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ハズレ王子〜輪廻の輪に乗り損なった俺は転生させられて王子になる〜  作者: さつき けい


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99/101

99・幸福というものは


 双子公子には名誉国民という称号が贈られた。


俺が前世の記憶から、


「国にとって良い行いをした人にあげる賞状みたいなもの」


と、ヴェズリア様に説明したら採用された。


ブガタリアの国の貴族と同等の身分となる。


式典の費用以外には特に金銭が動くわけではないので、どこからも文句は出ない。


だって、姫を呼び寄せるためのエサでしかないんだから。


 そのお知らせの公文書と双子公子から母親に宛てた手紙を持って、王弟殿下とシェーサイル姫はシーラコークへ旅立って行った。


ピア嬢も一緒に。


 王弟殿下と姫は無事に話が進めば、ヤーガスアに行くために近いうちに再びここを通る。


だけど、今度ピア嬢に会えるのはいつになるのか、俺には分からない。


一行を西の砦まで、俺はテルーに乗り遠くから見守る。


ピア嬢は西の二つ目の壁からブガタリア側に手を振って、別れを惜しんでくれた。


俺が見ていることが分かっていたのかもしれない。




 出発前日、俺とピア嬢はようやく二人っきりになれた。


ピア嬢に、小赤の池や新しく増築した綺麗な厩舎を案内し、チィチィやグロンの子供たちを紹介したら喜んでくれた。


「コリルが贈ってくれた山羊も元気よ」


「そか、良かった」


山羊は家畜なので、ブガタリアにいたら肉になってたかもしれない。


小さくて可愛い品種だったから可愛がってもらえて良かった。


 それからテルーにピア嬢を乗せて飛んでみた。


「ゴゴゴも乗り心地が良かったけど、大鷲も最高ね」


俺にとっては魔獣を怖がらないキミが最高だけど。




 あまり魔獣を怖がらないのも、ちょっと困るなと思っていたら、グリフォンに見つかった。


「うおっ、テルー逃げろ!」


ピィーー


グリフォンの魔力なのか、見えない圧力が半端ない。


【ヤー、コワー】


西の崖に向かったけど少し遅かったみたいで、グリフォンはかなりこっちに近付いて来た。


「ごめんなさい、私が乗ってるから」


ピア嬢は自分のせいで速度が落ちたのではないかと怯えている。


いや、それはないよ。


だって、俺は魔力増強指輪を装備してるし、テルーは翼も風魔法も前より強くなってる。


単にグリフォンは格が違うのだ。


「あ」


俺が気の抜けた声を出すとピア嬢が首を傾げた。


「コリル。 お邪魔だったか」


すぐ側にグリフォンが平行して飛ぶ。


「……陛下」


父王と父王のグリフォンだった。




 とりあえず、テルーの巣の近くに降りた。


テルーが怖がるので、俺はずっと羽を撫でている。


「陛下、大鷲には近づかないようにお願いしてるはずですが」


「あははは、すまんすまん」


どうやらグリフォンが勝手に動いたらしい。


 ピア嬢は興味津々だが、とにかくグリフォンの『近寄るな圧』が強い。


「ふあ、す、すごいですね」


ピア嬢は初めて見るグリフォンに圧倒されていて、俺の服を掴む手が震えている。


 少し場を和らげようと、俺はグリフォンに話しかけた。


「えっと、お名前は分かりませんけど、その、陛下のグリフォン様。


申し訳ありませんが、少し威嚇の力を下げていただけませんか」


グリフォンの目が一瞬見開いた。




 空を飛ぶ魔獣というものは基本的に風魔法を使う。


グリフォンは魔獣の森の王なので、風魔法の他にも使えるとしたら威圧系の魔法かなあと思った。


「ん?、威嚇?、なんだそりゃ」


父王は首を傾げた。


長年というか、産まれた時からグリフォンと付き合っている父王は慣れてしまっているのかもしれないが、慣れない者にはかなり辛い。


 段々と圧が弱まってきた。


「ふう、ありがとうございます」


グリフォンは俺の顔をじっと見ている。


あー、なんか以前にも、こんな風に見られたことがあったなあ。


「あの、もしかしたら俺に何か御用ですか?」


グリフォンの目が細くなる。




【おかしな魔力を持つ者よ。 おぬしは神の遣いか】


は?、いやいや、違うけど。


え、 こ、声、が、聞こえた!。


 パニクってる場合じゃない。


父王やピア嬢には聞こえていないみたいだ。


二人に嘘をつくわけにもいかない。


心の声なら届くかな。


(いいえ、遣いではありません。


ただ違う世界で命を落とし、輪廻の神様に助けられて、この世界に転生した者です)


【なるほど】


届いたみたいだ、良かった。




 しばらく沈黙が続き、俺とグリフォンが見つめ合っていることに気付いたピア嬢が、不安になって、俺の服を引っ張る。


俺は、そのピア嬢の手を安心させるように撫でる。


「あのー」


そろそろ解放してもらおうと思ったら、また声がした。


【頼みがある】


(あ、はい、なんなりと)


【うちの若いものがそこの大鷲と話をしたいそうだ。


会わせてやってくれぬか】


あ、ああ、俺はずっと若いグリフォンに近寄らないよう、テルーに言い聞かせてきたからな。


(分かりました。 申し訳ありませんが、立ち会っていただけますか?)


【ふむ、よかろう】


若いのが暴走しちゃ大変だからな。




「陛下、今日、ヴェルバート兄様はいつ頃グリフォンの訓練に出られますか」


俺はグリフォンを見つめたまま父王に訊いた。


「そうだな。 おそらく、陽が傾きかけてからだから、そろそろ出て来るだろ」


父王のグリフォンが頭を上下した。


「陛下、申し訳ないんですが、ここに連れて来てもらえませんか」


父王が驚く。


「コリル、お前、大鷲をグリフォンに会わせたくないんじゃないのか」


俺は父王に顔を向け「ちょっと用事があって」と頼んだ。


「分かった」


俺がグリフォンと何かあったと察したらしく、父王は眉を寄せたまま乗り込み、飛び上がった。




 しばらくして、二体のグリフォンが森に現れた。


何故かギディやエオジさんたちまでゴゴゴで追いかけて来る。


「コリル!」


以前、グリフォンに追い掛けられたのを見ていたエオジさんの顔が青い。


「ここですよ」


俺はそう言いながら、手を振って呼び寄せた。


「何かあったのか?」


「いえ、何も」


あるとすれば、これからだ。


 俺は、ピア嬢をエオジさんに預けてテルーに乗る。


「テルー、大丈夫だ、怖くない。 パパがついてるからね」


ピーピーピー


怖がってるな。


俺は首の辺りに抱き付いてヨシヨシと撫で続けた。




 空から二体が下りてくる。


若いグリフォンが落ち着きなく足を踏み鳴らし、翼をバタバタする。


「こ、こら、静かに」


ヴェルバート兄が慌てるが、父王のグリフォンが何か言ったようで、大人しくなる。


父王とヴェルバート兄がグリフォンから降りた。


俺もテルーから降りると、父王のグリフォンがテルーに近寄って来る。


 さっきのような威圧は感じない。


【しばらく我らだけで話をするが良いか】


(はい、どうぞ)


俺たちは少し離れた。




 突然、テルーと若いグリフォンが飛び立ち、父王のグリフォンが俺たちのところに来た。


【すまないが、しばらく遊ばせてやってくれ】


(はい、それは構いませんが、何かあったのですか?)


【ふむ、話しても良いか】


父王のグリフォンの話では、テルーが卵のときに巣から落ちてしまったのは、どうやら若いグリフォンが原因だったらしい。


それをずっと気にしていて、似たような大鷲を見かけると追い回して謝ろうとしていたらしい。


「は?、それだけですか」


【うむ、そうらしいな】


今はすっかり仲良さげに、二体で戯れるように飛んでいる。


「コリル、何があったんだ」


父王やエオジさんが、飛んでいる若い二体を心配そうに眺めている。


俺と父王のグリフォンは並んで空を見上げていた。




「幸せだなあって思って」


俺がそう答えると、ヴェルバート兄が俺の隣に来て、同じように空を見上げた。


「あー、そうだな」


兄様はそう言いながら、まだ少し低い俺の肩を抱く。


今まで悲しくて悔しかった記憶が、怖かった思いが、なんだか夕陽の中を飛ぶ二体の影のように空に溶けていくみたいだ。


 俺は、もうすぐ前世で命を落とした十四歳の初夏を迎えようとしていた。



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