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ハズレ王子〜輪廻の輪に乗り損なった俺は転生させられて王子になる〜  作者: さつき けい


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76・契約書というものは


 建物に入り、執務用の部屋を借りる。


魔法があるこの世界では、公的機関には外部から様々な魔法が干渉しないようにされた部屋が必ずあった。


「これでよろしいですか?」


書類作成は事務方の職員に任せる。


魔力で加工された紙なので、書き間違いがあると大変なことになるからね。


俺には無理。


「内容を確認してください」


俺は作成してもらった書類を業者のおじさんに見せる。


「へっ、本当にこれでよろしいのですか?」


ピア嬢に観賞用の魚と、その稚魚がどの程度の金額で取り引きされているのかを調べてもらった。


当然、いつもの小赤よりかなり高い。


業者のおじさんが驚くのは無理もないくらいに。




「ええ。 その代わり、約束は守ってくださいね」


「も、もちろんです!」


そのための魔法契約書なんだから。


 信用していないわけじゃないけど、他でも高く売れると勘違いされても困る。


まだここから交配していかないといけないんだ。


長期計画なんだよ。


だから契約内容は、まずは最低十年間の取引継続。


そして、他者への販売の禁止で、それには情報も含まれる。


主な内容はそれだけだ。


 価格については、魔法契約ではなくて普通の契約書。


今回の価格を基本とし、十年の間にあまりにも市場価格とかけ離れた場合は、交渉しても良いと書き加える。


業者のおじさんにも都合ってもんがあるからね。


ヒセリアさんの実家だからっていうのもあって、そこは多少、ゆるめにした。




 お互いの魔力を込めて名前を記入する。


立会人がそれを見届けて、最終的な魔法をほどこす。


俺はポワンと光る契約書を一番近くで見ていた。


「この契約を破るとどうなりますか?」


魔法契約書は立会人の魔力により、契約に差が出る。


施せる魔法の拘束力が違ってくるのだ。

 

この立会人さんは、おじさんの出身国から来てる他国の人なので、魔法で使う言語も聞き慣れないものだった。


「今回は、資産の一部没収です」


「へえ」


俺がピア嬢に訊いて知ってるのは、違反した者の顔や腕に傷を付けるというもの。


一定期間消えず、契約を破った者だと誰にでも分かる。


 それに比べて、『資産』という不確かなモノを指定する魔法はかなり特殊だ。


これは結構厳しそう。


この立会人さん、かなりデキる人だ。

  

相手が王族だから業者のおじさんも気合い入れて呼んだんだろうな。




 応接室へ移り、しばらくの間、お茶とお菓子で接待して、契約魔法の話を色々聞かせてもらった。


 普通は子供が好奇心いっぱいで話し込んでいると周りの大人は微笑ましく見るものだが、その子供が俺だと周りの目はちょっと違う。


「殿下、近付き過ぎです」


「何言ってんの。 こんな珍しい魔法、近くで見たいじゃん」


休憩してたはずのエオジさんが、いつの間にか復活してた。


立会人の魔法を食い入るように見ていた俺の襟首を引っ張って引き離す。


業者のおじさんと立会人さんの顔が少し引き攣っていた。




 俺は体感した魔法は習得出来る。


だから、魔法なら何でも身体で覚えようとするので、エオジさんはやり過ぎだと心配していた。


「いつか大怪我しますよ」


ギディにもよく言われる。


「あ、ギディ、お帰り」


噂をすればナントカ。


「ただいま戻りました」


気が付いたら夕方になっていた。




 業者のおじさんたちを見送り、今度はギディたちの視察の報告を聞く。


「殿下もお帰りなさい。 ご無事で何よりです」


ギディは非常に疲れた顔をしている。


「王子様役、ご苦労さん」


「いえ、私はコリルバート様の名前をかたったわけじゃないですからね」


ちょっと揶揄からかったら睨まれた。


 ギディは、ちゃんと王子が都合で来られなくなった代理として視察を行ったらしい。


そうしたら何故か、


「殿下ってどんな方ですか?」


と、質問攻めにあったそうだ。


なんだそりゃ。


行かなくて良かった。


「ありがとう。 俺は非常に助かった」


「いいえ、どういたしまして」


ギディには何か特別報酬を用意したほうがいいかな。




 それより、夕食である。


「俺がいない間も作ってもらった?」


全員で食堂に向かいながら話を聞く。


「はい。 とても美味しい料理を、と言いたいところですが。


実はこの三日間、ブガタリアの普通の料理を、勉強のためだとおっしゃって作っておいででした」


厨房でブガタリアから来ている料理人に習っていたらしい。


確かに食材やら調理器具も違うかもしれないしな。


「じゃあ、味は今までと同じだったと」


ギディとラカーシャルさんが頷く。


お、おう、そうだったんだ。


まあ、それでも走るグロンの背中で固いパンや干し果物食ってるより良いと思うよ。


「あ、コリルバート様、お帰りなさい」


双子の公子が食堂で待っていた。




「留守をしてしまい、申し訳ありませんでした」


俺を筆頭にブガタリアの者が全員、謝罪の礼を取った。


相手が公子であり、こちらも王子だ。


今回、同等の身分の相手に失礼があったので、謝罪は当然しなければならない。


お互いに国が後ろにあるのだ。


 あー、これが王族が謝るということなんだな。


大袈裟に思えるけど、王族が簡単にそういうことをするなとエオジさんたちに良く言われる。


俺だけでは済まないってこと。


前世の記憶に引っ張られて、誰にでも頭を下げてしまう俺はやっぱりヤバかったんだ。


俺は背中にゾクッとするモノを感じてしまう。


相手が他国の人の場合は特に気をつけなければならない。


全員の気配を背中に感じながら、俺は心に刻んだ。




「いやいや、そんな」


焦ってオロオロする双子兄。


「謝罪を受け入れます」


そう言って礼を返す双子弟。


うん、二人を足して割ったらちょうど良さげ。


「それより、皆さん、冷めない内にどうぞ」


双子兄が指示をして料理を運び込む。


全員が席に着き、食事が始まった。




 俺はまたしても固まってしまう。


目の前の皿にあるのはどう見てもコロッケだ。


いや、もしかしたら。


俺は恐る恐るナイフで中身を確認する。


細かな肉が見えた。


「メンチカツ?」


一口、口に入れて涙腺崩壊、再び。


「ほう、美味い」


「これは、やはり魔獣の肉ですか?」


カチャカチャと食器の音と、ザワザワとする話し声。


その中で、俺は静かに涙を溢しながら一口一口味わっていた。


 おそらくソースは先日のハンバーグと同じものだろう。


形も同じ丸形になっているが、パン粉と卵をつけ、油で揚げたものだ。


味は、たぶん香辛料とかが少し違う。


だけどメンチカツ、俺の好きなメンチカツ。


「コリル様?」


今回は給仕ではなく、一緒に食事を取るため隣に座らせていたギディが心配そうに声を掛けてくる。


「何でもない」


そう答えて、俺はハッと顔を上げた。


双子だけじゃなく、多くの者が俺に注目していた。


「とても美味しいです」


泣き笑いの顔になってしまったけど、気持ちは伝わったようだ。


皆、安心した顔で食事を再開する。




 完食した。


ギディが何も無くなった俺の皿をじっと見ていた。


いや、何で皿を睨んでるの。 怖いんだけど。


「すみません、お話しがあります」


俺は双子と大使に部屋に来てもらえるように伝えた。


 部屋を変えて食後のお茶にする。


俺の部屋にギディ、エオジさん、大使に団長にラカーシャルさん。


シーラコークからは双子と、双子の従者だという若者が付き添う。


「今回も大変美味しかったです」


俺は双子兄に改めて礼を述べる。


「あはは、コリル様に気に入ってもらえて良かったです」




 さて、雑談はここまでだ。


俺たちは明日、公主宮に帰国の挨拶をして、明後日の早朝出立する。


最終確認が必要だ。


俺はハッキリ分かるように防御結界を張る。


「公子様方が滞在中、シーラコークの国としての通達、または問い合わせはありましたか?」


これには大使が答える。


「ご家族様からの問い合わせはありました」


母親の従者だと名乗る者が大使館に来たそうだ。


「それ以外は無いということですね」


大使が頷いた。



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