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83・謁見というものは


 俺は、またもやバカ丁寧な文章を書く。


ブガタリアの紋章入りの手紙なので、後で父王の承諾は必要になる。


会議用の別室で三人で書いていると、ズキ兄が「あ」と声を上げた。


「しまった。 求婚用の魔道具が無い」


シーラコークでは求婚の時は相手に魔道具を贈り、相手がそれを身に付けることで承諾になるそうだ。


「魔道具なら何でも良いのですか?」


「今回は公主一族からの求婚ですから断られるということはないとは思いますが、ある程度の物は必要ですね」


と、双子の従者が答えた。


 それなりに高価で女性が身に付けるモノか。


なるほど。


婚約指輪みたいなものかな。


それが魔道具というのがシーラコークという国らしいなと思った。


 俺は母や妹たちのために色々シーラコークからお土産として魔道具を買って来た。


くだらないおもちゃもあれば装飾品もある。


女の子だからな。


「分かりました。 それはこちらで用意します」 


ズキ兄に頷き、俺は頭の中で、まだ渡していないお土産の中から選ぶ。




 手紙を書き終えて王宮に向かった。


真夜中でも父王の部屋には女性はいない。


一夫多妻の場合、夫が妻の寝室に向かうことはあっても逆はない。


そんなことをすれば女性たちがかち合って争いになるからだ。


 父王の寝室前にいる護衛に取り次ぎを頼んで中に入る。


「こんな時間に珍しいな」


「すみません、時間が惜しいので」


シーラコークから来ている者たちからの依頼で、早急に公子の想い人に求婚が必要なのだと説明する。


俺が大使宛に送るのは外相への支援のお願いだ。


「シーラコーク国内の問題ですので、ブガタリアは基本的に部外者です」


苦笑いの父王は側近に確認させ、俺の署名に国王の印を加える。


俺はまだ未成年だからな。


 翌朝、空が白み始めてすぐに、俺はテルーで西の砦に向かった。




 俺が出掛けてしまったので、その間、体調を崩したことにして父王との公の報告会を先延ばしにしてもらってある。


往復には、どんなに急いでも二日は掛かるしね。


その間に近衛騎士団と女性たちだけで報告会をやってもらい、父王にはねぎらいの言葉を掛けてもらえるよう頼んでおいた。


 真夜中までバタバタしたため、シーラコーク側は欠席。


俺が戻ってから改めての謁見になる。


王宮との対応はギディに、双子公子の警護はエオジさんとラカーシャルさんに任せた。


俺の警護はツンツンである。


キュルン


俺の背中に引っ付いて空を飛べるので、ご機嫌だ。


 


 シーラコークの要人がブガタリアに来て国王陛下に謁見もしないというのは、国が舐められてると思う者もいるだろう。


父王には簡単に事情を話しているので、他の高官や部族関係者を抑えてくれた。


「すべてコリルバートの考えだ」と伝えたって、後で聞いた。


げっ、それでいいのか?。


 ブガタリアは、ヴェズリア様が整理してくれるまでは割と内政がガバガバというか、いい加減だった。  


細かな統制は部族長によるところが大きく、王宮は外務の仕事が多いからかもしれない。


今の王宮内は人手不足もあるけど、あまり形式ばったことをうるさくいう者もいないのは助かる。


あのイロエストの嫌味従者が散々やらかしてくれたので、それに反発したせいでもあるらしい。


 父王は、肉体的な強さや、その男らしい容姿が国民から慕われている。


その国王の人気の一つがグリフォンだ。


人の心はコロコロ変わるけど、魔獣の信頼は変わらないと信じられていて、逆にいえばグリフォンに見放されたら王族は、というか、ブガタリアは終わる。


大切にされるわけだ。




 シーラコーク公主国の双子公子と、その従者が国王に謁見を賜る。


「私が兄のクェーオ、こちらが弟のズォーキ。


そして後ろに控えておりますのが、私たちが子供の頃から信頼している従者のリドイと申します」


「この度、ブガタリア王国ガザンドール陛下におかれましては、我々三名を快く迎え入れてくださり感謝にえません。


本当にありがとうございます」


国王と正妃、王太子、そして側妃と第二王子の俺が挨拶を受ける。


謁見室には、他に大臣相当の高官や側近、壁際に近衛兵等が並んでいた。




 一頻ひとしきり挨拶が終わったところで、別室でのお茶会になる。


ここから先は内密にとシーラコーク側からお願いされて、最低限の侍従や侍女、護衛を残して下げられた。


「実はもう一人、国王陛下にお礼を申し上げたいという者がおります」


クオ兄が父王の許可を得て、元ピア嬢の従者パルレイクさんを紹介する。


 実はピア嬢の父親である外相の部下だそうで、前世でいう外交官かな。


他国の言語の通訳をしていたと言ってたしね。


穏やかなメガネさんは今日はシーラコークの濃いグレーの正装だ。


シーラコークの正装は、ブガタリアの長衣に比べて腰が隠れる程度の上着と揃いのズボン。


サラリーマンのスーツぽい。


ネクタイは無いが、スカーフみたいなもので襟元が埋まっている。




「この度は、陛下、並びにコリルバート殿下には御助力を頂き、誠にありがとうございました」


深く感謝の礼を取る。


シーラコーク側の四人が揃ってのことだったので、王妃やヴェルバート兄が驚き、俺と父王は苦笑を浮かべた。


「いや、こちらこそ、コリルバートの我が儘ではご迷惑をお掛けしている。


ブガタリアがお役に立てるのであれば幸いだ」


威厳のある父王の言葉だけど、まあぶっちゃけ、悪いのは俺だしな。


俺も一歩前に出て、謝罪の礼を取る。


「巻き込んだのは私です。


突然の申し出を受けてくださって感謝いたします」


それからしばらくの間、お互いに「いえいえ、こちらが」「元はといえば我が国の」などと言い合いが続く。


いい加減に飽きた俺はため息を吐いた。


「もういいでしょう。


パルレイクさん、本題に入ってください」


場所が他国の王宮だし、こっちの王族が揃ってるからって萎縮するのは分かるけど話が進まない。


「は、申し訳ありません」


だから、それはもういいんだって。




 コホンとわざとらしく咳をして、パルレイクさんが話し出す。


「先ほど、シーラコーク外相から魔道具の通信で連絡が入り、無事にズォーキ殿下とピアーリナ嬢との婚約が成立いたしました」


その名前に反応したのはヴェルバート兄だった。


「ピア嬢?、それって」


事情を知らない者が一斉に俺を見る。


俺は「通信用魔道具なんてあるんだなあ」と、少しワクワクして聞いていた。


「あの、ピアーリナ嬢だよね。 コリルはそれで良いのか?」


険しい顔になったヴェルバート兄が、双子と俺を交互に見た。


あ、これは説明しないと不味い。




「えーっと、ズォーキ様とピア嬢の婚約をまとめたのは私です」


俺は確かめるように双子公子のほうに顔を向けて、頷くのを確認する。


「それはどういう意味かしら」


うわっ、ヴェズリア様の目が怖い。


俺はごくりと息を呑む。


「それは私からご説明させてください」


パルレイクさんが顔を上げて、俺を助けてくれた。


 そして、今回の双子公子のシーラコーク脱出の経緯と、それに対し公主陛下が俺に公女を押し付けようとしたことを話す。


王妃二人が複雑そうな顔をした。


国の王族としては避けられない問題だからな。


 しかし、父王からの手紙が手元にあったせいで、俺はそれを「子供だから、親に聞いて」で回避した。


「それならコリルがピア嬢をー」


なんて言い出すヴェルバート兄をヴェズリア様が目で制する。


ちゃんと最後まで聞きなさいってことですね、ワカリマス。


 


「今回の婚約は」


そして勿体ぶったパルレイクさんが晴れ晴れとした笑顔で言った。


「コリルバート殿下が二十歳になるまでの仮契約でございます」


「え」


ナニソレ?。


ていうか、そんなこと、俺は何一つ言ってないんだけど。


「コリルバート殿下からピアーリナ様へ、契約の魔道具を贈られましたので」


あ、これ、はめめられたのか、俺。



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[一言] パルレイクさんさぁ・・・(呆れ)
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