決めたのである。


「おっ! 旅の一座が我らの勝利を祝いに来たぞ」


 兵士の一人が指差した方から、全身を熊とおぼしき毛皮で覆った一団が各々楽器を奏でて桃馬らの前で踊り始めた。


「王女様、宮殿は誰でも出入り自由なんですか?」

「否、門番が身元を確認して私に許可を求める手はずになっている」


 ユフラは「門番の元へ急げ!」と兵士に告げると、一団は兵士らを邪魔するように更に大きな音を奏でた。


「あっ! あの時の馬だ」


 アンドマンと共にパウマの騎兵隊と戦った馬が、傷ついた門番を乗せて桃馬らの前で止まった。


「お前にもまた助けられた。早く手当てをしてやれ!」


 ユフラの命に若い兵士数人がいち早く対応した。桃馬も馬に近づき首元を優しくなでた。


「よくやってくれた。ありがとう」


 馬は鼻先を桃馬の頬に軽く触れさせると、一団に向かって鼻息を荒らした。


「グラスオフ!」


 桃馬はメガネを外してアンドマンとなった。


「感じる! こいつらは人間じゃない」

「魔物なのか?」

「王女様、みんなを安全な場所へ」

「トウマ、否アンドマン。そなた一人で?」

「弓矢とか剣は通用しないと思います」

「分かった。アナーク王国の王女として命ずる、決して死ぬな」


 アンドマンはうなずいて一団に向かって行った。


「皆の者、宴は中止じゃ! まずは門の守りを固めよ!」


 兵士達は食べかけの肉などに意を介さず、各々の持ち場へ向かった。


「お前達はギデハ一味なのか?」


 アンドマン、いや桃馬は密かに亡き父が幼い頃に見たという特撮ヒーローの決めゼリフを口にしている自分をカッコイイと思った。


 一団は各々の楽器を武器にアンドマンに襲いかかってきた。シンバルらしき楽器がアンドマンに向かって投げられたが、アンドマンはそれらを蹴り返した。


「何?」


 蹴り返された楽器が一団に当たった時、空のドラム缶を叩いたような音が響き、しかも声も上げず当たった箇所を押さえることさえなかった事に、アンドマンは驚きを隠せなかった。


「ロボット?」


 アンドマンはジャンプして一人の毛皮を剥ぎ取った。

挿絵(By みてみん)


「何だ? 金属で出来ているが、機械音が全くしない」


 人間の形をしているが、鉄むき出しで関節が無く身体の各部分が連係して人間の動きを成しているのである。


「透明人間なのか?」


 一団がアンドマンを取り囲んだ。


「一気に片付けてやる!」


 アンドマンは飛びかかってくる一団の一人に狙いを定めた。


「アンドマグネティックビーム!」


 アンドマンはまたもジャンプして、一団の一人に額のクリスタル(アンドクリスタル)から光線を浴びせた。


 光線を浴びた者が人間の形を維持出来ず、グシャと丸まったかと思うと、他の者もくっついて一団がカタマリとなった。


「一人が磁石になったら、お前達もくっついて動けまい!」


 アンドマンは両手を合わせて一団に向けた。


「アンドアシッドシャワー!」


 アンドマンの両手から強酸性水が勢いよく吹き出し、一団を瞬く間に錆びつかせた。各部分が形を保てなくなりパラパラと崩れ始めた。


「まだ少し明るいが、ぱあっと行くぞ!」


 アンドマンはマントを翻して突風を起こし、錆びた鉄くずとなった一団を空高く舞い上げ、右手を空に向かって広げた。


「アンドスパーク!」


 アンドマンの右手から火花の矢が無数に放たれ、空に舞った一団に当たると次々と発火して花火のようになり、跡形もなく消えていった。


「アンドマン、見事じゃ! 礼を言うぞ」

「王女様、お怪我はありませんか? 他の人達も無事ですか?」

「みんな無事じゃ。さあ、肉に火を入れ直して宴の続きじゃ!」


 ユフラは子牛の丸焼きを切り分け、肉片を串に刺しウエルダンになるまで焼くと、変身を解いた桃馬に渡した。


「さあ、いっぱい食べて次の(いくさ)に備えるがよい」

「は、はあ。あの、申し訳ありませんが、少し疲れましたので、休ませてください」

「そうか、術を使うのも大変なのだな。ゆっくり休むが良い」


 桃馬はユフラや兵士達に一礼して部屋に戻っていった。


「ふう、続けて変身するとこんなにも眠くなるのか?」


 ベッドに入るとスースーと寝息を立てる桃馬であった。


 


 


 

 




 

 



いつもご愛読いただきありがとうございます。

前回から間が開いてしまい、大変申し訳ありません。


アンドマンを襲った鉄の一団の正体は?

ギデハ大公一味なのか? 

はたまた、新たな敵なのか?


それは次回以降のお楽しみとしまして、前々回から始まりましたアンドマン・スペックのコーナーの第二弾もお読みいただけたらと思います。


アンドマン・スペックその2


アンドブレイン・・・敵の弱点をいち早く察知し攻略法をあみ出す。また、あらゆる状況に合わせて体質を変異させる。


本作以外にも、


「良寛さんにはなれない」


「阪下駅のおにぎり屋」


「先輩を高杉クンと呼んだ夏」


をお読みいただき、感想や評価、ブックマークの登録などもよろしくお願い致します。


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